運命──捨てられて養子にした子供は俺の運命の番だった

RINFAM

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「ラルカ、学校遅れるぞ」
「うん。クルト」
 それからしばらくして、俺とラルカとの生活が始まった。
 俺は6歳になったラルカを学校へ通わせ始め、なるべく普通の子供と同じように暮らせるよう心掛けた。俺が仕事で遅くなることも考えて、ラルカの食事の用意や世話をする通いのメイドも雇った。
 ラルカを1人きりにする時間を減らすため仕事を持ち帰り、休日にはラルカと2人で過ごしたり、2人であちこち出掛けることもあった。我ながら過保護かも知れねえとは思ったが、とにかく俺は、ラルカと一緒に居る時間を大切にしたかったのだ。
「そうだ、いつも言ってるが、身体に何か変調があったら、俺にすぐ言うんだぞ?」
「ん。わかった」
 車でラルカを学校へ送り届ける時、その細い首筋に付けられたバーコードを見た俺は、それが変化していないことを確めつつラルカにも注意を促す。
 見た目黒い刺青みたいなこれは、本来、性未分化の幼児に刻印されるマークで、幼児が成長し体質に変化が起こると、色が変わって個体の性別を表す。その後、性が確定し安定するとマークは自然に消えるのだが、ラルカの白い首筋のそれは変化を見せてはいなかった。

 あの後、病院で検査してもらったがラルカの性別は不明で、虐待生活による成長不順が原因だろうと診断された。俺は風呂に入れるなどした時に見て既に知っていたが、確かにラルカの身体はやせ細っていて小さく、ろくに食事を与えられていないことは明らかだった。
 通常、5歳児ともなればとっくに性分化しているものだが、まあ、原因が原因なのだから仕方がないし、未分化だからと言って焦る必要もないだろう。いずれ成長すればラルカも3つの性のいずれかに分化し、その性に見合った生き方をしていくだけだからだ。

 ただ、出来ることならオメガであって欲しくはなかった。

 何故なら3つの性の中でオメガは最も地位が低く、そして、その特殊な性質ゆえに他性から蔑まれ、見下されつつも、良いように利用される運命だったからだ。

 オメガ性に生まれた個体は成長すると、年に数度、1週間に渡る発情期に心身を支配される。その間、無節操に放たれるオメガのフェロモンに、他性の人間は男女の別なく狂わされ、込み上げる欲望と本能を抑制できなくなるのだ。
 この個を犯し、孕ませ、血を残せという、種としての本能に人は誰も抗えない。
 オメガ性を持つ男女は、己が意志とは無関係に、その身の内に『雄』を誘うのだ。
 しかも発情期の間、オメガは尽きることない欲情に身を焼き続け、一切、自分で自分を抑制できなくなる。最悪、フェロモンに引き寄せられて来る者を拒むことも出来ず、自身の意志など無関係に雄の欲望を受け入れ続けることになるのだ。
 抑制剤もあるにはあるが、高価で簡単に手に入る物ではない。しかも例え抑制剤があっても、それは多少抑えが効く程度の効果に過ぎず、根本的な解決がなされる訳ではないのだ。結果、オメガは発情期が近付くと、意志に関係なく他性を引き寄せ凌辱されてしまう。

 そんなオメガが救われる手段は、唯一無二の『番』を得ること。

 アルファと交わる最中に、首筋に噛み痕を残されると、オメガはそれ以後、自分を噛んだ相手にしか欲情しなくなるし、他の個体を受け付けなくなる。もちろん発情期のフェロモンも、番の相手にしか効かなくなるから、かなり負担が軽減されることになるのだ。
 しかし、オメガにその様な幸福が許されない、社会の裏事情がひとつだけ存在する。

 それはオメガにだけ備わる、他性の人間に勝る唯一の『優位性』だ。
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