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女子が魔物討伐を押し付けられたので騎士団へいきましょう

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「なんでこんな重要案件を無視してたんだ、あのアホ親父は……しかもメイに押し付けるって本気で意味わかんねぇ……メイは女子だぞ……」

 私からの報告と書簡を受け取ったチャーリーはもはや涙目になりながら頭を抱えた。
 いや本当に同情する。
 私だったらどつき回してると思う。わりと本気で。

 とはいえ、今は怒りを圧し殺して対処に当たらないといけない。

 山はうちの国にとって重要な財産だ。身を守る要害でもあるし、豊富な自然は肥沃な土壌形成の礎だし、山の幸だって大事な大事な食糧源である。
 そんな山に、魔物と猛獣たちが入り込んできているとか。

「魔物はたぶん……王国との一件の残党どもだろうね」

 チャーリーの分析に、私も同意する。
 王国の将軍が王子暗殺のために企てた魔物の集団発生は、ここからそこまで遠くない。一部が流れ着いてきても不思議はなかった。
 書簡によると、すでに種族別に小さい集落が出来つつあるらしい。

「だとしたら、すぐに討伐軍を編成しないと」

 魔物は繁殖力も強い。数が増えられたら厄介だ。

「そうだね。山狩りをして魔物は一掃してしまおう。問題は猛獣の方かな」
「こっちは魔物の移動に脅かされて逃げてきているだけっぽいね。数としては多くないみたいだから、自然に任せたいところね」
「うん。農作物に被害が出そうなときは対処しよう。じゃあ、このあたりは騎士団の見回りに追加かな」
「そうね。じゃあ早速騎士団長に渡りをつけましょう」

 私ははしたないと分かりつつ、お茶を一気に飲み干した。
 ああ、安寧の時間はどこに。


 ◇ ◇ ◇


「お断りする」

 …………はい?

 騎士団本部の応接室で、私とチャーリーは二人して目を点にさせた。
 いやだって、えっと?
 今、なんてほざきやがりましたか? 応接室のソファに座らずにこっちを見下ろしてくるオッサンさん?

 魔物討伐、及び新しい畑の開墾の手伝いと警備を依頼したのを、全部?

 断る? はい?

「ちょ、ちょっと待っていただきたい。今、なんと?」
「ですから、お断りする」
「騎士団の仕事の範疇でしょう、これは」

 私は書類に手を添えて、なるべく大人しく言う。
 騎士団は王国の戦力であり、貴重な人的資源である。町の基本的な警備及び初動対応は市民から集った衛兵団に任せているけれど、本格的な介入は騎士団の仕事だし、災害時はもちろん、公共事業なんかも騎士団から人手が出される。

 なのに、それを断るって、意味不明すぎるんですけど。

 さすがにチャーリーが咎めの視線を送っている。
 だが、騎士団長のオッサンはふんぞり返るばかりだ。

「そんなもの、騎士団の仕事ではない。畑だの警備だの、そんなのは衛兵団に、魔物の討伐なんざそこらの傭兵にでも任せればいいでしょう」
「衛兵団には町の警備の強化に当たってもらうわ。もちろん畑の警備にも人員はある程度出してもらうけれど、それだけでは足りないのよ」
「ならば拡充すればよろしかろう」
「いやいや、騎士団の仕事であろう。何より、魔物討伐の兵を傭兵だけでまかなえというのも無理がある」

 傭兵は金がかかる上に、働かない。
 まして魔物討伐となれば、間違いなく吹っかけられるだろう。

 いや、それ以前に体裁がダメだし。

 騎士団があるのに、騎士団を派遣せずに傭兵だけを向かわせるって。
 外聞悪すぎ。

「我ら騎士団は高潔なる騎士である。故にその牙は他国の騎士と戦うときのみ発揮されるものだ。であれば、そんな雑事に力も時間も使うつもりはない」

 睥睨しながら、オッサンは言い放った。
 あはーん? What did you say? can you say that again?(今なんて言った? もっぺん言ってみ?)
 脳裏に浮かんだ異世界言語を再生させつつ、私は笑顔をやめた。

「国を守るのが騎士団のつとめでしょ」
「否。国の存亡の危機にこそ立ち上がり、助けるのが我ら騎士団のつとめ。英雄の軍団がゆえに」

 なんだこの中二病なオッサンは。

「今がその国の存亡の危機ってことなんだが?」

 今度立ち上がったのは、チャーリーだった。しっかりと背筋を伸ばし、堂々とオッサンを睨みすえる。
 さすがに威圧感を覚えたか、オッサンも構えた。
 ばち、と、火花が散るように目線がぶつかる。

 あ、これはそっとしておこう。

 私はさっとテーブルに並べられたお茶を回収する。
 直後、動いたのはオッサンだった。

「言葉で通じないならっ!」

 ってなんで私の方に飛び掛ってくるワケ!? いや遅いけどっ! 私今お茶持ってるんですけど――――っ!?
 慌てて回避運動を取ろうとした瞬間、チャーリーが私を庇うように飛び出す。そのまま流れるような動きでオッサンの腕を掴み、投げ飛ばす。

 ずだんっ!

 と、心地よい音を立ててオッサンが床に沈む。
 ちゃんと手加減もされていて、オッサンは痛みよりも何が起こったかわからないで目を白黒させていた。

 甘い甘い。

 チャーリーはあのウトとトメから生まれたとは思えないくらい優秀な人なのである。そこらへんの騎士では相手にもならない。
 なんてったって、この私が五割の力で戦える唯一の男なのだから。

「その程度の腕で、よくも英雄などと言えたものだな」
「あ、あれ、あれええっ!?」
「そもそもだ。騎士団長。私はチャーリー。この国の第一王位継承者。即ち王族である。そんな私に手を出しておいて、ただで済むと思うか?」
「……はっ」

 オッサンはようやく何かに気づいたらしい。
 そう。そうなのだ。こいつが相手にしている私たちは王族である。騎士からすれば膝をついて敬う相手なのである。なのに、ふてぶてしく見下ろすばかりか飛び掛ってまでくるなんて。
 ぶっちゃけ、死刑まっしぐらである。

「あ、あああ、あああ、あのあのあのあの」
「これから私の言うことを忠実に遂行するのであれば、不問にしてやるが、どうする?」

 チャーリーの寛大極まりない言葉に、オッサンはただカクカクと頷くばかりだった。
 うん、なんだろう。この国、ダメな人多すぎない?
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