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三章

40 セドリックside4

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セドリックがそう言うと、マドレーヌは一歩前に出てカーテシーを披露する。
それはフランソワーズと比べてしまえば拙いものだった。
しかし今はそんなことはどうでもいい。
大切なのは、両親を納得させてマドレーヌと結ばれることなのだから。


「はい。わたしはフランソワーズお姉様に虐げられることを恐れてこの事実を伝えられなかったのです」

「なんてひどいことを……!」

「フランソワーズお姉様はわたしに自分の立場を奪われると勘違いしていたんです。わたしは仲良くしたかったのにっ……!」


瞳を潤ませるマドレーヌは庇護欲を誘う。
セドリックはマドレーヌを慰めるように抱きしめた。
それを見ていた両親も同情している。
あんなにも褒め称えていたフランソワーズを責めているではないか。
このまま二人を説得できればどうにでもなるだろう。
 
セドリックはニヤリと唇を歪めた。
両親はフランソワーズがよかったのではなく、宝玉が守れたらそれでいいのだ。
そしてフランソワーズがいなくなったところで、それよりも強い力を持つマドレーヌがいれば問題はないのだと悟った瞬間、態度を変えてきた。
セドリックの心がフワリと軽くなっていく。

(フランソワーズが必要だったんじゃない。フランソワーズの力を欲していただけなんだ……!)

それだけでセドリックの気持ちが救われたような気がした。

これでセドリックはマドレーヌと結ばれることができると思った。
ベルナール公爵とも改めて話すことになったが、母からマドレーヌに声がかかる。


「マドレーヌ、早速だが宝玉を鎮めて欲しい」

「人が集まるパーティーの後はどうもダメなのよね」


両親がそう言うとマドレーヌは、嬉しそうに笑みを浮かべながら頷いた。


「もちろんです! わたしに任せてください」


自信満々のマドレーヌは宝玉の間へと足を踏み入れる。
最近ではフランソワーズしか立ち入ることがなかった場所だ。
久しぶりに見た宝玉はわずかに黒く濁っている。
マドレーヌがこれを破壊してくれると期待しているのか両親も期待の眼差しを向けている。

マドレーヌは「緊張します」と言いながらも、部屋の中へ入っていった。
フランソワーズよりも力が強いならば数時間で出てくると思ったが、護衛からマドレーヌが部屋から出てきたと知らせを受け取てから半日以上経ってからだった。

セドリックがマドレーヌに声を掛けようとすると、いつもと違う様子に気づく。
俯いて肩を震わせるマドレーヌの名を呼ぶと、彼女はハッとした後に笑みを浮かべてこちらに駆け寄ってくる。


「マドレーヌ、随分と時間が掛かったようだが……」

「……。初めてですし、パーティーの後にで疲れてたんです」

「そ、そうか」


マドレーヌはそう言ってはいるが、フランソワーズはパーティーの後だろうと夜通しだろうと宝玉に祈りを捧げてていた。


「お父様やお母様にも報告たいので、一度ベルナール公爵邸に帰ってもいいですか?」

「あ、ああ」

「失礼します……っ!」


マドレーヌは逃げるように去って行ってしまった。
セドリックが宝玉に目を向けてみると、完全に宝玉は綺麗になっていないことに気づく。

(そんな……まさかマドレーヌは宝玉を完全に浄化することなく逃げたというのか?)

セドリックの頭に過ぎる不安。
マドレーヌはあれだけ自身満々に言っていたのだ。
初めてでうまくいかなかっただけだと言い聞かせていた。

(マドレーヌなら大丈夫だ。もしマドレーヌが嘘をついていたら?)

セドリックの背筋がスッと寒くなっていくのを感じていた。
しかし黒く穢れが残っている宝玉に背を向ける。


──この選択が大きな誤ちだったと気づかずに。

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