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二章 悪の皇女は変化する

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そしてキャンディスはラジヴィー公爵に認識を改めてもらうためにあることを口にする。


「お祖父様……わたくし、お母様に会うのはもう諦めますわ」

「…………は?」

「お母様に会うのは諦めます、と言ったのです」


ラジヴィー公爵はキャンディスの発言に口をあんぐりと開けている。
あんなに母親に会うことを楽しみにして、ラジヴィー公爵がくるたびにいつ会えるのかを聞いていた。
目を輝かせていたキャンディスとは真逆の反応にラジヴィー公爵はそのまま動かなくなってしまった。
それほど衝撃的な発言だったのだろう。
暫くの沈黙の後にラジヴィー公爵はキャンディスと同じところまで屈み、視線を合わせると肩に手を置かれて心配されてしまう。


「ど、どうしたんだ!いきなり何を……っ」

「勉強を頑張ればお母様に会えるなんておかしいわ!」

「なっ!?」

「だってわたくしが頑張ってマナーを会得したとしてもお母様の病気はよくならないもの。そうですわよね?お祖父様」

「……っ!?」

「だからこれ以上、講師はいりません。わたくしはお母様に会うことを諦めることにしたのです」


キャンディスがそう言うと驚いていた顔が次第に引き攣っていき、怒りからか震えているように見える。


「まさかそんな風に思っていたとは……!キャンディスがこんなにめ冷たい人間だと思わなかったぞ!お前は母に会いたいと思わないのかっ!?」

「会いたいと思ってましたわ……今までずっとずっと、そう思っていた」


キャンディスは胸元でグッと手を握り込んだ。

心から母に会いたいと思っていた。
キャンディスと優しい声で名前を呼んで欲しい。
一度でいいから抱きしめて欲しい。
愛してると、一人ではないのだと思いたい。
ずっと、そう思っていた。

(どうして何年も騙されていたのかしら……わたくしったら本当に馬鹿ね)

五歳から十二歳になるまでの七年間、キャンディスの気持ちは踏み躙られ続けて、ついには裏切られてしまった。
何も知らないまま、二度と母に会えなくなった。

(ならもうこの時から会わなくても結果は同じよ。もうお祖父様の言う通りには動かない)

キャンディスは顔を上げて問いかけた。


「お祖父様、本当にお母様は生きているのですか?」

「なっ……!?生きているに決まっているだろう!」

「いつまで経っても会えないので、もういないのかと思いましたわ。お祖父様がわたくしを騙して従わせるための嘘なのかと」

「そ、そんなわけないだろう!」


キャンディスの突然の反撃にラジヴィー公爵は狼狽えているが、そのまま言葉を続けた。


「ならどうしてお母様はわたくしに手紙もくださらないのでしょうか。お兄様たちのお母様は皆、宮殿に会いにきているのにわたくしだけ……悲しくなりますわ」


ラジヴィー公爵は言葉を絞り出すように口にした。


「病弱が故に、ここまで会いにこられないだけだと言ったはずだぞっ!」

「そうですか。手紙を書けないほどに衰弱しているのですね」

「……っ!?」

「わたくしがお母様に会いに行くのはダメなのでしょうか」

「そ、それは……皇帝陛下に許可をもらったりと色々と大変なんだ」

「そうなのですか。それは知りませんでしたわ」


今までホワイト宮殿に閉じ込められるように外に出してもらえなかった。
理由はキャンディスの態度もあるだろうが、そこまでして母親とキャンディスを会わせたくない理由があるのだろう。

(きっとわたくしを騙すための嘘なのよ!)

キャンディスは今回、母はもう亡くなったと思うようにすることにしたのだ。
そうすれば『会いたい』などと執着することもない。


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