ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

文字の大きさ
上 下
90 / 100
ロストソードの使い手編

九十話 ミズアチャレンジ

しおりを挟む
 森の中の景色は基本的に同じような感じで、たまに、同じところをぐるぐるしているのではと不安になってしまう。けれど、コノが持っているゲーム機の形をしてるマギアの地図機能のおかげで、確実に前進してるのだと安心出来た。
 大きなボアホーンの足取りを追っていく中、ある場所を境に周囲に少し変化が起きる。木の足元によく果物が落ちていたり、食べかけのものが道端にそのままにされていたり。魔獣が多いのだろうか、より警戒感を強める。

「……そういえばハヤシバラさんはどうしていますか?」
「ソラくんは……一応元気、かな」
「そうですか。安心しました」

 クママさんは林原さんが霊になっている事は知っているのだろうか。ギュララさんの事で、ある程度一緒にはいたはずで。気になるけど、質問する事は出来なかった。

「あの、コノハさんが持っているそれって何ですか?」
「これは何か凄いマギアです!」
「ええと……そうですか」
「いや、説明不足過ぎるでしょ」
「そ、そうですよね……あはは……」

 流石にアバウト過ぎてモモ先輩からツッコミが入った。クママさんもコノの説明に目をパチクリさせていて、困ったように微笑んでいて。

「それには、地図が見れたり魔獣を捕まえられる魔法のロープを出せる機能があるの」
「へー! 凄いマギアですね! イシリスの街にはそういうのも売ってるんですね」
「びっくりですよ! アヤメさんの魔道具店なんて店いっぱいにマギアが置いてあって、凄いんですよ!」

 テンションが上がったクママさんに同調するようにコノも興奮気味に話す。

「今度、行ってみようかな……」
「それなら是非家に来てね。品揃えは街一番だし、オーダーメイドもあるから!」

 そうモモ先輩はちゃっかり販売員のように、アヤメさんのお店を紹介した。

「……あれ」

 そんな風に談笑していると、また景色が変化した。この地点は少し森が深くて薄緑の陽光が差し込んでいる。そして食べ物が点々と落ちていて、何より魔獣が何匹も横たわっていた。一番多いのはボアホーンで。

「し、死んで……」
「いえ、倒れているだけみたい。何かにやられたのかしら」
「ぶ、不気味ですね。えと、一応捕まえておきますか?」
「そうね。後一匹だし……そこのをやっておいて」
「わかりました」

 近くに倒れていたボアホーンにマギアを向けて、魔法のロープを発射。難なく捕まえられる。

「何だか嫌な感じですね。この森で一体何がおきているのか」

 クママさんは深刻そうに顔を顰めて、倒れている魔獣達を見回す。

「奥に行けばわかるかもね。もしかしたら異常の原因も」
「行くならもっと警戒しなきゃ、ですよね」
「そうね。固まって動くわよ」

 そうして僕達はより身体を寄せる事に。その際、モモ先輩とコノは僕の方に結構密着させてきて。二人の体温がダイレクトに伝わって、別の意味でも緊張してきた。状況も状況で、離れるよう言いづらくて、我慢しながら進んだ。

「その、皆様はとても仲良しなのですね」
「まぁね。特にユーポンとは」
「コノもですよ!」
「そ、そうなんですね……」

 二人の様子にクママさんは苦笑する。僕も同じくそうするしかなくて。嬉しいは嬉しいけれど少し困ってしまう。
 そこから一旦会話が止まる。すると、少し冷えた風が通り、葉達が大きく揺れてざわざわとして。それに何故だか不安感を煽られる。

「え」
「ブグモォォ!?」
「皆、止まって!」

 僕達の十五メートルくらい先、そこに空からあの大きなボアホーンが降ってきた。大きく重い音を立てて地面に衝突。少しの間、倒れたままうめき声を出して痛みに悶えるように足を動かしていてた。

