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二章
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しおりを挟むフランソワーズは辛い記憶を無理やり押し込んでから席に着いた。
料理が運ばれてくるが、フランソワーズが先ほど好んでいた食材ばかりが並べられていることに気づく。
「ステファン殿下、これは……!」
「ああ、君が好きそうな食材を使ってもらった。シンプルであっさりした食事を用意してもらったんだよ」
「……!」
フランソワーズはステファンの気遣いが嬉しく思えた。
先ほど思い出した苦い記憶がスッと消えていくような気がした。
それから馬車の時と同様に、ステファンとは面白いくらいに会話が弾み、自然と笑顔が増えていく。
彼は人を絶対に悪く言ったりしない。
そんなところもセドリックとは違い、一緒にいて居心地がいいと感じる瞬間だった。
食事が終わり、可愛らしく飾られたデザートが目の前に並べられていく。
紅茶を飲みながらフランソワーズは自分が意識を失った後の話を聞こうとしたが途中で唇を閉じた。
ステファンに水を口移しでもらったことを思い出してしまったからだ。
恥ずかしさで頭がどうにかなりそうになった。
祈っている間は時間の経過を忘れがちだ。
こうして体感してみると悪魔祓いは、簡単な仕事ではないと気づく。
(たしかマドレーヌは悪魔を消し去って人々を救って、皆から感謝されていたのよね)
マドレーヌは聖女の力を使って、たくさんの悪魔を滅したことで領民たちから大人気だった。
そして伯爵たちが事故死してしまったベルナール公爵家の養子として迎えられた。
そこでベルナール公爵領の人たちを味方につけるのだが、今のマドレーヌはそこまでしていない。
(悪魔祓いってわたくしにもできたのね……聖女の力を持っているから当然なんだけど知らなかったわ)
フランソワーズが国から出たため、マドレーヌは宝玉の前で祈っているの頃だろうか。
悪魔の宝玉が早く壊れることを祈るばかりだ。
(もうわたくしには関係ない話だわ……あの国のことは忘れましょう)
フランソワーズは話を逸らすように、ステファンがあの後どうなったのか問いかける。
意識を失い、イザークとノアによって城にある教会に運ばれたステファン。
その間、ステファンは随分と抵抗したそうで二人は傷だらけだったそうだ。
恐らくステファンを使って、フランソワーズを排除したかったのだろう。
意識が戻ったのは、呪いが解けた後だった。
イザークとノアにお礼を言ってからフランソワーズの元に急いだ。
そこでオリーヴの病が治ったことを知る。
それから彼はフランソワーズが祈っている扉の前で、ずっと待機していたそうだ。
だからこそフランソワーズが倒れた時に壁を叩いた僅かな音も聞き逃さなかった。
「聖女の仕事が、あんなにも過酷なものだとは知らなかった」
「そうなのですか?」
「軽率にフランソワーズに頼んだことを後悔したよ」
「いえ、大したことではありません。いつも半日は当たり前のように祈っておりますし」
「飲まず食わずで長時間、動かずに祈り続けるなんて簡単にできることではないぞ?」
フランソワーズは当たり前のように繰り返していたためか、特に何も感じなかった。
そのことを伝えるとステファンは驚いている。
「フランソワーズはシュバリタイア王国ではいつもこんなことを?」
「はい。祈りが終われば妃教育や公務やお茶会にも参加しておりました。これが普通のことかと思っておりました」
「…………まさか、ありえない」
ステファンはフランソワーズの話を聞いて絶句している。
確かによくよく考えてみるとフランソワーズは激務だった。
寝る間も惜しんで祈りを捧げ続けたからだ。
当たり前だったことも、指摘されてみると確かにありえない。
(幼い頃から疲れたと言うことすら許されなかったものね。嫌だと言えばお父様やお母様に頬を叩かれたわ)
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