上 下
135 / 228
本編

第121話 マヨイは遭遇する。

しおりを挟む

⚫︎マヨイ

「はぁ……あの子には学習能力がないわけ?」

「ないんじゃない?」

 連日のポカを母さんも重く受け止めたらしい。暁は夏休みの間はゲームをする時間を1日6時間までに制限されることになった。つまり今日はこれ以上ログインできない。
 個人的には6時間もゲームできるのだから罰になってない気がするけど、この手の制限を設けられたことのなかった暁はそれなりにショックを受けていた様子だった。

「3人で素材を集めますか?」

「……クレアは私で組んで、真宵はソロで周回しましょ。その方が効率よく魔物素材を集められると思うわ」

 確かに2組に分かれた方が魔物素材を多く集められそうだ。
 藍香とクレアちゃんが組むのはイベントエリアに出現する透明獅子がクレアちゃんと致命的に相性が悪いからだろう。索敵技能を持っていないクレアちゃんでは透明獅子の不意打ちを察知できず、ステータスが上回っている今でも下手をすれば殺されてしまう可能性があるのだ。

「みぃ?」

「ちょ、アイ!?」

「そうだったわね。ククルは真宵と一緒よ」

「みゃ!」

 藍香がかがんで僕に顔を近づけてきたので少し焦ったけど、どうやらククルが帽子の中から顔を覗かせたようだ。

「お兄さん顔が真っ赤ですよ?」

「い、いや、なんでもないよ」

「あら、ほんとね。熱でもあるのかしら」

「なんでもないって!先行ってるからね!?」

 本心から僕を心配してくれている様子のクレアちゃんとニヤニヤ顔で揶揄からかってくる藍香の2人から逃げるように僕はイベントエリアに向かった。


…………………………………


……………………………


………………………


「(魔力弾×20000)」

「みぃみぃ!」

 イベントエリアに入ってから僕は再び空から魔力弾を降らせるだけの作業を始めた。もはや聴き慣れた轟音が地表で鳴り響いている中、ククルは僕の頭をペシペシと叩きながら鳴いている。

「怒ってるの?うるさかった?」

「にー」

「怒ってない?」

「み!」

「…………うん、分かんないや」

 試しに問いかけてみたけど、よく考えたら僕に猫の言葉なんか分かるわけがないことに気がついた。こういう時こそ技能の出番だろう。僕は習得可能リストに何か役に立ちそうな技能がないか探すことにした。

「……って、なんかめちゃくちゃ増えてるじゃん」

「み?」

 空を移動しては魔力弾を降らせる作業の合間に習得可能リストを確認していく。中には面白そうな技能もあったけど、今欲しいのはククルと意思疎通が出来るようになる技能だ。

「モンスターと意思疎通が可能になる技能は言語理解初級、テレパス、テイマーマスタリーの3つか」

 言語理解初級は会話だけでなく文章の理解も可能になる技能だ。ただし、初級とあるように全てが理解できるわけではない。更に言えばモンスターの言葉が理解できるようになるだけでモンスターが僕らの言葉を理解してくれるわけじゃない。ちなみにプレイヤーはデフォルトで文章を翻訳する能力──簡易鑑定のようなもの──を持っているので市販の本を読むだけなら習得する必要はない。
 テレパスは意思ある存在との交信を可能にする技能らしい。プレイヤー間ならフレンドコールで足りるので基本的にプレイヤー以外と交信するために使うんだろう。しかし、この技能は相手もテレパスを習得していなければ意味がない。フレンドコールが使えない状況でなら役に立つかもしれないけれど、ククルはテレパスを習得していないので今回は却下だ。

「テイマーマスタリーかぁ……」

 最後のテイマーマスタリーはテイム関係の便利な効果を複数備えた技能だ。テイムしたモンスターと会話することが可能になるだけでなく、テイムの成功率上昇、テイムしたモンスターが暴走──制御不可能になること──する確率の低下、暴走した状態から元に戻るまでの時間短縮などテイムをメインに据えてゲームをするのなら必須とも言える技能だ。ただし、テイマーマスタリーを習得すると他のマスタリーと名の付いた技能が習得できなくなってしまう。僕としてはマナマスタリーを習得して魔力弾の性能を底上げしたいのだ。

「これならいけるんじゃ……」

 マスタリーと名のついた技能を複数習得する方法を求めて掲示板の情報を漁っていると習得済みの技能の名前を変更するアイテムについて書かれているのを見つけた。
 アイテムの名前はスキルファンウダー。習得済みの技能の効果を僅かに強化し、技能の名前を変更する効果はオマケだ。掲示板では「名前が変わる効果はネタとしては面白いけど実用性はない」と書かれている。技能の強化に関してはランダム性が強いため可もなく不可もなくという評価だ。
 僕は少し迷ったがスキルファンウダーを手に入れる前提でテイマーマスタリーを先に習得することにした。

「どしたの?」

「……ククルの言葉が分かるようになったんだよ……って言っても分からないか」

「わかる!」

 習得した途端、ククルの鳴き声が活発そうな女の子の声になって聞こえてきた。てっきり字幕みたいなものが表示されるようになるのだと思っていたので驚いたが、こちらの方がコミュニケーションが取りやすいので結果オーライだ。

「あ、分かるんだ……これからもよろしくね」

「うん!」

 こうして僕とククルがイベントを周回し始めてから1時間くらい経った頃、これまで遭遇してこなかったモンスターを発見した。そのモンスターはライオンの立髪を持った狼だ。モンスターの種族名は原竜、まだ幼体であるククルとは違い成体だ。ククルと姿形が似ていないけど、ククルも成長したらああなるのだろうか。

「ま、いっか。魔力弾×20000」

 ここまで広範囲に満遍なく放っていた弾幕と同じ数の魔力弾を1体のモンスターの周囲に向けて放つが、着弾と同時に舞い上がった土煙が収まるとそこには僕の方を睨みつける原竜の姿があった。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

動物が喋ることに抵抗がある方もいるかもしれませんがお許しください。ククルの精神年齢は1桁年齢後半を想定しているので漢字を使わない方針です。漢字を使っていたら誤字です。

ククル→マヨイの呼び方をダイスで決めます。
個人的に呼び捨てがベター(書きやすい)
次点でお父さん(ネタ的に書きやすい)
パパとご主人様はどうせ出ない。

01~05 パパ
06~50 マヨイ
55~95 お父さん
96~00 ご主人様
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「unknown」と呼ばれ伝説になった俺は、新作に配信機能が追加されたので配信を開始してみました 〜VRMMO底辺配信者の成り上がり〜

トス
SF
 VRMMOグランデヘイミナムオンライン、通称『GHO』。  全世界で400万本以上売れた大人気オープンワールドゲーム。  とても難易度が高いが、その高い難易度がクセになると話題になった。  このゲームには「unknown」と呼ばれ、伝説になったプレイヤーがいる。  彼は名前を非公開にしてプレイしていたためそう呼ばれた。  ある日、新作『GHO2』が発売される。  新作となったGHOには新たな機能『配信機能』が追加された。  伝説のプレイヤーもまた配信機能を使用する一人だ。  前作と違うのは、名前を公開し『レットチャンネル』として活動するいわゆる底辺配信者だ。  もちろん、誰もこの人物が『unknown』だということは知らない。  だが、ゲームを攻略していく様は凄まじく、視聴者を楽しませる。  次第に視聴者は嫌でも気づいてしまう。  自分が観ているのは底辺配信者なんかじゃない。  伝説のプレイヤーなんだと――。 (なろう、カクヨム、アルファポリスで掲載しています)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

処理中です...