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不思議なことにオメガの男女は、他性の優秀な遺伝子をのみ、次の世代へと繋げることが出来るのである。そして、そういった特殊な存在であるがゆえか、個体数が極端に少なく、生存率や生命力も極めて弱かった。
獣の如き性質と希少性。そして、彼らだけが持つ他性に対する優位性。
それらすべての要因がために、オメガは他性の人間から疎まれ、蔑まれながらも、一方で自己の利益のために利用され、搾取される存在とみなされていたのだ。
中には番を得て幸福に暮らすオメガも少なくはないが、そのほとんどは『優秀な子を産む道具』として一部の上流家庭や、あるいは政府機関に一括管理されて子孫を産み育てて生涯を終えていく。
俺はラルカに、そんな苦悩に満ちた人生を味合わせたくない。
俺の手でラルカは幸せにしてやりたかった。
だからオメガであって欲しくない。
そんな願いを、祈りを込めて、俺はラルカを大切に育ててきた。
10年もの間。ずっと。
それ、なのに──
「大きくなった…よなぁ。うん。まあ、ちょっとは……」
「むう…クルトが大き過ぎるんだ」
あっという間に時が過ぎて、小さかったラルカは15歳になり、それなりに大きく元気に育った。とは言っても、幼児期の栄養不足が原因なのか、同じ年頃の男の子と比べても背が低く、体格も華奢で相変わらず小さかったのだけれど。
しかし、見た目はそんなラルカだが、病気だけはしなかった。健康で何よりなことだと思う。ついでに、学校でも積極的に運動しているせいか、華奢で細身な割にひ弱くも見えなかった。かと言って、性格的に活発そうな子供にも見えなかったけれど。
唯一の気がかりは、この年になってもラルカに性分化の兆候が表れないことだった。
細く白い首筋には、未だくっきりと黒いバーコート状のマークが印されたまま。医者には何度か見せたものの、ラルカの身体にそれ以外の異常は見られなかった。検査の結果はいつも、原因不明。前例もなく処置のしようもないので、経過を見守るしかない状況だ。
「ま、ラルカはまだ子供だし、そのうち分化するだろうさ」
「うん。そうだね」
元気に跳ねた黒髪を撫でると、ラルカは気持ち良さそうに目を閉じた。
嬉しそうな、幸せそうな、いつものささやかなラルカの笑顔。子供の頃に比べてラルカも表情が豊かになりはしたものの、それもまだ今でも俺にしか見せない表情がほとんどだった。
人付き合いに支障が出るのでは?と心配になる反面、俺だけがラルカのそういう顔を見られるということに、俺は密かな優越感と喜びを感じてもいた。
ラルカにとって俺は特別なのだ。俺にとってラルカが特別であるのと同じ様に。
ラルカの表情を見る度に、そう思えて仕方がないから。
そうであって欲しいと願うから。
こんな自分の心理に気付かされた時は、実に子供っぽくて我儘な独占欲だと、我ながら自分に呆れてしまったものだった。しかし、これも所謂『親馬鹿』に類するものじゃないかと、俺は勝手にそう思い込んでいたのだけれど。
真実は違っていたのかも知れない。
それだけではなかったのかも知れない。
いつの間にか俺は、親代わりとしてだけじゃなく、ラルカのことを──
『………まさか、な』
一瞬、脳裏に浮かんだおかしな考えは、馬鹿馬鹿しいことだとすぐに打ち消しされた。俺は確かにラルカを大切に思い愛しているが、それは疑いようもなく『家族』としてのものだけで、決して性的な下心のあるモノではなかったからだ。
それだけは断言できる。
だからこそ数日後、俺は、かつてない苦悩と自責の念とに苛まれることとなった。
獣の如き性質と希少性。そして、彼らだけが持つ他性に対する優位性。
それらすべての要因がために、オメガは他性の人間から疎まれ、蔑まれながらも、一方で自己の利益のために利用され、搾取される存在とみなされていたのだ。
中には番を得て幸福に暮らすオメガも少なくはないが、そのほとんどは『優秀な子を産む道具』として一部の上流家庭や、あるいは政府機関に一括管理されて子孫を産み育てて生涯を終えていく。
俺はラルカに、そんな苦悩に満ちた人生を味合わせたくない。
俺の手でラルカは幸せにしてやりたかった。
だからオメガであって欲しくない。
そんな願いを、祈りを込めて、俺はラルカを大切に育ててきた。
10年もの間。ずっと。
それ、なのに──
「大きくなった…よなぁ。うん。まあ、ちょっとは……」
「むう…クルトが大き過ぎるんだ」
あっという間に時が過ぎて、小さかったラルカは15歳になり、それなりに大きく元気に育った。とは言っても、幼児期の栄養不足が原因なのか、同じ年頃の男の子と比べても背が低く、体格も華奢で相変わらず小さかったのだけれど。
しかし、見た目はそんなラルカだが、病気だけはしなかった。健康で何よりなことだと思う。ついでに、学校でも積極的に運動しているせいか、華奢で細身な割にひ弱くも見えなかった。かと言って、性格的に活発そうな子供にも見えなかったけれど。
唯一の気がかりは、この年になってもラルカに性分化の兆候が表れないことだった。
細く白い首筋には、未だくっきりと黒いバーコート状のマークが印されたまま。医者には何度か見せたものの、ラルカの身体にそれ以外の異常は見られなかった。検査の結果はいつも、原因不明。前例もなく処置のしようもないので、経過を見守るしかない状況だ。
「ま、ラルカはまだ子供だし、そのうち分化するだろうさ」
「うん。そうだね」
元気に跳ねた黒髪を撫でると、ラルカは気持ち良さそうに目を閉じた。
嬉しそうな、幸せそうな、いつものささやかなラルカの笑顔。子供の頃に比べてラルカも表情が豊かになりはしたものの、それもまだ今でも俺にしか見せない表情がほとんどだった。
人付き合いに支障が出るのでは?と心配になる反面、俺だけがラルカのそういう顔を見られるということに、俺は密かな優越感と喜びを感じてもいた。
ラルカにとって俺は特別なのだ。俺にとってラルカが特別であるのと同じ様に。
ラルカの表情を見る度に、そう思えて仕方がないから。
そうであって欲しいと願うから。
こんな自分の心理に気付かされた時は、実に子供っぽくて我儘な独占欲だと、我ながら自分に呆れてしまったものだった。しかし、これも所謂『親馬鹿』に類するものじゃないかと、俺は勝手にそう思い込んでいたのだけれど。
真実は違っていたのかも知れない。
それだけではなかったのかも知れない。
いつの間にか俺は、親代わりとしてだけじゃなく、ラルカのことを──
『………まさか、な』
一瞬、脳裏に浮かんだおかしな考えは、馬鹿馬鹿しいことだとすぐに打ち消しされた。俺は確かにラルカを大切に思い愛しているが、それは疑いようもなく『家族』としてのものだけで、決して性的な下心のあるモノではなかったからだ。
それだけは断言できる。
だからこそ数日後、俺は、かつてない苦悩と自責の念とに苛まれることとなった。
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