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第3章
負の根源(10)
しおりを挟むざわめき、集まる視線を全て無視したアランはヒナセをそっと横抱きに抱き上げる。意識のない人間の体は普通重いはずなのに、驚くくらい軽かった。
もれ出そうになった感嘆符をぐっと呑み込み、より一層強く抱き込むと、ポカンと見上げる王の主治医へ「あの」と声をかける。
「どちらへ運べばよろしいですか」
「え……あ、あっ、はい!わた、わたくしめの処置室へお願いしてもよろしいでしょうかっ」
年齢もこの国での身分もアランの方が遥かに低いはずが咄嗟に敬語を放つ老年の医師は見るからに動揺し、何度も王へ視線を寄越す。その様子にため息をもらした王は「落ち着け」と宥め聞かせるように短くアランを紹介した。
「そいつはオリビアの弟だ。信用していい」
「!?オリビア様の!?そ、それはそれは……」
多方面から驚きの声が上がる状況に軽く会釈で応え、一番驚愕の表情で固まる医師に短く一言挨拶兼感謝を述べる。
「姉が大変お世話になりました」
「いえ――いえ、滅相もございません…わたくしにはオリビア様を助けることができず…」
感情の起伏が激しいらしい医師は、一度引っ込んだ涙が再びみるみるうちに溜まっていく。その様子に、早くヒナセへ処置を施して欲しいアランは珍しく対応に困りながらも、なかなか口を挟むことが出来ずヤキモキしているとそんなアランの気持ちが届いたのか「挨拶はまたにしろ」という王の鶴の一声で我に返った医師は慌てて先導を切り王の寝室を出ていく。
その後ろを追いアランも退出する拍子に、もはや空気と化していた今回の首謀者である男の前へ無言で立つ王の背中をそっと呼んだ。
「陛下…」
「我もこちらを片付けたらすぐ向かう。ヒナセのそばへ付いてやってくれ」
アランの立ち位置からでは表情が見えない王の心情が計り知れない。
怒りなのか、悲しみなのか―――
たとえその表情が見えていたとしても、果たして正確に読み解くことができただろうか…。そんな不確かなことよりも今アランが確実に出来ること、それはヒナセをいち早く安全な場所へ運ぶこと。こうしている間にも刻一刻とヒナセの命は蝕まれていく。
「――承知いたしました」
先の方で待つ医師を追いかけるため再び歩みを再開する際、いまだ男の近くに控えていたカイへ目配せを忘れない。心得たのかその場に残る意思を示す部下へ頷きで返すと、代わりルイがアランの後ろへ付き従った。
ヒナセを抱え王の寝室を出ると、既に窓の外は朝日が登ろうとしていた。
*****
「何か言い残したことはあるか?」
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(16件)
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こちらも面白いですねー❤️❤️❤️
更新楽しみにしています‼️
わぁ!こちらも読んでくださってありがとうございます。°(° ᷄ᯅ ᷅°)°。♡
ずっと更新止まっちゃっててすみません…💦完結できるようゆっくりゆっくり頑張ります💪🏻
最近、同盟国〜の更新がなくて寂しいです。大変かとは思いますが、気長に更新されるのをお待ちしています。
りこぴん様
嬉しいお言葉ありがとうございます〜!!職業柄31日まで仕事があり、年末がピークなので、このお話どころかほかのお話も数日止まってしまってて申し訳ない気持ちでいっぱいです(;ω;)
必ず完結まで書きたいと思っておりますので…その時はぜひよろしくお願いします!待っていただけているというのが本当にありがたいです(;ω;)
双子って、何かとセットで扱われやすいのかな。
でもそれぞれちゃんと別の人間なんだし、欲だって別々にあるはずなんだよね。
カイはカイとして、雛ちゃんと話す事が出来ると良いね。
【双子の片割れ〜カイ〜】
麻紀さん♡
感想たくさんありがとうございます!:;(∩´///`∩);:
双子がヒナセのお世話するように見えてまとめて3人のお世話をすることになるアラン、ほんとお母さんポジションお疲れ様です( ;ᵕ; )笑
普段テンションの高いルイの方が目立ちがちになってしまうんですけど、カイの落ち着いた雰囲気で珍しくヒナセも口数が多くなってるんだよって彼にも自信もって欲しいです( ˘ω ˘ *)
また番外編SSとかでそれぞれにフォーカス当てたお話書きたいなって思ってます♪