大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ

文字の大きさ
4 / 12

4.新たな住み家

しおりを挟む
「あの母子に退場してもらうしかないわね」

 他の父親を見繕って平和的に彼の元を去ってもらうか。
 あるいは不慮の事故によってこの世から去ってもらうか。

 彼の代わりが務まる男など、そう簡単に見つかりはしないだろう。
 かといって、私が意図的に不慮の事故を起こすというのも、彼の意に反する。
 いずれにせよ、短期間で解決することはないだろう。
 となれば、まずやらなくてはならないのは住居の確保だ。
 仮の親子とはいえ、彼の家に住むというわけにもいくまい。

 私は彼の家の向かいの家のベルを鳴らした。

「はいはい、どちら様かな?」

 扉を開けて出てきた老人に、私は言った。

「この家をください!」

「はっ? あんたなに言ってんだ?」

「もちろん、お金は払いますよ。そうですね、これくらいでどうでしょう」

 私は亜空間から金貨の入った袋を取り出した。
 己を鍛える一環として魔物を狩り、その素材を売って稼いだ金だ。
 魔物の素材はそれなりに高く売れるので、普通に働いて稼ぐより効率がいいのだ。

 私から袋を受け取った老人は、その中身を見声を荒らげた。

「なっ、なんだこの金は!?」

「すみません、足りなかったですか?」

 一応ドラゴン一頭を素材として売ったときの値段と同等の金貨を出したのだが、どうやら少なかったらしい。
 まあ、私も家の値段など知らないし、それにここは彼の家の向かいという立地のいい物件だ。
 ドラゴン一頭分ではいくらなんでも安く見積もりすぎたか。

 私は追加として、同じ金貨入りの袋を四つ取り出した。
 ちなみにこれは金貨を小分けにして保管してあるのではなく、取り出す際に創造魔法で生成した袋に金貨をしまっているだけだ。

「ではこれくらいでどうでしょう?」

 ドラゴンというのはその絶対数の少なさから、あまり頻繁に遭遇できる魔物ではない。
 倒すのはともかく、出会うのはそれなりに骨が折れる。
 この金貨がドラゴンを倒したときのものだというわけではないが、他の魔物を倒してドラゴン五頭分稼ぐとなると、私の実力では魔物のはびこるダンジョン最下層に不眠不休で潜っても一週間はかかってしまう。
 それくらい大変なのだが、この家を譲ってもらうためにはそれくらいの誠意は見せるべきだろう。

「こっ、こんな大金受け取れるか!! 何が目的か知らんが、帰ってくれ!!」

 そう言うや否や、老人はバタンと扉を閉めてしまった。

「……追い返されてしまったわ」

 彼が周囲の住人とどのような人間関係を築いているか、まだその全てを把握できていない。
 力ずくで奪うというのは得策ではないだろう。

 仕方がないので自分で家を建てるとしよう。
 この辺りは昔からある居住区で、空いているスペースといえば道くらいだが、さすがに道のど真ん中に家を建てるわけにもいかない。

「となると、地中に造るしかないわね」

 私は地面に手をつくと、地中操作と創造魔法の組み合わせで、彼の家の真下に地下室を創造した。
 今のところ私しか利用する予定はないので、部屋数は最低限だ。
 勝手に地下室を増築するのは申し訳ないと思ったが、いずれ私も住む家になるのだ。
 それにもし彼に取り壊すようにいわれたら、その時撤去すればいい。

「さて、それじゃあ彼の元に行きますか」

 私は先程覚えた彼の魔力波長を頼りに転移魔法を発動した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

[完結]気付いたらザマァしてました(お姉ちゃんと遊んでた日常報告してただけなのに)

みちこ
恋愛
お姉ちゃんの婚約者と知らないお姉さんに、大好きなお姉ちゃんとの日常を報告してただけなのにザマァしてたらしいです 顔文字があるけどウザかったらすみません

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います

木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。 サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。 記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。

騎士の元に届いた最愛の貴族令嬢からの最後の手紙

刻芦葉
恋愛
ミュルンハルト王国騎士団長であるアルヴィスには忘れられない女性がいる。 それはまだ若い頃に付き合っていた貴族令嬢のことだ。 政略結婚で隣国へと嫁いでしまった彼女のことを忘れられなくて今も独り身でいる。 そんな中で彼女から最後に送られた手紙を読み返した。 その手紙の意味をアルヴィスは今も知らない。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

婚約者を追いかけるのはやめました

カレイ
恋愛
 公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。  しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。  でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。

処理中です...