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第2章
ヒナセの自由(2)
しおりを挟むすとっぷすとーっぷ!というルイの制止に、口を開けたままピタッと動きを止めたヒナセは、「?」と不思議そうに首を傾げる。
ルイの声を聞いたアランやカイも集まりその場は一瞬騒然となった。
「どうした、ルイ」
「や、雛ちゃんがぁ…」
アランに問われ、すっかり眉が下がり困り顔のルイは自分の手ずから肉のホットサンドを食べようとしていたヒナセへ視線を向ける。
ルイの視線につられてアランとカイも同様にヒナセへ視線を向け、食べさせ合う事なんてルイカイの間ではよくやっている事じゃないか、それの何が問題なのか、と疑問に思い再びルイへ視線を向けると「違うんだってぇ」と騒ぎ出す。
「俺は純粋に、熱々の美味しいうちにどうぞ~の気持ちの、あーんだったのに雛ちゃんがぁ…」
視線が自分に集まっている事に焦りおろおろしながらも、小さな声で語ったヒナセの言葉に全員が息を呑む。
「え、えと…みなさんが口にする前に、先に確認…」
「いやいやいや、だからそれは―――」
「ヒナセ」
「っ!」
これまでアランから一度も呼ばれたことの無い名前を、しかも短く呼び捨てで呼ばれ、条件反射で肩がビクッと震える。
おずおずと顔を上げると、いままで見ていた柔らかい表情とは全く違う真剣な表情のアランが真正面からヒナセを見下ろしていた。
「ひぅっ」
座るヒナセを立ったまま見下ろすという行為がそれだけで威圧的だと気付いたアランは残りの手持ちの食べ物も全てカイに預けると、ヒナセの前に膝をつき目線を対等にした。
「ごめんね、怒ってるわけじゃない。でもね…」
優しい声音を意識して語りかけながら、まるで自分を守るかのように膝の上でギュッと握られている小さな手をチラッと見ると、僅かに震えていることを感じ取りそっと手を重ねていく。すると、再びビクッと大きく跳ねる手が逃げてしまわないよう強く握り込むとしっかり目を見て一気に言い聞かせる。
「ヒナセ、よく聞いて。少なくとも俺たちといる時はキミは守られる立場だ。自分を犠牲にしようとしなくていい。俺の言っている意味、わかった?」
「え………」
アランに言われた言葉にヒナセは強い既視感に襲われる。今と全く同じことを随分昔に言われたことがあった。
『ヒナセ、よく聞いてください。あなたはまだ子供です。守られる存在です。自分を犠牲にしようとしないで。わかりましたか』
それは昔、王妃様に言われた言葉―――
「っ、」
何年経とうが決して忘れることの無い、ヒナセと王妃二人だけで交した最後の会話。
何故、当時あの場に居なかった…ましてや存在も知らなかった他国のアランがこんなにも王妃と同じ事を言うのか…こんな偶然があるのか―――そう思っているところにふと、気付いたことが一つ。
長さは違えど、アランは王妃と同じ、陽の光にキラキラ輝くプラチナブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ。
そんな特徴を今になって気付いたその瞬間、唐突にアランに王妃の姿が重なって見えた。
性別も背格好も全然違うのに、まとう雰囲気が、まるで―――
「お……ひ…さま…」
「!」
つい漏れ出てしまったようにポツリと呟かれるヒナセの小さな声。
すぐ近くにいたアランはそれをしっかりと拾っていた。
何故、突然このタイミングで姉オリビアの事になるのか、ヒナセとオリビアのやり取りを詳しく知らないアランは不意の事に驚きから目を見開いている間も頭の中ではこれからの事をどう進めていくか忙しなく作戦会議が繰り広げられていた。
今、この場で言ってしまうか――?
アランが秘める、ヒナセとの繋がりを。
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