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気付いてもらえないときのこと

揮発と傲慢だった顛末について

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 アホなのでのぼせたレヴィを脱衣所の扇風機の前に横たえ、僕は番台でミクさんを見つめていた。

 ミクさんはボトルから出て、水の精霊の少女らしい姿をしている。精霊ではないのだけれど。精巧なフィギュアみたいだ。

「茹で上がるのです……」
「温泉ですからね」
「そうじゃなくて……」
 持って帰ってはダメだろうか。

 しかし仕事いつ終わる? 一緒しようよ。……などと気になったコンビニ店員さんをナンパするようなヤワな真似は少し恥ずかしいのでやめておく。

「ところでミクさん、お休みの日はなにを?」

 先ほどの誘い文句がコーラならこの口説き文句はコーヒーだ。なにを言っているんだ僕は。

「え、えと、新しいボトル探しを……」
「知ってるよ。ヤドカリみたいで可愛いですね。他になにか、僕の知らないことはありますか?」
「あの、その、えっと…………別の液体に入れ替わったり……します……」

 ……?

「色とか模様とか変えられるんですか? オシャレでいいですねぇ」
「ひゃうぅ……」

 ふと口をついて出た褒め言葉に照れ悶えるミクさん。かくいう僕も、自分で自分がなにを言っているかわからないのが実情だ。なに? 別の液体に入れ替わるのってオシャレなの?

「僕も少しのぼせてしまったみたいです。ミクさん、介抱してくれますか?」
「そういえば少し……顔が赤いような……」

 ぴたり、とミクさんの手が僕の額に触れる。

「あったかい……」
 そう目を伏せるミクさん。ひんやりして気持ちいい。

「ミクさん、その
「いやぁああああああっぱりいいなぁいいよいいですねお風呂は、ァゥッ!」

 ビシッとポーズを決めてミッコさんが女湯から出てきた。

「ん? なんですなんです、まだ未成年なんですからお酒はだめですよ?」

 窘めるように、ミッコさんは僕の頬を優しく叩いた。

「お酒なんて飲んでませんよ」
「そう? じゃあ……?」

 思い当たる節があるのか、ミッコさんは突然ミクさんを嗅ぎ始めた。

「…………てへ」
「てへって。可愛いですけど、アルコールは揮発しやすいから気を付けてねミクちゃん」

 後日聞き直した話なのだが、液体生命としての核となる概念があって、入れ替わるというのは器としての水だったりに乗り移るということだったらしい。

 このあと僕は風呂上がりとアルコール摂取による脱水で、レヴィ共々この銭湯の休憩室に連れ込まれた。アホは首回りの大きな血管を、馬鹿なことに警戒を怠った僕は経口での水分補給をミクさんによる液体操作で受け、日が暮れる頃には全快したのだった。
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