37 / 67
2【1泊2日の慰安旅行】
2-18 拒絶反応(2)
しおりを挟む「……ん、」
次に目を覚ました時も状況はかわらず病院のベッドの上。さっきの出来事は夢じゃなかった、と一人絶望する。
そして、もしかしたら楓真くんは既にいなくなってしまっているかもしれない、そんな不安からも目を開けるのが怖かった。だけど、今回も一番に視界に飛び込んできたのは心配と安堵が入り交じった表情の楓真くんだった。
「つかささん、よかった…」
「ぁ、僕、どれくらい…」
「ほんの十分くらいです。俺が急にたくさん伝えすぎました…すみません…。だけど、これだけは誤解して欲しくない」
気を失っている間もずっと握られていたのだろうか、繋がる右手にギュッと力を込められ反射的にビクッと肩が揺れてしまう。
先程の拒絶が頭をよぎる。
一度知ってしまった優しい温もりに捨てられたら、僕はこの先どうやって生きていくんだろう
置いていかれるのも、裏切られるのも、もう耐えられない
もう、生きていたくない――
まるで宣告を待つ罪人のように強く目を瞑り、その言葉を待った。
「つかささんが俺から離れる事はあっても、俺の方から離れる事は決してありえません。絶対に」
「……え、」
想像と全く違う言葉に、すぐに反応ができなかった。
「っ、でも、僕、楓真くんを」
「つかささんは何も悪くないし、むしろ俺のフェロモンがつかささんに負担を課してしまう……つかささんの身体を思えば離れるべきは俺ってわかっているんです……だけど、俺はつかささんから離れたくない」
ごめんなさい、辛い思いをさせて、ごめんなさい……握った手に額を当て弱々しく謝る楓真くん。手の甲にじわりと広がる温かな水気に、楓真くんの気持ちがひしひしと伝わってくる。
次第に僕の視界も水の膜でゆらゆら揺れていく。
「……ふうまくんのフェロモンすら、っ、わからなくて……拒絶反応まで引き起こす、こんな欠陥だらけのΩで、本当にいいの…?」
「いい。つかささんがいい」
「っ、赤ちゃん、できないかも、しれないのに……っぅ、それでも、いいの…?」
「つかささんがいれば、それでいい」
「っ――ふうまく」
お互い両目からボロボロ涙を流しぎゅっと抱きしめ合う。
捨てられなかった。
裏切られなかった。
ぎゅっと抱きしめてくれる楓真くんの広い背中に腕を回し、肩口に顔を埋める。
すんっと深く息を吸っても、やはり何も感じない。
だけど確かに、今まではなかったほんのわずかな違和感がじわじわと胸の奥底に存在した。
大丈夫、我慢できる…大丈夫。
こんな些細な接触でも影響を受けている事実を楓真くんに察知されないようぐっと押し殺し、このポンコツな身体が早く楓真くんに適応すればいい。その一心で強く身を寄せあった――
楓真くんとはいくつかの約束を交わした。
『我慢しないこと』
『一人で悩まないこと』
『定期検診は一緒に行くこと』
正直、最後以外素直に頷くのは難しかったけれど、楓真くんを少しでも安心させるため、約束、と小指を結んだ。
楓真くんが僕を心配してくれるように、僕も楓真くんが心配だった。優しい彼は必要以上に僕に気を遣いそうで……。
だから、少しでもその心配がやわらぐよう、点滴の待ち時間あえて他愛もない話題でくすくすと穏やかに時間を過ごした。
昼過ぎになると楓珠さんが病室まで迎えに来てくださった。
身一つで来た僕の代わりにお会計は水嶋さんが済ませてくださり、宿に置いてきてしまった荷物も全て車に積み込まれていた。
そしてその車にも驚いたのが、行きで木村さんが運転していたいつもの社用車とは違い、4人がゆったり座れる後部座席2列の大きな車に変わっていたという事。
聞けばわざわざ水嶋さんの実家の車を借りてくださったそうで……何もかも迷惑をかけっぱなしで楓珠さん、水嶋さん、木村さんに何度も頭を下げた。
「つかさくん、少しでも不便なことがあったらすぐに言うんだよ。道中長いから絶対に無理はしないこと」
「わかりました、ありがとうございます」
1番後ろに座る僕と楓真くんを前の席から振り返り気遣ってくださる楓珠さんに微笑み答える。
しかも明日は月曜だというのに強制的に休みを言い渡され、長年通うΩ専門精神科の検診に行くよう念を押された。
そろそろ定期検診の予定もあったため、ありがたく行かせていただくことで同意した。
穏やかな車内でじわじわと込み上げる気持ちの悪さにぎゅっと目を瞑り、気のせい気のせいと自分に言い聞かせる。
昨晩の嘔吐出血は本当に記憶になかった。
だけど密閉状態の狭い車内。木村さんと水嶋さんはβで、楓珠さんはαだけど番以外にそのフェロモンは効かないから、感じることの出来ない楓真くんのフェロモンで車酔いのような状態に陥っているのだと薄々実感する。
「つかささん……気分悪くないですか」
「……大丈夫だよ」
心配させたくないから、無理やりにでも笑って返す。
そして、楓真くんのフェロモンに弱っている自分の身体にも負けたくなくて、右側の大きな肩にそっと頭を寄せる。
「ちょっと、くっついててもいいかな…」
「フェロモン、大丈夫ですか…なるべく抑えてはいるんですけど……」
「ん、大丈夫……楓真くんの体温落ち着く」
本当に僕らは運命の番なんだ。
抑えていると言う楓真くんのフェロモンを匂いではわからないくせに身体は敏感にマイナスな方へと感じ取っている。けれど、それに相反するように触れ合ったそこからじわりと広がる安心感。
嘔吐感を必死に押し殺し安心感だけを求め、ぎゅっと楓真くんの腕を抱きしめる。
目を瞑り、夢の世界へ行ってしまえば安心だけの優しい空間へいけるだろうか……
いつもだったら繋いでくれるその手が、頑なに握り拳を作っている事を、見て見ぬふりをした。
59
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる