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10.やりなおし
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クリスマスを来週に控えた木曜日、大口の宛名書きもひと段落。
予定通り無事に年末を迎えられそうだ。
「高橋さん、大変なことが起こっちゃった!」
そう言って筆耕室に転がり込んできたのは、林さんだった。
「どうしたんですか」
「新井様の年賀状の絵柄面に住所表記のミスがあって」
「もしかして」
「そう。宛名全件書き直しになりました。本当に申し訳ない」
「いや、それは林さんが謝ることでは……」
新年のあいさつと差出人の住所氏名が入った年賀状の絵柄面はデザイナーさんが作って印刷した。だが、その確認はデザイナー、デザイナー部の責任者、営業の林さん、何人もチェックできる人がいたにもかかわらず見逃してしまったのだ。
「私にも気づく機会があったのに気づけなくて、すみません。もちろん書き直します」
「でも、年賀状投函の締め切りまであと七日しかないから、分担できる筆耕を探すよ」
「今、この繁盛期に手の空いてる筆耕がいるわけないじゃないですか。しかも新井様は私の字をいつも好きだと褒めてくださってる大事なお客様です。やりますよ、全部。そのかわり今日以降受付の宛名書きはパソコン書体対応でお願いしてください」
「わかった。高橋さん、申し訳ないけど、お願いします」
先日終わらせたばかりの新井様の宛名書きは、二週間かかった。正直言ってあと七日で千件はキツイ。でも頑張ればできない数じゃない。やるしかない。
そうして私の残業の日々は続いた。
たまにステンレスボトルで部屋の外にそっと差し入れられるコーヒーがありがたい。筆耕中はこぼしてしまうと大変なので部屋に飲み物を入れないことにしているから、差し入れ主であろう林さんにお礼も言えていない。
今は、やり切るだけだ。
そして12月24日、恋人たちがイルミネーションとチキンを楽しみ、とっくにベッドに入っているであろう25時にようやく私は作業を終えた。
「……やった」
出来上がった年賀状を納品用の箱に仕舞って、あとは林さんが明日納品してくれればOKだ。
私は、寝不足と無事終えられた安堵の謎のコラボレーションで若干ハイだったんだろう、従業員用の出口をでると徹志くんの幻が見えた。彼の腕の中の温かさを思い描いて、マッチ売りの少女はこんな感じだったのかな薄れゆく意識の中でぼんやり思った。
予定通り無事に年末を迎えられそうだ。
「高橋さん、大変なことが起こっちゃった!」
そう言って筆耕室に転がり込んできたのは、林さんだった。
「どうしたんですか」
「新井様の年賀状の絵柄面に住所表記のミスがあって」
「もしかして」
「そう。宛名全件書き直しになりました。本当に申し訳ない」
「いや、それは林さんが謝ることでは……」
新年のあいさつと差出人の住所氏名が入った年賀状の絵柄面はデザイナーさんが作って印刷した。だが、その確認はデザイナー、デザイナー部の責任者、営業の林さん、何人もチェックできる人がいたにもかかわらず見逃してしまったのだ。
「私にも気づく機会があったのに気づけなくて、すみません。もちろん書き直します」
「でも、年賀状投函の締め切りまであと七日しかないから、分担できる筆耕を探すよ」
「今、この繁盛期に手の空いてる筆耕がいるわけないじゃないですか。しかも新井様は私の字をいつも好きだと褒めてくださってる大事なお客様です。やりますよ、全部。そのかわり今日以降受付の宛名書きはパソコン書体対応でお願いしてください」
「わかった。高橋さん、申し訳ないけど、お願いします」
先日終わらせたばかりの新井様の宛名書きは、二週間かかった。正直言ってあと七日で千件はキツイ。でも頑張ればできない数じゃない。やるしかない。
そうして私の残業の日々は続いた。
たまにステンレスボトルで部屋の外にそっと差し入れられるコーヒーがありがたい。筆耕中はこぼしてしまうと大変なので部屋に飲み物を入れないことにしているから、差し入れ主であろう林さんにお礼も言えていない。
今は、やり切るだけだ。
そして12月24日、恋人たちがイルミネーションとチキンを楽しみ、とっくにベッドに入っているであろう25時にようやく私は作業を終えた。
「……やった」
出来上がった年賀状を納品用の箱に仕舞って、あとは林さんが明日納品してくれればOKだ。
私は、寝不足と無事終えられた安堵の謎のコラボレーションで若干ハイだったんだろう、従業員用の出口をでると徹志くんの幻が見えた。彼の腕の中の温かさを思い描いて、マッチ売りの少女はこんな感じだったのかな薄れゆく意識の中でぼんやり思った。
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