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2【子育て日記】

2-30 社交界の花(11)

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「つかささん?どうしたの、突然…」
 
 
―――あぁ、やっぱり聞かなければよかった。
 
 押し寄せる後悔に、気付けば立ち上がっていた。
 
 
「ご、ごめんっ僕本当に疲れてるみたい、特に意味は無いから今のは忘れて?先お風呂頂いてもいいかな!そのまま先に寝るねおやす――」
「待って!!」
 

 楓真くんのおそらく困っているだろう顔を見ることが出来ず、俯いたまま早口で言い逃げるように立ち去ろうとする僕を――楓真くんは逃さなかった。
 
 ガシッと掴まれた手首がギリっと痛んだ。
 
 
「痛っ…」
「あ、ごめんなさい」
 
 
 謝りながらも、僕をその場に留める繋がった手はけっして離そうとはしない。そんな二本の手を追って恐る恐る上がる視線がやっと楓真くんをとらえた途端、その表情にハッとした。
 そこに浮かぶのは、困った表情でも、困惑した表情でもない、ただただ悲しそうな楓真くんがいた。
 
 
「楓真く…」
「ごめんなさい、また、俺、つかささんを不安にさせてしまってるんだ、って情けない自分に腹が立って、それで…」
「っ、楓真くんは悪くないよ!僕が勝手に…」
 
 
 お互い言葉が途切れ黙ってしまうと、シンと静まる部屋の沈黙が肌を刺すように痛い。何か言わなくてはと思えば思うほど、言葉を忘れてしまったかのように何も思い浮かばない。
 
 結局先に動き出したのは楓真くんだった。
 
 繋いだ手が優しく気遣うように引かれると、膝がソファへ乗り上げる。そのまま座る楓真くんの膝の上を導かれるまま跨ぐと膝立ちの状態で少し上から楓真くんを見下ろすような形で向かい合った。
 
 今度は腰に回された両腕がしっかりホールドして離さない。
 
 
「楓真…く、」
「つかささん、話し合いましょう。つかささんの不安に思ってること全部聞かせて?俺、なんでも答えるしつかささんが安心できるまでこの手を離したくない」
 
 
 だから、お願い。と懇願するように僕のお腹に顔を埋める楓真くんの旋毛を呆然と見つめてしまった。
 
 
 今夜のパーティーで改めて思った。
 楓真くんも楓珠さんも次から次へと挨拶に訪れる人の波は絶えず、誰もが羨望の眼差しを向ける‪アルファ親子であり、当然のように次期社長として期待されている楓真くんの隣に立つ僕は、すぐそこに居ながらも、見えない壁でひとり隔てられているようだ、と。
 その時はそう感じていた。
 
 
 だけど一方で、僕の番はこういう人だ―――
 
 プライドなど全て放り出し、平気でひとりのオメガに縋り付くかわいい年下の男の子。
 
 
「楓真くん、顔あげて?」
「……」
 
 
 僕の言葉にのっそり動く頭は、いまだ顎がお腹に寄せられたまま上目遣いで僕を見上げてくる。
 不安そうなその顔を両手で包み込み、目尻をそっと親指で撫でれば、されるがまま無防備に目を細める表情に、さっきまでの負の感情は何処へやら、どっと愛おしさが込み上げてくる。
 
 その表情はずるい。
 普段のアルファとしての威厳など皆無な、目の前のカッコよくてかわいい楓真くんは、ただただ年上として守ってあげたくなる。
 
 僕も大概、単純なヤツだ。
 
 
「お話しよ…楓真くん」

 
 こくりと頷く楓真くんに、あのね――と僕の不安を隠すことなく全て語る夜は、ある意味穏やかで静かにスタートした。
 
 
 
 
 
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