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第2章
ヒナセの自由(1)
しおりを挟むその後はたまに取り留めのない会話をぽつりぽつりと交わす程度で特に何をするわけでもなく、かと言って何か話さなくてはと焦る様な居心地の悪さもお互い不思議と感じず、二人並んでベンチに座りのんびりアランたちの帰りを待った。
その間、小鳥たちが餌を求め地面をつついては目の前を何度も飛び立っていく。
そんな自由な光景をヒナセはぼーっと眺めていた。
もし自分も、自由に飛び立つことが許されるのなら、果たしてその時はどこを目指すのだろうか―――
そう考えてみても、思いつくのはひとつだけ。
結局、何処へも行けず陛下の元に戻るのだろう。
それ以外、何も知らないのだから。
木陰の下、差し込む陽の光があまりにも気持ちよく暖かい陽気にうつらうつらと舟を漕ぎ始めた頃、遠くの方からヒナセを呼ぶ声が聞こえた気がした。ゆっくり顔を上げ辺りを見回して見ると、どうやらそれはヒナセだけが聞こえたわけではないらしい。
カイも同じく顔を上げ、声のした方を眺めていた。
「雛ちゃぁ~ん」
「あ、ルイたち戻ってきたみたいだね」
カイが指さす広場の入口。
じっと目を凝らすと次第に、それぞれ両手に何かを持ったルイとアランが意気揚々と戻ってくるのが確認できた。
アランを置き去りにするように一直線にヒナセの元へ駆け寄るルイは立ち上がるカイと入れ替わるように自然な流れでベンチへ腰掛けてくる。それは少し前、カイがルイの場所を引き継いだように今度はルイがカイの場所を陣取った。
「雛ちゃんお待たせぇ~色々買ってきたよ~」
「おかえりなさい、ルイくん。すごいいっぱい…ですね」
「何食べる?これとか熱々のうちがオススメ~」
肉を焼いてバンズに挟んだものや芋を細切りにして揚げたもの、はたまた新鮮な果物など、多種多様の食べ物を前に目をぱちぱち瞬かせ圧倒されているヒナセになどお構い無しに「これは?これとかどう?」と次から次へとオススメしていく。
そんな二人の様子にくすりと笑いながら、すっかり場所を奪われたカイは遅れてやってくるアランを出迎える事にした。
「おかえりなさい団長。随分たくさん買ってきましたね、持ちますよ」
「ありがとカイ。ルイが次から次へと露店の店主に声をかけていって、気付けばこの通り。お陰様で俺の財布は軽くなりました」
「ふふ、ルイのお守りありがとうございます」
アランが持っていた食べ物を半分受け取り、立ったままだが多少は落ち着くと「それで、進捗は」とさっそく切り出した。
ヒナセに聞こえぬよう背中を向けての会話は自然と声が抑えられていく。
「思った通り、いろんな情報を聞かせてもらえたよ。昨日の毒の件といい、近頃王宮内では不穏な動きがありそうだ…」
「なるほど…どの国も平和らぶあんどぴーすってわけにはいかないですねぇ…」
「……ルイみたいなこと言うなよ」
「ふふ、言ってみたかっただけです」
普段ルイと共に悪ノリはするカイだが、自らそういう冗談を言うのは珍しく、短時間のうちに双子が入れ替わり自分をからかっていないかつい疑いの目で見てしまう。
「やだなぁ、カイ本人ですよ」
「……」
「ホントですって、そんな目で見ないでください」
えっちぃと再び冗談を言うカイに諦めのため息を着くアランは気を取り直して一旦話題をを変えようと待っていた間のことを聞く。
「特に変わりは無かった?」
「問題なしですのんびりすごしてました」
「ん、了解。ありがとう」
「お易い御用です」
ふふっと笑ったカイとアランの間に流れる穏やかな雰囲気は次の瞬間、一瞬で姿を消してしまう事となる。
「あっ、ちょ、雛ちゃん!?」
今度はルイの焦ったような珍しい声に二人の意識は瞬時にベンチに座るルイとヒナセへと向けられた。
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