上 下
11 / 18
気付いてもらえないときのこと

嫉妬深い友人について

しおりを挟む

 入浴代は湯上がりのフルーツ牛乳で手を打とうと暖簾をくぐり、服を脱いで、カラカラと戸を開けて湯煙立ち込めるエデンへ。

「よぉ、ひさしぶりだな傍観者」
「人違いです」
「ンなわけあるかよ。そのツラ、忘れたことないぜ」

 嫌いではないが苦手な手合いというのは誰にでもあるだろう。ぼくにとってのそれが、この荘厳な山の絵を背に不敵に笑むレヴィという男だ。

 捩れる哄笑、渦巻く羨望。人好きしそうな人柄とカラッとした性格とは裏腹に、その本性こそ嫉妬がとぐろを巻いている。

「となり、失礼」
「オウ」 
 特に離れる理由もないので、かけ湯をしてレヴィの隣に浸かる。

「……え、なにしてんのお前」
 普通に気持ちよさそうに入ってたから気にならなかったが、こいつはミッコさんに負けて故郷に帰ったはずだ。
「なにって……風呂だよ」
 そりゃそうだ。

「帰ったんじゃなかったっけ?」
「ちょっとだけな。しかしまぁ風呂はいい! 銭湯だったか? やっぱ広いと最高だな!」 

 かはは、とレヴィは乾いた笑いを浮かべる。目の奥は笑っていない。

「その、故郷のお風呂に不満でも……?」
「話がわかるなぁオイ! やっぱお前がルチ
「いいよ、わかったわかった。迷惑になるから大きい声出さないの」
「む、オウ。失礼しました」

 やけに素直に頭を下げるレヴィ。騒ぎ出した彼に注がれた驚きメインの視線も散っていく。

「ところで卑怯者」
「ベルさんも僕のことそう呼ぶよ」
「ちっ。なぁ正直者」
「わかりやすくて助かるよ」

 レヴィの行動指針は嫉妬に他ならない。だから特別であろうとして、たまに変なことをするのだ。アホである。

「言ってみりゃお前さんほど正直なやつはいないさ。で、どうなんだ? お前が追いかけ回してるあの怪物とは上手く行ってんのか?」
「そこそこだよ」
「わかりやすいなぁ」
 なんだというのか。

「しかし自覚はないと見た」
「なにがだよ」
「いやぁ。ただ、羨ましいことだぜ、それって」
 正直なところ、僕はレヴィのことをあまり嫌いではない。苦手ではあるけれど。

 彼は羨ましいだなどと笑ってみせた。レヴィらしい、アホみたいな笑顔でだ。こんなふうに笑える生き方を、素直に羨む気持ちを吐き出せる生き様を、もし来世があるのなら手に入れたいものだ。

「上がったらカノジョとフルーツ牛乳だろ? 一緒にいいか?」
「……いいよ。でも僕、長風呂派だからね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ようこそ、悲劇のヒロインへ

一宮 沙耶
大衆娯楽
女性にとっては普通の毎日のことでも、男性にとっては知らないことばかりかも。 そんな世界を覗いてみてください。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

処理中です...