ビビりな兎はクールな狼の溺愛に気づかない

柊 うたさ

文字の大きさ
24 / 32
第一章:いざ、王都!

24. ネロはヒロインじゃない

しおりを挟む

 …突如言われた、アルジェントの「婚約者はいない」発言にネロは驚愕どころか思考が一旦停止する。



(熱で幻聴を聞いてしまったのだろうか…?薬も飲んだしそこまで熱は高くないはずなんだけど…)

 …一旦整理しよう。

 突然現れたアルジェントの婚約者(仮)に”不釣り合い”、”目障り”発言をされ、
 バレッタを捨てられ、悲しみに暮れながらバレッタを探した結果、風邪&怪我。
 色々自分の中で落ち着きアルジェントの幸せを願おうとしたところの「婚約者はいない」発言。


(どうしよう、整理しても全然分からない…!)


 いや、確かにアルジェントの婚約者にしては性格が歪んでるというか…勇ましいというか…気が強いというか…。
 しかし家同士の繋がりや、もしかするとアルジェントの好みが気の強い女性の可能性もある。

 けれどもアルジェント本人が婚約者ではないと言っている…。
 


ーーつまりあの人……誰?



「ネロ、昨日ヴォル…キツネ獣人に会っただろ?」
「え…はい…」
「…アイツは婚約者ではなく、ただの幼馴染みだ」
「お、おさな、なじみ?」


ーーおさななじみ…?OSANANAJIMI…?幼馴染み…!?


「あぁ、さっき俺の情報網を使って、彼女がネロに接触したことを知ったんだ。…俺の幼馴染みがすまない」
「あ…いえ…?」

 婚約者だと思った人、というか婚約者と名乗った人が婚約者ではなく幼馴染み…?
 それに情報網とは何だろう…昨日のことはどこまで知られているのだろうか。

 …とりあえず彼女が幼馴染みということが分かったとして、ではなぜ婚約者ではない人がネロにあのような言動を取ったのだろう。婚約者なら百歩譲って分からないでも…ない?いや分からないけど。

「前々から、俺のことを好いてくれていたのは知っていたんだが。まさかこのようなことをするとは…」
「は、はぁ…」

 なるほど理解、なーんだ!あのキツネはアルジェントのことを好いていたのか!
 …とはならない。ネロは未だ意味が分かっていない。


 彼女がアルジェントのことを好いているからといって、ネロを攻撃する必要性はあるだろうか。ネロがアルジェントのことを好いているからだろうか?
 
 それなら王都中の女性達が標的になるのではないか…?

「先ほどヴォルの家に言って話をして来た。…ネロに嫉妬・・してあのようなことをしたと言っていた」
「しっと…?」

 …”しっと”とは”嫉妬”のことだろうか。

 前に図書館で見た本に”嫉妬は、他人が自分より優れていて羨ましく思うこと”と書かれていたが、その嫉妬だろうか。全てにおいてネロよりも優れてそうな人がなぜ。

「なぜ…私に嫉妬する必要があるんですか…?あ、あんな綺麗な人が…」

 ネロに嫉妬するようなところは何処にもないはずで。
 平民で、ただのアルジェントの使用人、美人でもお金持ちでもない。
 羨むところなどないはずなのに、どうして…。


 困惑していると目の前のアルジェントがなぜか柔らかく微笑み、そっとネロの両手を取る。アルジェントの温かい大きな両手で優しく包まれる、少し荒れた小さな手。

 突然のその行動に訳が分からず、アルジェントを見つめる。
 握られた手に軽く力が込められる。そして。




「…それは俺がネロを、心底…好いているからだろうな」
「…っ」




 ネロは知らなかった。
 嫉妬には”愛する人の愛情が他に向くことを憎む”という意味もあるということを。


 “アルジェントがネロのことを好いているから嫉妬した”という事実にネロは吃驚し、信じられないという目でアルジェントを見るも、


 ネロを見つめるアルジェント目が、愛おしいものを見ているような、そんな甘い熱を宿していて。

 手を握るその両手がまるで好意を伝えるかのように熱くて。
 
 そしてアルジェントの纏う雰囲気が、



「ネロ、好きだ」



 その雰囲気が、まるでネロを愛してると言っているようで。

 嘘偽りのないアルジェントの眼差しに、ネロは気づかない内に涙が溢れてしまう。
 
「う、うそ、だってっ…」

 嘘ではないことなどアルジェントの目、表情、声、雰囲気、全てで分かるはずなのに。

 それでもネロは信じられなかった。同じ気持ちになるはずないのだと。
 釣り合わない、身分不相応だから心にしまって決して口にしてはいけないのだと、そう思っていた。

「ネロは…。俺の好意は…迷惑か?」
「…っ」

 眉を下げ、悲しげに揺れる琥珀色の瞳にネロは動揺する。 
 好きな人を悲しませてしまっている。そんなの良くない。ではどうすればいい、この気持ちを言えば…

「…っすきです、アルジェントさん…、」



 ネロには綺麗な告白なんてできない。



 恋愛小説のようなキラキラとした、花が舞うようなそんな告白はできない。
 緊張で顔を真っ赤にして、目を潤ませて、泣かないよう我慢して。
 おそらく顔はぐちゃぐちゃで、可愛らしい笑顔なんて作れていないのだろう。


 
 ネロはきっとヒロインじゃない。


 けれども、


「っネロ、」


 大好きな人に抱きしめられている。
 大好きな人と両想いになっている。



 ネロはヒロインではないから、



 ここは浜辺でもお花畑でも、お城の前でもないけれど。

 

「ネロ、愛してる」


 大好きな人に囁かれる愛の言葉があればきっと、


 部屋のベッドの上であってもそれはまるで楽園のように


 天国のように素敵な場所になる。


「ネロ、俺の恋人になってくれるか…?」


 その言葉が、何よりも嬉しい。
 貴方と2人で幸せになる未来なんてないと諦めていたからこそ。
 誰かと一緒になる貴方を想像してしまったからこそ。

 
 本当に嬉しくて、そして苦しい。


「…っでも、身分が違うし、」


 どんなに大好きな人と両想いになれたとしても、ネロは平民でアルジェントは貴族で。どんなに幸せな気持ちになっても、その真実は変わらない。



「…身分なんてもの私は一切気にしないし、両親も気にしない」
「えっ、」
「それに俺がそんなことでネロを手放すわけないだろ?…だってキミは、」






ーーー俺の運命なんだから。









~ 片想い編 Fin ~
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

あざとさを捨てた令嬢は、若き公爵に溺愛される

古紫汐桜
恋愛
婚約者の裏切りを目撃し、命を落とした“私”が目を覚ましたのは、 見知らぬ貴族令嬢の身体の中だった。 そこは、誰かの悪意によって評判を地に落とした世界。 かつて“あざとさ”で生きていた彼女の代わりに、 私はその人生を引き受けることになる。 もう、首を揺らして媚びる生き方はしない。 そう決めた瞬間から、運命は静かに歪み始めた。 冷酷と噂される若公爵ユリエル。 彼もまた、自らの運命に抗い続けてきた男だった。 そんな彼が、私にだけ見せた執着と溺愛。 選び直した生き方の先で待っていたのは、 溺れるほどの愛だった。 あざとさを捨てた令嬢と、運命に翻弄される若公爵。 これは、“やり直し”では終わらない、致命的な恋の物語。

処理中です...