59 / 69
2【子育て日記】
2-30 社交界の花(11)
しおりを挟む「つかささん?どうしたの、突然…」
―――あぁ、やっぱり聞かなければよかった。
押し寄せる後悔に、気付けば立ち上がっていた。
「ご、ごめんっ僕本当に疲れてるみたい、特に意味は無いから今のは忘れて?先お風呂頂いてもいいかな!そのまま先に寝るねおやす――」
「待って!!」
楓真くんのおそらく困っているだろう顔を見ることが出来ず、俯いたまま早口で言い逃げるように立ち去ろうとする僕を――楓真くんは逃さなかった。
ガシッと掴まれた手首がギリっと痛んだ。
「痛っ…」
「あ、ごめんなさい」
謝りながらも、僕をその場に留める繋がった手はけっして離そうとはしない。そんな二本の手を追って恐る恐る上がる視線がやっと楓真くんをとらえた途端、その表情にハッとした。
そこに浮かぶのは、困った表情でも、困惑した表情でもない、ただただ悲しそうな楓真くんがいた。
「楓真く…」
「ごめんなさい、また、俺、つかささんを不安にさせてしまってるんだ、って情けない自分に腹が立って、それで…」
「っ、楓真くんは悪くないよ!僕が勝手に…」
お互い言葉が途切れ黙ってしまうと、シンと静まる部屋の沈黙が肌を刺すように痛い。何か言わなくてはと思えば思うほど、言葉を忘れてしまったかのように何も思い浮かばない。
結局先に動き出したのは楓真くんだった。
繋いだ手が優しく気遣うように引かれると、膝がソファへ乗り上げる。そのまま座る楓真くんの膝の上を導かれるまま跨ぐと膝立ちの状態で少し上から楓真くんを見下ろすような形で向かい合った。
今度は腰に回された両腕がしっかりホールドして離さない。
「楓真…く、」
「つかささん、話し合いましょう。つかささんの不安に思ってること全部聞かせて?俺、なんでも答えるしつかささんが安心できるまでこの手を離したくない」
だから、お願い。と懇願するように僕のお腹に顔を埋める楓真くんの旋毛を呆然と見つめてしまった。
今夜のパーティーで改めて思った。
楓真くんも楓珠さんも次から次へと挨拶に訪れる人の波は絶えず、誰もが羨望の眼差しを向けるアルファ親子であり、当然のように次期社長として期待されている楓真くんの隣に立つ僕は、すぐそこに居ながらも、見えない壁でひとり隔てられているようだ、と。
その時はそう感じていた。
だけど一方で、僕の番はこういう人だ―――
プライドなど全て放り出し、平気でひとりのオメガに縋り付くかわいい年下の男の子。
「楓真くん、顔あげて?」
「……」
僕の言葉にのっそり動く頭は、いまだ顎がお腹に寄せられたまま上目遣いで僕を見上げてくる。
不安そうなその顔を両手で包み込み、目尻をそっと親指で撫でれば、されるがまま無防備に目を細める表情に、さっきまでの負の感情は何処へやら、どっと愛おしさが込み上げてくる。
その表情はずるい。
普段のアルファとしての威厳など皆無な、目の前のカッコよくてかわいい楓真くんは、ただただ年上として守ってあげたくなる。
僕も大概、単純なヤツだ。
「お話しよ…楓真くん」
こくりと頷く楓真くんに、あのね――と僕の不安を隠すことなく全て語る夜は、ある意味穏やかで静かにスタートした。
19
お気に入りに追加
1,121
あなたにおすすめの小説
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
嘘つきαと偽りの番契約
ずー子
BL
オメガバース。年下攻。
「20歳までに番を見つけないと不幸になる」と言う占いを信じている母親を安心させるために、全く違いを作るつもりのないオメガの主人公セイア君は、とりあえず偽の番を作ることにします。アルファは怖いし嫌いだし、本気になられたら面倒だし。そんな中、可愛がってたけどいっとき疎遠になった後輩ルカ君が協力を申し出てくれます。でもそこには、ある企みがありました。そんな感じのほのぼのラブコメです。
折角の三連休なのに、寒いし体調崩してるしでベッドの中で書きました。楽しんでくださいませ♡
10/26攻君視点書きました!
溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集
あかさたな!
BL
全話独立したお話です。
溺愛前提のラブラブ感と
ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。
いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を!
【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】
------------------
【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。
同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集]
等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【BL】欠陥Ωのシンデレラストーリー
カニ蒲鉾
BL
【欠陥Ωシリーズ第1弾!出会い編】
フェロモンを一切感じない体質のΩ《橘 つかさ》は、長年自分を育ててくれた《御門 楓珠》の下、秘書として働いている。
そんなある日、海外留学から戻ってきた楓珠の息子《御門 楓真》が初対面のつかさを一目見た途端、公衆の面前で抱きしめ、運命の番と呼び、結婚宣言までしてきて――
欠陥だらけの自分に全く自信の無い卑屈Ωが、自分を運命と呼ぶ年下イケメンハイスペックαから好き好き大好き絶対幸せにする、と愛で溺れてしまうくらい溺愛されるシンデレララブストーリー
【受け】施設育ちの欠陥Ω(28)
【攻め】受け至上主義ハイスペックスパダリα(21)
《欠陥Ωシリーズ》
【第1章】「欠陥Ωのシンデレラストーリー」
【第2章】「欠陥Ωのマタニティストーリー」
【第3章】「欠陥Ωのオフィスラブストーリー」
【SS】「欠陥Ωの淫らな記録」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる