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二章 悪の皇女は変化する

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「それはこちらの台詞ですわ!今まで会えなかったのにどうして急にお母様に会えるようになるのでしょうか」

「そ、それは……色々と都合があってだな」

「なんだかお祖父様は言っていることが二転三転するので信用できません」

「……っ!」

「次からはお父様に直接、お母様への手紙を出してもらうように頼みますので、お祖父様はもうわたくしに会いにこなくていいです。では、ごきげんよう」

「まっ、待つんだ、キャンディス!キャンディス──ッ!」


キャンディスはラジヴィー公爵の呼び止める声を無視して部屋を出た。
エヴァとローズは部屋にいるラジヴィー公爵とキャンディスを交互に見ながら困惑している。

(オーホッホッホ!思い通りにならない現実を噛み締めるがいいわ!)

キャンディスは心の中で高笑いをしていた。
もう来なくていいと言ったとしてもキャンディスの様子を見にホワイト宮殿に来るだろうが、緊急性がなければラジヴィー公爵とは直接、会って話さなくてもいいだろう。

スッキリした気分で部屋に戻ったキャンディスは己の運命が大きく変化したことにも気づかずに、紅茶を啜っていたのだった。


次の日、キャンディスはいつものようにアルチュールと共に食事をしていると『本がよみたいです』と言ったアルチュールの言葉を聞いてキャンディスはピンとくる。
今度はアルチュールに文字を教えようと思ったのだ。

(そういえばわたくし、面倒だし書庫なんて行ったことなかったわ。今回はアルチュールと一緒に行ってみましょう)

最近はアルチュールを連れて色々な場所に行くことが楽しみになりつつあるキャンディスは朝食を食べ終えてすぐにバイオレット宮殿にある巨大な書庫に移動していた。

キャンディスは滅多にホワイト宮殿から出ることはなく、幼い頃はバイオレット宮殿にある書庫に来ることはなかった。
理由は単純、本に一切興味がなく読まないからだ。
もし読みたいものがあったとしたら侍女に頼んで取りに行かせていた。
それからラジヴィー公爵を黙らせるためにも少しは自分で勉強しているフリをしなければと思った。

(ドレスや宝石はわたくしを救ってくれないとわかったもの。今から強くならないといけないし、勉強もしないといけないし、皇女も楽じゃないわ……!)

だが、今から断罪されないために力をつけることは必須。
今まではラジヴィー公爵に用意してもらっていた講師だが、できれば公爵の息のかかっていない者が望ましい。
キャンディスの様子はすべて筒抜けでサボろうとすればラジヴィー公爵がやってくる。
その繰り返しだったことを思い出す。
そしてこの頃から勉強漬けの毎日だったが、こうして外を見るようになり視野が広がったのはありがたい。

(本当はお父様に頼めたらいいのだけれど……絶対に無理よね)

自分で名前を利用しておいてなんだが、キャンディスは父に疎まれて嫌われている。
そう知っているのにわざわざ近づくのは気が引ける。
それにあの表情を見て、好かれていると思っていたキャンディスがおかしいのだ。

(わたくしがお父様に愛される未来なんて、ありえないんだわ)

それに今の段階からすでに父がキャンディスを嫌っているのは、ハッキリとわかりきったことだ。
ルイーズとはあんなに一緒にいたのにキャンディスには一度も会いにこないことがその証拠だ。

そんな相手に自分から近づいてお願いするなんて考えただけでゾッとするが、以前までは隙があればバイオレット宮殿に突撃して媚びていたのかと思うと、信じられない気持ちである。
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