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一章

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フランソワーズがステファンから逃れようとするものの、彼は気にする様子はない。
それから当然のように誰もいない城の廊下でステファンに抗議するように口を開く。
 

「このっ……離してくださいませ!」

「いつもあんなに淑やかだった君が、こんな風におてんばだったなんて感慨深いね」

「ステファン殿下、いい加減にしてください!」

「フランソワーズ嬢、あまり騒ぐと気づかれてしまうよ?」

「……っ!」

「僕はただ話を聞いて欲しいだけなんだ。だからこのまま大人しくしてくれるかい?」


いつもの紳士的な笑みも今回ばかりは意地悪に見える。

(話を聞いて欲しいって……ステファン殿下はわたくしと何を話したいのかしら?)

ステファンは城の外に向かっているようだが、こんな風にしているところを見られたらステファンだってよくないだろう。
人を呼ぼうとするが、それではフランソワーズも逃げることはできなくなってしまう。

(わたくしの自由が……っ、どうしてこんなことに)

やっと自由を手に入れられると意気込んだ途端に、希望を取り上げられてしまった気分だ。
とりあえずステファンから逃げることを諦めたフランソワーズは、彼に抱えられながら呆然としていた。

再び逃げようかと迷っていると、そんな様子に気がついたのか、フランソワーズの体を支える逞しい腕の力が強まったような気がした。
鍛えているであろうステファンと、いつも宝玉を抑えるために祈ってばかりでほとんど動かないフランソワーズ。
どちらが勝つのかは明らかだ。

ついに城の扉を出て、門までたどり着く。
フェーブル王国の王家の馬車を目にした瞬間、フランソワーズはステファンを見た。

(どこに連れていかれるのかしら。もしかしてフェーブル王国に……?)

門番はフランソワーズとステファンを見て、目玉が飛び出してしまいそうなくらい驚いている。
しかしすぐにステファンが笑顔で「内緒にしてくれるかい?」と、威圧している。
門番はブンブンと首を縦に振って頷いているのが見えた。
目の前にはフェーブル王国の馬車がある。
先ほどステファンが指示を出していた騎士たちの姿もそこにあった。
フランソワーズと目が合うと軽く会釈する。
煌びやかに装飾されている馬車の扉が開くと、そこには先ほどフランソワーズが用意していた荷物がある。


「フランソワーズ、国を出ていくつもりなら僕と一緒にフェーブル王国に来てくれないか」


大国の王太子にそう言われてしまえば、何も言えなくなってしまう。
追い討ちをかけるようにフランソワーズは、馬車の扉の前で下ろされてしまった。
ステファンはその場から動けないでいるフランソワーズをエスコートするように手を伸ばす。


「待ってください! まだ訳を説明されておりません。でなければ馬車には乗れませんから」


理由も話されないまま馬車に乗ることはできはしない。
震える手でフランソワーズはワンピースを掴んでいた。
ステファンは困ったように笑いつつ「危害を加えるつもりはないんだ」と微笑んでいる。
だが強引に連れてこられたからか、フランソワーズはステファンを警戒していた。


「理由は馬車の中で話したい。人には聞かれたくないんだ」


頑なに理由を説明しないステファンは、真剣な表情でフランソワーズを見た。
ため息を吐いたフランソワーズはあえてステファンの手を取ることなく、馬車の中に入っていく。

(まさかステファン殿下に、こんなタイミングで捕まるなんて予想外だわ)

そんなフランソワーズを気にする様子はなく、ステファンは騎士や御者に声をかけた後に馬車の中へ。
フランソワーズの前に腰掛けた彼の合図で馬車は走り出す。

窓の外を眺めていると、当然のように王都から離れていく。
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