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翌日、美奈が学校に復帰する日が来た。
いつもならただ面倒くさいとだけ思うのだが、この日ばかりは久しぶりの登校ということもあり異様な緊張感を感じていた。制服に着替えた美奈はカバンを持って玄関まで行った時、舞華が「お弁当を忘れてるわよ。」と言いながらキッチンから走ってきた。「あ、ごめん。久しぶりだからなんか緊張して。」美奈は舞華から弁当を受け取るといってきます。と通学路へと繰り出していった。家を出てしばらく歩いた時ピューっと強い風が吹いた。「風が強いな。」美奈はそう思いながら歩き続けた。
さらに5分ほど歩いたところで美奈は遠くで誰かが手を振っているのが見えた。
よく見ると優佳だった。
美奈は優佳に向かって手を振り返しながら優佳に近づいた。
やがて普通のトーンでも会話ができるまで近づくと優佳は「久しぶり」と話しかけた。「久しぶり。ごめんね。迷惑かけちゃって。」美奈は優佳に謝った。
「全然気にしてないから。早く行こ。復帰初日が遅刻って嫌でしょ?」美奈は優佳がいつもと変わりなく接してくれることがとにかく嬉しかった。
「そういえば奈津美は?」美奈が聞いた。「え~っと。奈津美はあの~。今日は勉強したいからって先に学校に行ってる。」優佳は美奈に何かを隠してるかのような話し方をした。しかしそのことについては気に留めず「そっか。学校について奈津美に会ったら、まずは謝らないとね。ずっと休んでたこと。」と自分で言って自分で頷いた。
優佳は美奈の話は聞いていたものの黙って歩き続けた。
学校に着き、教室に入ると既に奈津美が自分の席に座って教科書を読んでいた。
美奈は奈津美のもとに駆け寄ると話しかけた。「おはよう。ずっと休んでてごめんね。休んだ理由はね、」美奈が理由を話そうとしたとき奈津美はその言葉を遮って素っ気なく「全然大丈夫。今日からまたよろしく。」と言うと
それ以降は勉強の邪魔をするなオーラを出していたため美奈もそれ以上は何も話さずにゆっくりと自分の席に座った。
授業が始まると美奈はこれまでよりも集中して話を聞くようにした。
美奈は今までの自分の授業中の態度を振り返ってみると、ノートにメモを取ることに集中しすぎて要点を聞き逃していることが多かった。そのため、メモは必要最低限に抑えて基本的には先生の話を聞くことに集中しようと考えた。
とは言っても、苦手科目はどれだけ頭の中で集中しようと思っても10分も経つと
いつのまにか睡魔との戦いが始まってしまい、結局ききのがしてしまうことがある。これに関してはもうどうしようもないと美奈は諦めていた。
放課後、美奈はしばらく学校を休んでいたことについて松田に呼ばれていた。
奈津美はそのことに構わず「優佳、帰ろう」と優佳を誘った。
しかし、優佳は美奈を待つ。と帰らない。すこし苛立ちを感じた奈津美は
「あんな奴のことなんてほっとけばいいんだよ。」とあからさまに美奈に対しての敵対心を見せつけている。
「ちょっとどうしたの?美奈が休んでから美奈に対して冷たくない?」優佳は奈津美に聞いた。「別に。私あいつの事嫌いになっちゃったから。」
「なんでよ。私たち3人で一緒にいたじゃない。」優佳はなんとか奈津美を説得しようとしたが、「私、美奈があんな奴だと思ってなかったからね。」と奈津美は完全に美奈のことを嫌いになった様子を見せる。すかさずどういうこと?と聞こうとしたが、その時美奈が戻ってきた。奈津美は美奈に話しかけられないうちにサッサと帰った。
美奈は奈津美に声をかけようとしたが、
その前に奈津美は教室から出てくる他の生徒の人混みの中に消えていった。
美奈と優佳は2人で帰った。しかし、その道中は2人とも奈津美のことを考えていたため、ほとんど何も話さずに別れた。唯一話したとすれば別れ際に優佳が美奈に言った「美奈、私一回奈津美に提案してみる。1回3人でゆっくり話さないって。」ぐらいだ。
家に帰った美奈はすぐに勉強しなければと思っていたが、奈津美のことが頭から離れずになかなか集中できない。いっそのこと奈津美に聞いてみるかと思ったが、現在自分はシカトされてる身だから何を聞いても返ってこないだろうと考え直した。
一方その頃、家に帰った奈津美も優佳に放課後に言われたことを思い返しながら美奈のことを考えていた。
しかし、美奈のことを考えるとどうしてもイライラしてしまう。奈津美は両頬を両手でパチッと叩くと勉強を始めた。
次の日、美奈と優佳が登校すると前日と同様に奈津美は既に勉強を始めていた。
ドアが開いた瞬間、奈津美の顔が上がり美奈と目があったが、すぐに視線を逸らした。
美奈は挨拶をしに行こうと思ったが、今の奈津美に自分が何を言っても効果はないことをわかっていたので、何も言わずに始業時間までゆっくり過ごした。
家庭学習をしているときは奈津美のことが気になって仕方がなかったのに、
学校で授業を受けている最中は、奈津美のことなんて頭の片隅にもなかった。
昼休みになると優佳が奈津美のところへ行って何かを話しているのが見えた。
「奈津美。今日の放課後に私と奈津美と美奈の3人で話さない?」奈津美は「あいつと話すことなんてない。」と相変わらず美奈をブロックしている様子。しかし優佳も引き下がらない。「多分だけど、奈津美は何か勘違いをしているんじゃないかな?わからないけど。とにかく、今日の放課後はすぐに帰らずに教室に残ってね。」優佳は一方的に約束を取り付けると今度は美奈のもとに行った。
「美奈、今日の放課後のことなんだけどちょっと残ってくれるかな?用があって。」美奈はなんのことか全くわからないがとりあえずわかったとだけ答えた。
そしてその日の放課後。ほとんどの生徒が部活や帰宅などそれぞれの時間に入ったが、美奈と優佳そして奈津美は教室に残った。
「奈津美、美奈。勉強しなければいけないのに残ってくれてありがとう。」優佳がまずは口を開いた。
「ほんとに時間がないから手短によろしく。」奈津美は乗り気ではないことを態度で示した。
「まず、奈津美。最近、美奈に対して冷たいよね?その理由を聞かせてくれない?」優佳が奈津美に聞いた。
「別に理由なんてないけど。」奈津美の答えに美奈は落ち込んでしまう。
しかし、これでは問題解決はできないと思った優佳はさらに奈津美に詰め寄った。「そもそも奈津美が美奈に対して冷たくなったのは、美奈が休んでから。
もしかして奈津美は勘違いしてるんじゃないかって思うの。仮に本当に勘違いだったとしたら、その誤りを正したい。だから、正直に言ってくれない?私たちが卒業するまであと1年を切っているんだよ?このまま別れちゃってもいい?」
すると優佳の発言に苛立ちを感じ始めた奈津美は怒ったような口調で理由を話し出した。「優佳が言ってることはすこし違う。私が美奈に冷たくなったきっかけは、美奈が休む前から。」
美奈と優佳は驚いて顔を見合わせた。
「私はいつものように美奈に『帰ろう』って誘った。でも、この日は美奈は断った。その時はちょっと寂しかったけど美奈にもプライベートがあるからなと思った。でも、美奈が休む前の日くらいに私は誘った。その日も美奈は断った。
その時私は思ってしまったの。『あぁ。美奈は私と帰りたくないんだ。』って。自分でも捻くれた思考回路をしていることはわかってる。でも、一度そう思ってしまうとそうとしか思えなくなって。
だから、私もつい美奈に対して冷たくあしらってしまうの。」
美奈はショックだった。あの日、自分が断ったことが今の友人関係にまで響いているとは思わなかったからだ。
しかし美奈自身もその日は大変だった。
それを冷たくあしらっていると思われることはあってはならない。
ならば、その奈津美の脳に植えついた誤解を真実に変えなければいけない。
そうしなければ、自分の友人関係の一部が崩落してしまうのだ。
ついに美奈が真実を語り出した。
「わたしがあの時、奈津美の誘いを断ったことは申し訳なく思ってる。でも、
断った理由はわたしが休んだ、休むことになった理由にも繋がるの。」美奈はその時の自分の心情を思い出し声が震えながら続けた。「あの日、わたしは奈津美と優佳と3人で帰ろうって思ってた。でも、放課後にスマホを見たらお母さんから連絡が入ってて、それで急いでて。」
美奈は苦しさのあまり声を詰まらせた。
真実を知らない奈津美は「その用事ってなんなの?」と聞いた。奈津美の言葉には催促の色が滲み出ていた。真実を知っている優佳は「ちょっとは美奈の気持ちを考えてよ!」と怒鳴った。
美奈は顔を真っ赤にしながら正面を向いて「お兄ちゃんが亡くなったの!」とはっきりと言った。涙が止まらない美奈は思わずその場にしゃがみ込んでしまう。
奈津美は予想もしなかった真実に動揺してしまう。美奈はどうにか声を絞り出すと「わたしはお兄ちゃんと2人で大学合格を目指して頑張ってきた。」
奈津美もこれで改心したかと思われたが、「それなら志望校に受かってみなさいよ。あなたはあなたのお兄ちゃんと一生懸命頑張ってきたんでしょ?そしたら、わたし達の仲を修復してあげる。」と提案すると奈津美はカバンを持って走って出ていった。
優佳はすぐに奈津美を追おうと思ったが美奈のことが心配になり、諦めた。
優佳は美奈のもとに行くと「ごめんね。辛いことを思い出せちゃって。」と背中を優しく摩った。
美奈は優佳の手の温もりを感じながら泣いた。
それから奈津美は美奈と優佳の両方との会話が一切なくなった。優佳も奈津美のことを嫌い、3人の関係は最悪となった。
その週の土曜日。武中の初授業の日が来た。美奈は学校で巻き起こっている最悪の事態を武中に悟られないように一旦奈津美のことを忘れた。
美奈は山根の時と同じ手順で武中とテレビ電話を繋いだ。
「美奈さん。こんにちは。今日からよろしくお願いします。」
「武中さん。よろしくお願いします。」
「じゃあ、挨拶は程々にして早速始めましょうか。と言っても歴史は自学自習である程度は理解できる教科なので、基本的なスタンスは自学自習で分からないところがあれば質問するという感じにします。」武中が授業方針の説明を始め、美奈はそれを真面目に聞いた。
自学自習に関しては美奈自身もそう思っていたので特に異論反論はなかった。
「それでは始めましょう。」
美奈は教科書を開いて読み始め、武中はその様子をコーヒーを啜りながら見守っていた。
5分、10分、15分と時間は刻一刻と過ぎていく。しかしそれまでの勉強の甲斐あって美奈はわからないところがなく、そのまま時間が終わろうとしていた。
「美奈さん。わからないところはないかな?」「今のところはないです。」
「それじゃあ今回はここまでにしよう。疑問点が出てきたら、次の週に質問してください。それではサヨナラ。」
武中の最初の授業が終わった途端に美奈の頭に再び奈津美のことがよぎった。
美奈はそのことが勉強に支障を来たしていることにイライラしていた。
そのため幾度となく、美奈の頭の中を支配している魔物のようなものを排除しようとしたが、それに対抗するように復活を繰り返している。とうとう美奈も諦めの道へと方向転換し、なんとかその魔物と共存する術を探っている。
美奈は次の日も勉強とその術を模索する作業を並行して行わなければならなかった。1分、1秒でも早くこの問題を解決しなければ、質の悪い勉強をする日が続き
そしてそれが最終的に最悪の結果を引き起こしてしまうことが十分考えられる。
するとその時美奈は閃いた。
それは、数日前に3人で話た時の内容がヒントになっていた。
「そうだ。受かればいいんだ。受かれば、この問題は自動的に解決へと向かうんだ。」美奈がそう考え始めた途端に
魔物は美奈の頭の中から姿を消したようだ。
そこから美奈の勉強の質は徐々に元通りになっていき、それに応えるように成績もゆっくりではあるが、上昇傾向にあった。
勉強に時間を費やす日々はあっという間に過ぎ去り、夏休みへと突入していた。
ほとんどの受験生は、夏休みに学習単元を終えるためのラストスパートをかける時期だが、美奈はそれをとっくの昔に終わらせてしまっていたので、問題演習をしてわからなかったところを補強していくという段階に入っていた。
もちろん夏休み中も武中と山根の講義は行われた。美奈は遠慮なく2人に質問をして1段でもライバルに差をつけるべく
努力を積み重ねた。
受験本番はもうすぐそこまできている。
美奈は最後まで踏ん張り、合格の切符を勝ち取ることはできるのだろうか。
いつもならただ面倒くさいとだけ思うのだが、この日ばかりは久しぶりの登校ということもあり異様な緊張感を感じていた。制服に着替えた美奈はカバンを持って玄関まで行った時、舞華が「お弁当を忘れてるわよ。」と言いながらキッチンから走ってきた。「あ、ごめん。久しぶりだからなんか緊張して。」美奈は舞華から弁当を受け取るといってきます。と通学路へと繰り出していった。家を出てしばらく歩いた時ピューっと強い風が吹いた。「風が強いな。」美奈はそう思いながら歩き続けた。
さらに5分ほど歩いたところで美奈は遠くで誰かが手を振っているのが見えた。
よく見ると優佳だった。
美奈は優佳に向かって手を振り返しながら優佳に近づいた。
やがて普通のトーンでも会話ができるまで近づくと優佳は「久しぶり」と話しかけた。「久しぶり。ごめんね。迷惑かけちゃって。」美奈は優佳に謝った。
「全然気にしてないから。早く行こ。復帰初日が遅刻って嫌でしょ?」美奈は優佳がいつもと変わりなく接してくれることがとにかく嬉しかった。
「そういえば奈津美は?」美奈が聞いた。「え~っと。奈津美はあの~。今日は勉強したいからって先に学校に行ってる。」優佳は美奈に何かを隠してるかのような話し方をした。しかしそのことについては気に留めず「そっか。学校について奈津美に会ったら、まずは謝らないとね。ずっと休んでたこと。」と自分で言って自分で頷いた。
優佳は美奈の話は聞いていたものの黙って歩き続けた。
学校に着き、教室に入ると既に奈津美が自分の席に座って教科書を読んでいた。
美奈は奈津美のもとに駆け寄ると話しかけた。「おはよう。ずっと休んでてごめんね。休んだ理由はね、」美奈が理由を話そうとしたとき奈津美はその言葉を遮って素っ気なく「全然大丈夫。今日からまたよろしく。」と言うと
それ以降は勉強の邪魔をするなオーラを出していたため美奈もそれ以上は何も話さずにゆっくりと自分の席に座った。
授業が始まると美奈はこれまでよりも集中して話を聞くようにした。
美奈は今までの自分の授業中の態度を振り返ってみると、ノートにメモを取ることに集中しすぎて要点を聞き逃していることが多かった。そのため、メモは必要最低限に抑えて基本的には先生の話を聞くことに集中しようと考えた。
とは言っても、苦手科目はどれだけ頭の中で集中しようと思っても10分も経つと
いつのまにか睡魔との戦いが始まってしまい、結局ききのがしてしまうことがある。これに関してはもうどうしようもないと美奈は諦めていた。
放課後、美奈はしばらく学校を休んでいたことについて松田に呼ばれていた。
奈津美はそのことに構わず「優佳、帰ろう」と優佳を誘った。
しかし、優佳は美奈を待つ。と帰らない。すこし苛立ちを感じた奈津美は
「あんな奴のことなんてほっとけばいいんだよ。」とあからさまに美奈に対しての敵対心を見せつけている。
「ちょっとどうしたの?美奈が休んでから美奈に対して冷たくない?」優佳は奈津美に聞いた。「別に。私あいつの事嫌いになっちゃったから。」
「なんでよ。私たち3人で一緒にいたじゃない。」優佳はなんとか奈津美を説得しようとしたが、「私、美奈があんな奴だと思ってなかったからね。」と奈津美は完全に美奈のことを嫌いになった様子を見せる。すかさずどういうこと?と聞こうとしたが、その時美奈が戻ってきた。奈津美は美奈に話しかけられないうちにサッサと帰った。
美奈は奈津美に声をかけようとしたが、
その前に奈津美は教室から出てくる他の生徒の人混みの中に消えていった。
美奈と優佳は2人で帰った。しかし、その道中は2人とも奈津美のことを考えていたため、ほとんど何も話さずに別れた。唯一話したとすれば別れ際に優佳が美奈に言った「美奈、私一回奈津美に提案してみる。1回3人でゆっくり話さないって。」ぐらいだ。
家に帰った美奈はすぐに勉強しなければと思っていたが、奈津美のことが頭から離れずになかなか集中できない。いっそのこと奈津美に聞いてみるかと思ったが、現在自分はシカトされてる身だから何を聞いても返ってこないだろうと考え直した。
