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2【子育て日記】
2-24 社交界の花(5)
しおりを挟む軽く10人は座れる程広いリムジンの車内で左手に楓珠さん、右手に楓真くんという無駄に近くで御門親子に挟まれ揺られること数十分。
都内とは思えない閑静な住宅街の最奥に現れた、まるでお城のように立派な洋風のお屋敷に続々と高級車が入っていく。そんなテレビで見るような光景を車の中から眺めている間に、僕たちの乗る車もエントランスへ到着した。
すかさず駆け寄ってきたお屋敷のスタッフが恭しく車のドアを開けるのを「ありがとう」とスマートに対応する楓珠さんをさすが普段から尽くされ慣れている人、さまになるなぁと眺めながら続けて僕も地面へ足をおろすと、目の前に差し出された手に一瞬きょとんと固まってしまう。
「つかさくん、足元気をつけて」
「楓珠さん……」
上げた視線のその先に、楓珠さんの安心する微笑みをうかべた見慣れた顔を目にした途端ついほっとしている自分がいた。
こんな煌びやかな世界とは無縁の人生を送ってきた僕はどうやら知らぬ間に緊張していたらしい。もう一度小さく息を吐き出すとお礼を言いながら楓珠さんの手を取り車から降りた。
向けられる笑顔に照れながらも同じく微笑みで返していると、すぐに降りてきた楓真くんに容赦なくベリっと引き剥がされ腰を抱き寄せられる。
チラッと見えたその表情はムッと口が尖り、このよう場で完璧に着飾っていてもなお楓真くんは楓真くんなのだと、さらに一層秘かに安堵していた。
「つかささん、パーティー中は絶対に俺から離れないでくださいね、よそ見禁止です」
「……はいはい、僕より楓真くんの方が引っ張りだこで大変だと思うんだけどね…。でも、こういう場は慣れてないからエスコートお願いします」
「お任せ下さい」
「お二人さん、行くよ」
7歳下とは思えない、すっかり社交界に慣れきった頼もしい笑顔に安心して身を委ね、既に少し先を行く楓珠さんの呼び掛けに二人で歩み出す。
頭を下げるお屋敷のスタッフに見送られながらお屋敷の中へ続く階段を登っていく。
腰に回る楓真くんの腕と、僅かに感じる身体全体に漂う楓真くんのフェロモンに包まれ、僕は守られている、と実感しながら俯きそうになる顔を堂々と上げ、御門の親子と並び御門の一員としてパーティー会場へ足を踏み入れた。
ざわっ
予想していたことだが―――
会場へ入った途端、四方八方から集まる視線。
「まぁ、あの方が楓真さんの?」
「オメガ男性って噂のか」
「元々旦那様の秘書をされていたのでしょ?息子に取り入ったのね」
「さすがオメガだな。アルファは敵わん」
聞きたくなくとも、不思議とそういう会話は鮮明に耳に入ってきてしまう。
「つかささん、大丈夫?」
それは楓真くんにも聞こえていたらしい。心配そうに顔を覗き込んでくる。
「……うん、大丈夫」
こんなことで怯んでいてはこの先この人の番としてやっていけない、そうとっくの昔に覚悟を決めていたはずなのに、いざ口から出た返事は自分でも驚くほど弱々しかった。
そんな僕の様子を捉えた楓真くんの空気がスっと冷える。
「今すぐ黙らせてきます」
「楓真くん!僕は大丈夫、大丈夫だから…近くにいて」
「……つかささん」
腰を抱く腕の力がより強まるのを心強く思いながら一度目を瞑ると、次に顔を上げたその表情に笑みを浮かべる。
「行こ、楓真くん」
「……はい。決して無理はしないでください。
でもね、つかささん。この場にいる誰よりもつかさが一番綺麗です」
頬を撫でられながら蕩けるような微笑みでそう告げた楓真くんの言葉に目を見張り、次の瞬間には作り物では無い本物の笑みがもれていた。
「ふふ、ありがとう」
どんな時でも僕を安心させ笑顔にさせてくれる楓真くん。
そんな楓真くんを一番近くに感じながら、立ち止まり待ってくれていた楓珠さんの元へ二人で向かった。
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