【R18】4番目の彼女

井笠令子

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11.孤高の女神様

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 目が覚めると暖かい布団に包まれて横になっていた。窓辺にはクリスタルトロフィーを見つめる影。

「徹志くん? 」

「起きた? お疲れ様。まだ寝てなよ」

「うん」

 彼はベッドの横に膝をついて、子供を寝かしつけるように私の髪を撫でた。
 あぁ、幻だと思ってた徹志くんは私を迎えに来てくれた本物だったんだ。

「迎えに来てくれてありがとう。私一人だったら帰宅途中に凍死しちゃってたかも」

「クリスマスは一緒に過ごそうって言ったから」

「ごめんね。仕事終わるの遅くなっちゃって」

「大丈夫。気にしないで」

 そう言いながらも、やっぱり元気がないように見えるのは私のせいなんだろう。知らなかったとはいえ、きっと深夜まで外で待たせてしまったに違いない。
 そんな私の自責をくみ取ったのか、彼は優しく目を細めた。

「きぃちゃんはすごいね。また一人で乗り越えて」

「また?」

「中学の文化祭でさ、きぃちゃん一人で書道部の出し物やったでしょ。それで部活賞とったの」

「ふふ、そんなこともあったね」

「きぃちゃんは、あの時から俺の孤高の女神なんだよね」

「えー、なにそれ初耳」

「誰にも言ったことないもん」

 知らないうちに『孤高の女神』の称号を賜っていたとは。あの時の私は、孤高ではなく孤立と言った方が正しい状況だった──。


 中学二年の文化祭。私が所属する書道部ではすでに三年生は引退しており、私が部長を務めていた。『掲示ではなくなにか特別な事をしたい』という女子部員が勝手に申し込んでいたステージ枠のことは、時間割り当て表が届いて知った。

 なぜ、勝手に申し込んだのか。なぜ相談しなかったんだ。と彼女を責め立てるように言ってしまった。それがまるで私が彼女をいじめているように部員達には伝わっていた。それでもなんとか書道パフォーマンスをするという内容を決め、実行委員会に伝え、練習を始めた。

 しかし、いざ練習が始まると演目の中身や衣装の提案にはノリノリだった言い出しっぺの部員が、実現するには様々な準備や練習が必要なことを知ると早々に投げ出してしまった。そしてそれに連れ立って他の部員もやりたくないと言い出し、抜けてしまった。

 私は部長としての責任感から、やらないという選択肢はなかった。ステージの時間に穴が空くと他に迷惑がかかるし、それ以上に一度言ったことはやりきりたかった。
 結局私は他の部員を説得できず、一人でステージに上がった。


「……そういえば、あのとき大きなパネルを運ぶの手伝ってくれたの、徹志くんだったね」

「ごめんね。状況を噂で聞いたけど、俺は何にもできなかった。諦めなかったきぃちゃんをただ心で讃えただけだった」

 徹志くんの指の背が私の頬を撫でる。その手を握ろうと布団から手を伸ばした。

「あの頃さ、野球部でも活躍できなくてダンスもメンバーに選ばれなくて、ほんとなんもかんも中途半端でさ、すごい自分が恥ずかしい存在のように思っててさ。
 でもきぃちゃんの活躍を見て、俺も何か一つのことを頑張りたいなって。それでダンスを極めてやろうって決心できたんだ。ありがと」

 私が徹志くんを変えたなんて大げさな気がする。
 握った手は暖かかったけど少し震えていた。
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