一方その頃、家に帰った奈津美も優佳に放課後に言われたことを思い返しながら美奈のことを考えていた。
しかし、美奈のことを考えるとどうしてもイライラしてしまう。奈津美は両頬を両手でパチッと叩くと勉強を始めた。
次の日、美奈と優佳が登校すると前日と同様に奈津美は既に勉強を始めていた。
ドアが開いた瞬間、奈津美の顔が上がり美奈と目があったが、すぐに視線を逸らした。
美奈は挨拶をしに行こうと思ったが、今の奈津美に自分が何を言っても効果はないことをわかっていたので、何も言わずに始業時間までゆっくり過ごした。
家庭学習をしているときは奈津美のことが気になって仕方がなかったのに、
学校で授業を受けている最中は、奈津美のことなんて頭の片隅にもなかった。
昼休みになると優佳が奈津美のところへ行って何かを話しているのが見えた。
「奈津美。今日の放課後に私と奈津美と美奈の3人で話さない?」奈津美は「あいつと話すことなんてない。」と相変わらず美奈をブロックしている様子。しかし優佳も引き下がらない。「多分だけど、奈津美は何か勘違いをしているんじゃないかな?わからないけど。とにかく、今日の放課後はすぐに帰らずに教室に残ってね。」優佳は一方的に約束を取り付けると今度は美奈のもとに行った。
「美奈、今日の放課後のことなんだけどちょっと残ってくれるかな?用があって。」美奈はなんのことか全くわからないがとりあえずわかったとだけ答えた。
そしてその日の放課後。ほとんどの生徒が部活や帰宅などそれぞれの時間に入ったが、美奈と優佳そして奈津美は教室に残った。
「奈津美、美奈。勉強しなければいけないのに残ってくれてありがとう。」優佳がまずは口を開いた。
「ほんとに時間がないから手短によろしく。」奈津美は乗り気ではないことを態度で示した。
「まず、奈津美。最近、美奈に対して冷たいよね?その理由を聞かせてくれない?」優佳が奈津美に聞いた。
「別に理由なんてないけど。」奈津美の答えに美奈は落ち込んでしまう。
しかし、これでは問題解決はできないと思った優佳はさらに奈津美に詰め寄った。「そもそも奈津美が美奈に対して冷たくなったのは、美奈が休んでから。
もしかして奈津美は勘違いしてるんじゃないかって思うの。仮に本当に勘違いだったとしたら、その誤りを正したい。だから、正直に言ってくれない?私たちが卒業するまであと1年を切っているんだよ?このまま別れちゃってもいい?」
すると優佳の発言に苛立ちを感じ始めた奈津美は怒ったような口調で理由を話し出した。「優佳が言ってることはすこし違う。私が美奈に冷たくなったきっかけは、美奈が休む前から。」
美奈と優佳は驚いて顔を見合わせた。
「私はいつものように美奈に『帰ろう』って誘った。でも、この日は美奈は断った。その時はちょっと寂しかったけど美奈にもプライベートがあるからなと思った。でも、美奈が休む前の日くらいに私は誘った。その日も美奈は断った。
その時私は思ってしまったの。『あぁ。美奈は私と帰りたくないんだ。』って。自分でも捻くれた思考回路をしていることはわかってる。でも、一度そう思ってしまうとそうとしか思えなくなって。
だから、私もつい美奈に対して冷たくあしらってしまうの。」
美奈はショックだった。あの日、自分が断ったことが今の友人関係にまで響いているとは思わなかったからだ。
しかし美奈自身もその日は大変だった。
それを冷たくあしらっていると思われることはあってはならない。
ならば、その奈津美の脳に植えついた誤解を真実に変えなければいけない。
そうしなければ、自分の友人関係の一部が崩落してしまうのだ。
ついに美奈が真実を語り出した。
「わたしがあの時、奈津美の誘いを断ったことは申し訳なく思ってる。でも、
断った理由はわたしが休んだ、休むことになった理由にも繋がるの。」美奈はその時の自分の心情を思い出し声が震えながら続けた。「あの日、わたしは奈津美と優佳と3人で帰ろうって思ってた。でも、放課後にスマホを見たらお母さんから連絡が入ってて、それで急いでて。」
美奈は苦しさのあまり声を詰まらせた。
