【本編完結】欠陥Ωのシンデレラストーリー

カニ蒲鉾

文字の大きさ
29 / 67
2【1泊2日の慰安旅行】

2-10 宴会の罠(3)

しおりを挟む
 

 
「橘さん、随分多くのお酒を飲んでいたようですが大丈夫でしょうか…」
「……」
 
 
 わざとらしい声が近くから聞こえる。
 視線だけを向ければ予想通り、椿姫秘書が隣に並ぶように立っていた。
 父さんがつかささんを連れ出す瞬間も、じっと俺の方を見ていた事には気付いていた。
 
 
 話す気にもなれず、父さん達が出ていった後を追いかける。
 
 案の定、後をついてくる足音が後ろから聞こえるが無視して歩み続けた。一歩一歩の歩幅の違いは大きく、ぱたぱた小走りの音が必死に俺を呼ぶ。
 
 
「待ってください、楓真さんっ」
「――名前、呼ぶなっていいましたよね」
 
 
 立ちどまり、ため息と共に後方へ向かってイラついた視線を送ればビクッと揺れる肩。このまま引っ込んでくれればいいものを、怯んだのは一瞬のこと、すぐさま気丈に持ち直した。
 
 
「……すみません、でも、伝えたい事があります」
「なんですか、急いでいるので手短にお願いします」
 
 
 そう言うと再び2人の後を追う。
 大勢のいろんな匂いが充満していた大広間よりは見つけやすいつかささんの匂いを頼りに進む先は、父さんの部屋でも、つかささんの部屋でもない。
 本館と南館を繋ぐ渡り廊下から庭へ降りしばらくした先にこんな所があったのかと普通なら足を踏み入れない場所に中庭が現れた。
 
 
 綺麗に整備されたそこは南館に合わせた洋風の雰囲気で草木に隠れるよう存在し、軽く休憩ができるガゼボが建っていた。
 あまりにも突如現れた異空間に一瞬言葉を失ってしまう。
 
 
「……」
「綺麗ですよね、ここは毎年社長が橘さんを連れて利用しているので社員たちは暗黙で近付かないようになっています」
 
 
 その言葉の通り、こちらから見える位置に腰掛ける父さんと、父さんの膝の上に頭を乗せ横になるつかささんの雰囲気はとてもこの場所に馴染んでいた。
 
 風に乗って、微かにふたりの会話が漏れ聞こえてくる。
 
 
「大丈夫?つかさくん」
「ふーじゅさん…」
「なぁに?」
「ぼく、きょうすごくたのしかったんです」
「それはよかったねぇ」
 
 
 舌足らずな話し方と、それに応える緩い返答が、ふたりの過ごしてきた月日の長さを改めて感じさせる。
 
 
「ずっととなりに、ふーまくんが、いて、どきどきしたけど、たのしくて」
「いい事だ」
「だけど……」
「ん?」
 
「ふーまくんの、となりにいるのは、ぼくでいいのかな、ってやっぱり、おもっちゃって」
 
「つかさくん、何を言われたか知らないけどそんな事考えなくていい。楓真くんはつかさくんの事が大好きだから」
 
「でも、ぼくは、なにもほこれるものがないから……」
 
「つかさくん……」
 
 
 父さんの腹に顔を埋めくぐもる声がすすり泣きのように聞こえてくる。
 今すぐにでも飛び出していきたい気持ちを必死に抑え、拳を強く握りしめているとふたりに集中しすぎて無防備だった背中に何かがトンっと触れる衝撃を受けた。腹を見下ろせば両の手が腰に回り、後ろから抱き着かれている事を知る。
 
 忘れていた存在をイヤでも思い出させた。
 
 
「……離れてください」
「社長と橘さんって独特な雰囲気ですよね」
 
 
 腕を外そうにも、小柄な体格からは想像できない強い力で抱き着かれビクともしない。
 
 
「知ってますか?橘さん、社長の愛人なんじゃないかって言われてますよ」
「離れて」
「橘さんが発情期で休む時、必ず社長も数日休むんです。おふたりで一体、何をしているんでしょうね?」
「離れろ!」
「ひっ、」
 
 
 自制などしてやるつもりもなかった。
 腰に回る手を勢いよく振りほどき、倒れる椿姫秘書に容赦なく威圧的なフェロモンをぶつける。
 
 
「不快です今すぐ消えてください」
「ですが……」
「二度も同じことを言わせるな!」
 
 
 青ざめた表情でそそくさと去っていく姿を一秒すら見ている気にもなれず、荒れたフェロモンを深く呼吸する事で沈め、再びガゼボの方へと視線を戻す。
 
 
 今もなお親密な距離の2人。
 
 そんなはずはないと頭ではわかっていても先程の言葉が毒のようにジワジワ心を侵食する。
 
 
 
『橘さんが発情期で休む時、必ず社長も数日休むんです』
 
 
『おふたりで一体、何をしているんでしょうね?』
 
 
 
 何もない。
 
 何も、してない。
 
 
 そうですよね、つかささん―――
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました

こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

処理中です...