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足音
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全速力で走ったせいで、蒼の家に着いたのは6時25分過ぎだった。
(つ、疲れた……)
15分くらいかかったけど、まだ家を出てないと信じたい。
…あの男の人の感覚が尻のところに残っていて気持ち悪かった。
耳の奥に残る声と息遣いに、思わず吐きそうになって、そこにあった電信柱に寄り掛かる。
口をおさえて、ふーっと息を吐いた。
…でも、今から学校に行かないといけないんだから。
家にたどり着く前に、気分を切り替えるために少しだけ止まって息を整える。
「すーっ、はぁーっ」
寝坊したって言えば通用するかもしれないけど、こんなに急いでたら何かあったんじゃないかと蒼は心配しちゃうだろうから。
しばらく深呼吸をして、よし、と息を吸った。
「…――」
家にたどり着く前に、ふいに声が聞こえてきた。
(……?)
…蒼の声だ。
普段よりもだいぶ感情を抑えているような無機質な声で、よく聞き取れないけど敬語を使っているようだった。
こっそりと覗いてみる。
…黒くて長い高級そうな車がどこかに向かっていくところだった。
(こんな朝早くからどこにいくんだろう。早いな。)
感心しながら見ていると、その車を見送っていた蒼が不意にこっちに視線を向けた。
俺の姿を捕えた瞬間、その目が見開かれる。
「…っ、まーくん…?」
驚いたように声をあげて、駆け寄ってきた。
「あ、あの、いつも申し訳ないと思って、…今日、迎えに来ちゃった」
あはは、と笑いながら見上げれば、彼は何故か焦ったような表情を浮かべる。
じっと酷く心配そうに見つめられてその瞳に、何故かどきりとした。
「何もなかった?変なヤツに会ったりしなかった?」
「うん。大丈夫だったよ。」
疑われないように、考えておいた言葉を間髪入れずに返して頷いた。
「相変わらず、蒼は心配し過ぎだってば」なんて笑いながら、…朝会った男のことを思い出す。
ちゃんと、笑顔を浮かべることができているかわからない。
…でも、やらないと。心配させちゃいけない。
蒼は鋭いから、ぎこちなかったりするとすぐに見破られてしまいそうでどきどきする。
「……、(…もしかして、)」
あの男の人が言ってたことを思い出した。
(…もしかして、蒼はずっと俺を守ろうとしてくれてたのだろうか。)
いつからあの人につけられてたかなんてわからないけど、朝と帰りに一緒に学校に行こうって言っていたのはこの為だったりしたのかな。
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