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二章
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しおりを挟むフランソワーズは自分の体が揺れていることに気づいていたが起きられずに「ん~」と唸っていた。
身を捩ってみても体が痛いし、触れている部分が硬いので寝心地が悪い。
まだ眠っていたくて、手を払い退けつつ丸まろうとした時だった。
「おはよう、フランソワーズ」
「……む?」
「よく眠れたかい?」
フランソワーズはステファンの端正な顔立ちと吸い込まれそうな青い瞳をぼんやりと見つめていた。
ステファンはフランソワーズを見て優しく微笑んでいる。
頭を撫でられる感覚に再び目を閉じた時だった。
「気持ちよさそうに眠っていたから起こしたくはなかったけど、フェーブル王国に着いたよ」
「──ッ!」
状況を把握したフランソワーズは飛び起きた。
するとステファンと唇が触れてしまいそうな距離まで近づいていることに気づく。
フランソワーズはステファンから離れるようにして、ゆっくりと体を引いた。
ゴツリと痛々しい音と共に後頭部をぶつけてしまい身悶えることになる。
何日も馬車に揺られていたからか、重たい疲労感に腰を抑えた。
フランソワーズは長時間の馬車での移動で疲れてしまい、眠ってしまったようだ。
それに寝顔もバッチリと見られてしまったようだ。
(わ、わたくしったらなんたる失態を……!)
フランソワーズが呆然としていると、追い討ちをかけるようにステファンから声が掛かる。
「可愛い寝顔だね」
「~~~っ!」
ステファンはフランソワーズをフォローしようとしてくれているのだろうか。
にっこりと笑ったステファンは、顔が真っ赤になったフランソワーズに気づいているだろう。
気にしていないと言わんばかりに、エスコートのために手が伸ばされる。
彼の好意を無碍にすることもできずに、恥ずかしさから震える手でフランソワーズはステファンの手を掴む。
「……可愛い」
ポツリと呟くように聞こえた声は空耳だろうか。
手を引かれて抱き込まれるようにステファンの腕の中へ。
筋肉質な肉体にシャツ越しに触れると先日のステファンの体を見てしまった時のことが頭を過ぎて、さらに顔が赤くなる。
先ほどからステファンにペースを乱されっぱなしで悔しいような複雑な気分だ。
フランソワーズは乱れた髪を直す暇もなく、門へと向かう。
シュバリタリア王国の城も十分に立派なのだが、倍以上大きさで豪華な装飾が施された門。
見上げると首が痛くなるほどの城の高さに、開いた口が塞がらない。
フランソワーズはセドリックの婚約者になってからは、塔で祈りを捧げていた。
他国への外交は行ったことない。
代わりに国王や王妃が率先して外交に行っていたことを思い出す。
こうして他国に来たのも初めてだ。
門から城までの長い道のりを歩いていると、フランソワーズを出迎えるためなのか大勢の人たちの姿が見えた。
フランソワーズが目を凝らすと、フェーブル国王や王妃もいることがわかる。
(ど、どうしましょう……!今から身なりを整えるわけにもいかないし)
ボサボサの髪を簡単に結えているだけで簡素なワンピースを着ているフランソワーズは、今は平民にしか見えないだろう。
足を止めたフランソワーズは一歩、また一歩と後ろに下がる。
ステファンから笑顔が消えたと思いきや何故かフランソワーズを抱え上げた。
どうやら足を止めたことで、逃げようとしていると思われたようだ。
フランソワーズは驚いてバタバタと足をバタつかせると、ステファンは逃がさないとでも言いたいように顔が近づく。
唇が触れてしまいそうな距離にフランソワーズの動きがピタリと止まる。
「逃がさないよ。フランソワーズ」
ステファンの低い声が耳元のすぐ近くで響く。
耳を押さえながら首を横に振った。
ステファンにあれだけいい条件を提示してもらったのに、自分からそれを蹴るなどありえない。
フランソワーズは逃げるつもりはないと意思を示すために慌てて口を開いた。
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