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3【招待という名の呼び出し】
3-5予期せぬアポイント(1)
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今まで通りとはいかないまでも少しずつ調子を取り戻して仕事に励む湖西くんと、今まで通り分け隔てなく接する花野井くんのコンビを遠目で眺めながら、たまにそこに参戦する松野さんを目撃しては一人でハラハラするという午前中を過ごし、あっという間にあと数分で昼休憩に入るというタイミングで受付から回ってきた一本の内線が、再び嵐を呼び起こす第二の始まりだった。
『橘さん、一柳宗介様の秘書の方から一番お電話です』
「え―――…ありがとう、ございます」
昨日の今日で記憶に新しい名前を、まさかこんなにも早くこのような場面で聞くとは思わず一瞬思考が停止しかけるも、現にいまかかってきている電話を取らないわけにもいかず、とりあえず受付にはお礼を言い内線を切ると、気付けば壊れそうなほどバクバク言っている心臓を少しは落ち着かせるため深呼吸を繰り返す。
が、何度深呼吸しようが変わらない自分の心臓に埒が明かないと見切りをつけ、震えそうになる手で点滅している一番のボタンをそっと押した。
「……お電話変わりました、秘書課、橘でございます」
『お世話になります、わたくし一柳宗介の秘書をしております長田と申します』
「……お世話になります」
長田と名乗る凛とした壮年の男性の声になんとか返事を返すことは出来たものの、この時受話器を握る手は細かく震えていた。
『突然のお電話申し訳ありません。弊社一柳が橘様とお会いする事を強く望んでおりまして、つきましては直近の橘様のアポイントをお取りしたくお電話させて頂きました』
「御門ではなく、私に、でしょうか…」
『はい、橘様でございます』
一柳代表といえば多忙を極める最たる人であり、アポイントを取るにも半年以上先まで埋まっていると業界では有名なお人だと言うのにそんな人が僕に会うため直近でアポイントを取りたい、なんて驚いて言葉も出なかった。
『橘様?』
「――あ、失礼致しました、一度御門に確認を取り次第折り返しお電話させていただきたく思うのですがそのような形でも…」
『もちろん構いません、が、早めにお返事いただけますと幸いです』
「承知致しました。折り返し先のお電話番号は――」
その後、連絡先の確認を済ませ事務的なやり取りを数言交わしたのち通話を終わらせたが、向こうが電話を切ってからもしばらくツーツーとなり続ける受話器を耳から離すことができなかった。
「先輩?大丈夫ですか?」
「!」
花野井くんから声をかけられそこでやっとハッと気を取り戻すと、まるで接着剤で固められてしまったかのように貼り付けていた耳元から恐る恐る受話器を下ろすことは出来ても、汗ばむ手で握りしめている受話器を信じられないものを見る目でじっと凝視していた。
「……え?」
いま、この数分の間に一体、何が起きた…?
一柳代表が、僕個人のアポイント…?
まさか昨日代表が仰っていた事は冗談じゃ…なかった…?
とにかくすぐに楓真くんに報告相談を―――
上手く動かない頭でもギリギリそれを判断する機能だけは生きていた。
ガタッと立ち上がると自分の席でパソコンと向かい合っていた水嶋さんに「社長の所へ行ってきます」とだけ告げれば、特に理由を聞かれるわけでもなく「おーいってらー」という緩い声を背中に、足早に秘書課を後にした。
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