真実を知らない奈津美は「その用事ってなんなの?」と聞いた。奈津美の言葉には催促の色が滲み出ていた。真実を知っている優佳は「ちょっとは美奈の気持ちを考えてよ!」と怒鳴った。
美奈は顔を真っ赤にしながら正面を向いて「お兄ちゃんが亡くなったの!」とはっきりと言った。涙が止まらない美奈は思わずその場にしゃがみ込んでしまう。
奈津美は予想もしなかった真実に動揺してしまう。美奈はどうにか声を絞り出すと「わたしはお兄ちゃんと2人で大学合格を目指して頑張ってきた。」
奈津美もこれで改心したかと思われたが、「それなら志望校に受かってみなさいよ。あなたはあなたのお兄ちゃんと一生懸命頑張ってきたんでしょ?そしたら、わたし達の仲を修復してあげる。」と提案すると奈津美はカバンを持って走って出ていった。
優佳はすぐに奈津美を追おうと思ったが美奈のことが心配になり、諦めた。
優佳は美奈のもとに行くと「ごめんね。辛いことを思い出せちゃって。」と背中を優しく摩った。
美奈は優佳の手の温もりを感じながら泣いた。
それから奈津美は美奈と優佳の両方との会話が一切なくなった。優佳も奈津美のことを嫌い、3人の関係は最悪となった。
その週の土曜日。武中の初授業の日が来た。美奈は学校で巻き起こっている最悪の事態を武中に悟られないように一旦奈津美のことを忘れた。
美奈は山根の時と同じ手順で武中とテレビ電話を繋いだ。
「美奈さん。こんにちは。今日からよろしくお願いします。」
「武中さん。よろしくお願いします。」
「じゃあ、挨拶は程々にして早速始めましょうか。と言っても歴史は自学自習である程度は理解できる教科なので、基本的なスタンスは自学自習で分からないところがあれば質問するという感じにします。」武中が授業方針の説明を始め、美奈はそれを真面目に聞いた。
自学自習に関しては美奈自身もそう思っていたので特に異論反論はなかった。
「それでは始めましょう。」
美奈は教科書を開いて読み始め、武中はその様子をコーヒーを啜りながら見守っていた。
5分、10分、15分と時間は刻一刻と過ぎていく。しかしそれまでの勉強の甲斐あって美奈はわからないところがなく、そのまま時間が終わろうとしていた。
「美奈さん。わからないところはないかな?」「今のところはないです。」
「それじゃあ今回はここまでにしよう。疑問点が出てきたら、次の週に質問してください。それではサヨナラ。」
武中の最初の授業が終わった途端に美奈の頭に再び奈津美のことがよぎった。
美奈はそのことが勉強に支障を来たしていることにイライラしていた。
そのため幾度となく、美奈の頭の中を支配している魔物のようなものを排除しようとしたが、それに対抗するように復活を繰り返している。とうとう美奈も諦めの道へと方向転換し、なんとかその魔物と共存する術を探っている。
美奈は次の日も勉強とその術を模索する作業を並行して行わなければならなかった。1分、1秒でも早くこの問題を解決しなければ、質の悪い勉強をする日が続き
そしてそれが最終的に最悪の結果を引き起こしてしまうことが十分考えられる。
するとその時美奈は閃いた。
それは、数日前に3人で話た時の内容がヒントになっていた。
「そうだ。受かればいいんだ。受かれば、この問題は自動的に解決へと向かうんだ。」美奈がそう考え始めた途端に
魔物は美奈の頭の中から姿を消したようだ。
そこから美奈の勉強の質は徐々に元通りになっていき、それに応えるように成績もゆっくりではあるが、上昇傾向にあった。
勉強に時間を費やす日々はあっという間に過ぎ去り、夏休みへと突入していた。
ほとんどの受験生は、夏休みに学習単元を終えるためのラストスパートをかける時期だが、美奈はそれをとっくの昔に終わらせてしまっていたので、問題演習をしてわからなかったところを補強していくという段階に入っていた。
もちろん夏休み中も武中と山根の講義は行われた。美奈は遠慮なく2人に質問をして1段でもライバルに差をつけるべく
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