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本編
第122話 マヨイは逃走する。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
僕が原竜に対して放った魔力弾は全く効かなかったのではなく、そこそこのダメージを与えていた。具体的には5つある体力ゲージの1つを1割ほど削ることが出来た。放った20000発の魔力弾が全て命中したわけではないけれど、20000発で2%も削ることができたのだから後は作業ゲーだろう。
そう思っていた時期が僕にもありました。
「……っな!?」
「きえちゃった!」
僕を睨みつけていた原竜の姿を確認した直後、原竜の姿が消えた。姿が見えない敵といえばイベントエリアにおける厄介なモンスターの代表格である透明獅子のようだ。すぐに探索技能を使って原竜の居所を探ると原竜は動いていなかった。
透明獅子と同じなら被弾すれば透明化が解けるはずだ。
「魔力弾×1000」
今度は1発でも命中させればいいので探索技能を使って見つけた原竜の周りに満遍なく魔力弾を放つ。狙い通り原竜のステルス状態が解けたことに安堵した直後、原竜の口から空を飛ぶ僕に向けて太い光線が放たれた。
「危なっ!?……っち」
ギリギリの回避できたと思ったのだけど、目測を誤ったのかダメージを受けてしまった。命中判定が発生する範囲が光線よりも広かったようだ。
「パパ、だいじょうぶ?いたくない?」
「痛くはな……パパ?」
「パパ!」
「いや、ちょっと待っ……うわっ」
ククルの看過できない発言に意識を割いて原竜から目を離してしまったのがよくなかった。再び放たれた光線が僕に直撃したのだ。ダメージは体力の1割強で済んだけど、バランスを崩してしまったことで頭からククルを落としてしまった。
「ククル!」
落ちていくククルを慌てて抱き止めようと追いかけたが、僕が追いつくよりも先にククルは姿勢を整えて空中でピタリと静止した。
「そうじゃん、ククルは飛べるじゃん……って危ない!」
再び放たれた光線の射線上には僕だけでなくククルもいる。
ククルは僕よりもステータスが低く、あの光線が直撃すれば間違いなく体力の半分は失われるだろう。その考えが頭をよぎったのは反射的にククルを庇って光線を身体に受けた後だった。
「パパ!?」
心配そうに鳴くククルを抱えて高度を上げる。
3度放たれた光線は威力こそ低いものの放たれる感覚が短く非常に厄介だ。しかも命中判定のある範囲を見切れてない。これ以上のダメージは避けたいので余裕を持って立ち回る必要がありそうだ。
…………………………………
……………………………
………………………
あれから40分近くが経ったが原竜の体力ゲージは残り1本まるまる残っている。2本目のゲージを削った直後から例の光線が僅かに追尾してくるようになった──威力も2割増しになっていた──からだ。回避を優先して立ち回っている僕のDPSが目に見えて落ちてしまった。
ちなみにDPSとはダメージパーセコンドの略で1秒間に与えるダメージ効率を指す指標のことだ。
[イベントエリア滞在時間が残り10分になりました]
40分掛けて原竜の体力ゲージを3本と5分の4削ったけれど、おそらく4本目を削り切れば原竜の行動に何らかの変化があるはずだ。ここから更にDPSは下がっていくだろう。
「これは間に合わないね。……帰るか」
残り10分では到底倒しきれないと判断した僕はイベントエリアを脱出することにした。被ダメージ覚悟で撃ち合えばギリギリ倒せるとは思うけれど、そうなればククルを守りきれない。
ゲーマーとしてはテイムしたモンスターを戦せるのが普通なんだけど、さすがに子猫の姿をしたククルをぶっつけ本番で戦わせたと藍香たちに知られたら何を言われるか分かったもんじゃない。
「これ、他のプレイヤーがいたらMPKだったな」
原竜はイベントエリアを出ようとする僕を追いかけてくるけれど光線が飛んでくる様子はない。戦闘中に何となく察していたけれど光線は足を止めないと使えないようだ。もしかしたら体力ゲージの4本目を削り切ったら解禁されるのかも知らない。
[イベントエリアから出ますか?]
はい
いいえ
もちろん"はい"を選択して僕はイベントエリアを後にした。
それなりに魔物素材を集めることは出来たし、周回するだけなら原竜を無視してしまっても良さそうだ。
【クレア:原竜の成体を倒したら同じ難易度のイベントエリアに行けなくなってしまいました】
【アイ:マヨイはまだイベントエリアかしら】
【マヨイ:ただいま。成体とは僕も戦闘になったけど倒しきれそうにないから逃げてきたよ】
【クレア:おかえりなさい】
【アイ:おかえり。原竜を倒した後、イベントエリアを出たところで例のイベントがまた発生したわ。倒した場合は回避できないみたいね】
【クレア:これからどうしますか?】
イベントエリアを出てギルドチャットで藍香たちと連絡を取る。
どうやら藍香たちも原竜と戦闘になったらしく、数分前にイベントエリアを出たばかりらしい。
しかも2人は僕と違って原竜を倒すことが出来たようだ。
【アイ:このまま違う難易度で原竜を無視して周回しましょう】
【クレア:はい!】
【マヨイ:僕も原竜は無視しようかな】
【アイ:そうね。イベント終了直前に倒せばいいんじゃないかしら】
【マヨイ:そうするよ】
お互いにステータスを見せ合ったりはしていないけど、おそらく僕の方が藍香よりもステータス平均は高いのだ。にも関わらず藍香が倒せた敵から逃げ帰ったという事実は僕にとって無視できるものではなかった。
藍香のことだから「こっちにはクレアもいたんだから気にする必要はないわよ」なんて言いそうだけど、それでも、なんだよね。
「絶対にリベンジしてやる」
「パパがんばてー」
この後、僕はククルを抱えてイベントを周回した。
そして根本的な問題に気がついてしまった。
「原竜がフィールドにいるってことは卵もないんじゃ……」
結論だけ言えば卵は見当たらなかった。
ククルの弟だか妹をテイムする計画は最初から破綻していたようだ。
「パパ、どこかいたいの?」
「どこも痛くはないよ」
これを藍香たちに知らせた後、間違いなく落ち込むだろう藍香たちを想像して今から気が滅入っているだけなんだ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
ククル→マヨイはパパ呼びになりました。
95の後に02が出るとは思ってませんでした。フラグ回収って実際にあるんですね……
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