「一体何が……」

 ボアホーンはそれからすぐに起き上がり、辺りを見回し、僕達の方をギョロッと見ると。

「ブグモォォ!」
「き、来ますっ!」

 僕達めがけて重量のある身体で突進してくる。ダメージのせいかスピードはゆっくりだけど、巨体が迫る圧力は、尋常ではなく足の動きを鈍くさせてくる。

「この距離だと変身が間に合わない……」

 そのクママさんの言葉を耳にした瞬間、僕は反射的に皆の前へと身体が一人で動いた。

「ゆ、ユーポン?」
「ここは僕がいきます……」
「ヒカゲさん、危険ですよ」
「大丈夫です、任せてください」
「ユウワさん、頑張ってくださいね!」

 僕はロストソードを握り、ギュララさんの事を想う。刀身は藍色に輝き、そして意志を持つように動き出して、切腹するように僕の腹へと突き刺した。痛みはなくそのまま身体の中に入っていく。

「ひ、ヒカゲ……さん?」
「話には聞いていたけど、中々の光景ね」

 そして尋常じゃない力がみなぎると共に、身体が大きく変化。デスベアーのような腕や爪、頭にはギュララさんと同じ角、瞳も紅に染まる。

「その姿は……まるでギュララを纏ったみたいな……」
「想像はしていたけど……凄い姿ね。それにとても力強さを感じるわ」
「ふふん、そうなんです!」

 驚く二人に何故かコノが自慢気にしているが気にせず、迫りくる巨体と一本の角に意識を集中させる。
 今度こそアオやクママさんがやったように、カウンターを決めるんだ。後ろには仲間がいて、さっきみたいに逃げる事は出ない。やるしかない。

「デス――」

 右手の爪が赤黒く染まり、ビリビリとその力が溢れ出す。ボアホーンの角は、三メートル、二メートルと接近。
 そしてついに攻撃の射程圏内入った。

「クロォォォォー!」
「ブグゥ!?」

 瞬間、突き上げるように爪を振り上げる。僕の身体に届く前に確かに角を捉え、そのままひっくり返すように全力で振り抜く。

「モォォォォ……」

 力を出し切れば、巨体は宙に投げ飛ばされていて、無防備に落下。顔を下にしたまま落ちた事で、その角が地面に刺さって。動けなくなっていた。

「はぁ……はぁ」

 一気に疲労感が襲いかかってきて、僕はすぐに変身を解いた。
 それからモモ先輩が魔法で弱らせてから、コノがマギアで捕獲。完全に身動き取れなくなった。

「……ヒカゲさん、今のって」
「はい。どうやら、僕は霊の力を身体に宿せるみたいなんです」
「そうなんですね……何だかギュララを見たような感覚になって、少し……嬉しくなりました」

 クママさんは、嬉しさや懐かしさ、そして少しの寂しさを含んだ微笑みを浮かべていた。

「……凄いパワーだったわ。まさかあんな大きな魔獣を吹き飛ばすなんて」
「ふふん、コノは驚きませんよ。知ってましたからっ」
「別に驚いてはないわ。出来るって信じていたもの」
「あ、あはは……」

 信頼してくれるのはありがたいのだけど、謎のマウントの取り合いが発生してしまう。

「勇気を持って引き付けてカウンター。ミズちゃんみたいでカッコよかったわ」
「あ、ありがとうございます……!」

 意識していたからそう褒められて、素直に嬉しかった。大きな魔獣を倒せた事の達成感もあって、心も頬も緩んでしまう。

「それにしても、一体何があったんでしょうか。あのボアホーンが飛ばされるなんて」
「あっ……それもそうですよね」

 浮足立っていた気持ちがすーっと引いて、冷静に地に足がついてくる。

「もしかしたら、あの先に何かあるのかもしれないわね」
「お、恐ろしいですね……」
「けど、行かなきゃ」

 僕達は少し息を整えてから、捕まったままのボアホーンを横目にさらに奥へと進んだ。フォーメーションはさっきと同じく固まって。

「……」

 緊張感に包まれ、さっきまでの余裕はなく無言のまま歩んでいく。辺りには果物や倒れている魔獣達がいて、危険な香りはずっと漂ったままだ。

「……止まって。何かいるわ」

 張り詰めた声で、ピタリと全員が止まる。少し開けた空間だった。モモ先輩の視線先を追っていく。木々に遮られていなくて、その姿はすぐに見つけられた。

「……まさか」
「霊……ね。それも暴走している」

 それは人の姿をしていて、身体からは紫の瘴気が出ていて、手には同色の剣を持っていた。僕達からは背を向けていて、森の中で無防備に突っ立っている。
  顔は見えない。けれどその身体の感じや剣の形は、見覚えがあって。すぐにその正体に気づいてしまう。

「ソラ……くん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

処理中です...