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2【子育て日記】

2-31 社交界の花(12)

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 膝立ちは疲れてしまうからと、向かい合ったまま楓真くんの膝の上に完全に腰を下ろすよう促されるのを僕は一度断った。
 それだったら元いた隣に座り直すから、と。
 けれど今度は楓真くんが断固として首を縦に振らなかった。腰に回った腕をガッシリホールドされ、イヤですと口でも顔でも態度でも示してくる。
 
 無言の攻防の末、結局僕が折れ、楓真くんの膝の上にペタンと座り込むような形で、気持ちは落ち着かないが形は落ち着き、話し合いが始まった。
 
 
 最初の口火を切ったのは僕。
 
 
「聞いても、いい?」
「なんでも」
 
 
 恐る恐ると言ったふうに楓真くんと目を合わすと、彼は本当になんでも答えますの姿勢を貫いてくる。
 そんな姿に背中を押されるように頭の中で何度も反芻した言葉を一気に吐き出した。
 
 
「楓真くんがさ、過去にどういう交友関係を築いていたのか僕は知らないし詮索しようとかそういうわけじゃないんだけど、でも、この人と将来結婚しようって約束してた人とか――」
「つかささんです」
「~~っ、一旦、僕以外で。そういう人はいた?」

「いません」
 
 
 心のどこか片隅でそう言ってくれることを期待していた通り、ハッキリキッパリ否定する曇りなき眼の楓真くん。
 
 
「でも、美樹彦さんは」
「美樹は、うーん…確かに海外に行ってた十代のほぼ全てを共にしてきました。でもそれは俺にとって真樹彦くんが兄で、美樹が弟っていう家族の括りだったから。それ以上にもそれ以下にもないです」
「そう…なんだ……」

 
 楓真くんがそうだとしても美樹彦さんの方は――?
 
 なんて、楓真くんに聞くのは違うだろう言葉を口からでる一歩手前で飲み込んだ。
 美樹彦さんの気持ちは美樹彦さんの物だから。
 手を出されるならまだしも、想うことすらやめてくれ、だなんて、いくら自分の番に対する事とはいえ言えない。
 言えるくらいの自信が、僕には無い――。
 
 
「次、俺も少しいいですか?」
「え、あっ、うんもちろん」
 
 
 黙って思考に耽っていると、楓真くんも発言権を求めるように片手を上げ伺ってくる。
 
 
「さっきの質問ですけど、つかささんが運命じゃなかったら、ってやつ」
「あ…うん」
 
 
 正直、その質問はもう僕の中で無かった事に等しかった。なのに、一度投げた僕の不安を楓真くんは律儀にもしっかり拾ってくれた。

 
「つかささんが運命じゃない世界線を想像できないし、したくないけど、でももしそうだったら」
「……うん」
 
「つかささんと出会うのはもう確定事項にして、接してるうちに自然と好きになったし、必死に好きになってもらう努力をしたと、都合よく考えちゃいます。だって、どんな世界でもつかささんを好きじゃない俺は存在しないから」
「!」
「つかささん大好き選手権で俺の右に出る物はいないですよ」

「っ―――僕も…僕も絶対、楓真くんを好きになってた」
 
 
 みるみるうちに水の膜で歪んでいく視界の中で、嬉しそうに笑う楓真くんの顔だけはハッキリ記憶に刻まれた。
 
 
 
 
 
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