魔法使いが暗躍する世界で僕一人だけ最強のぼっち超能力者

おさない

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第26話 鳴神の災難

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「はー、疲れた! 初日からワケわかんないことばっかで散々だわ!」

 車の後部座席に座ったフレドリカは靴を脱いで裸足になり、意味もなく運転席の後ろ側を蹴る。

「……危ないのでじっとしていてください」
「はぁ? あんた、あたしに指図するつもり? あたしの方が偉いのに生意気ねッ!」

 ――ガンガンガンッ!

  揺れる運転席。奥歯を噛み締める鳴神。

「……まったく、騒々しいわ」

 シルヴィアはうんざりした様子で助手席に座り、ダッシュボードに靴を履いたまま足を乗せた。

「………………お二人とも、危ないのでシートベルトをしてください」

 鳴神は、物凄い力でハンドルを握りながら注意する。

「ふん! 言われなくても分かってるわよ! これで良いんでしょっ!」

 ――ガンッ!

 再び揺れる運転席。

「それとシルヴィア様。汚れてしまうのでそこに足は乗せないでください」
「………………」

 そう言われたシルヴィアは、何も言わずに足を下ろして靴を脱いだ。

 そしてシートベルトをしたうえで、再びダッシュボードに足を乗せる。

「私の足は綺麗だから……これで解決ね」
「いいえ…………」

 即座に否定する鳴神。

「…………静かな街ね。私、結構気に入ったわ」

 窓の方を眺めながら呟くシルヴィア。

「話を逸らさないでください」
「………………………………」

 しかし、シルヴィアがそれ以上動くことはなかった。自分にとって快適な姿勢を崩すつもりは一切ないようである。

「では、お二人が宿泊するホテルへ――」

 諦めて言いかけたその時、再び運転席がガンガンと蹴られた。

「お腹が空いたわナルカミ! スシを食べられるお店に連れて行きなさい!」

 フレドリカは突然そんなことを言い始める。

「呆れた……結局、観光気分なのね……」

 小さくため息をつくシルヴィア。彼女は肩をすくめた後、こう続ける。

「……それと、私はしゃぶしゃぶが食べたいわ鳴神」
「あんただって思いっきり観光気分じゃない!」
「……うるさい」

 二人揃って観光気分だった。

「それでは! 安穏茶屋に向かいます。この地域の退魔師が利用するお店です」

 再び喧嘩が勃発しそうな空気を感じ取った鳴上は、声を張り上げて二人の会話を遮る。

「そこにスシはあるの?」
「あります」
「しゃぶしゃぶは……」
「あります」

 肩を震わせながら問いに答える鳴神。彼の精神もかなり限界が近い。

 半日二人のお守りをしただけで満身創痍である。

「でかしたわ鳴神ナルカミ!」
 
 シルヴィアとフレドリカは、声を揃えて言う。

「……………………」

 同時に、鳴神はアクセルを踏んで車を急発進させるのだった。

 *

 精神をすり減らしながらも幾多の困難を乗り越え、安穏茶屋へとやって来た鳴神。

「やっと日本っぽい感じのところに来たわ!」
「……後はあなたがいなければ完璧ね」

 と、その一行。

「――それでは、私は車に戻っていますのでご自由に」

 やっとの思いで二人を送り届けた鳴神は、さり気なくその場から立ち去ろうとする。

 だがその時、再び入口の戸が開かれるのだった。

「……お? こんな所で何してるんだ鳴神?」

 店に入ってきたのは月城千佐都だ。

「くっ…………!」
「お前も飲むのか? いや、仕事……?」

 最悪のタイミングで最悪の人間に見つかってしまい、鳴神は歯を食いしばる。

 月城千佐都は、彼が趣味で作っている抹殺リストの一番上に名前が載っている人間である。魔法塾に生徒として通っていた頃からの、積りに積もった恨みがあるのだ。

「ん……? あの子たちは……」
「ベルゼブブの件で機関から派遣されてきた、一等退魔師のシルヴィア様とフレドリカ様です。ですが貴女には関係ありません」
「うそっ! 可愛い……! お人形さんみたい……っ! あんな子たちが一等退魔師なのっ!? 写真撮りたい!」
「……そうですか。では、後の面倒はあなたにお任せします」
「いや待て、逃げるな。仕事はちゃんとしないと駄目だぞ!」
「………………ッ!」

 月城は鳴神の腕を掴み、和風な造りの店内を見回してはしゃぐフレドリカとシルヴィアに近づいていく。
 
「こんにちわ! キミたち、かわいいね!」

 そして、いきなりそう話しかけた。

「う、うん? あんた誰?」
「……鳴神と同じ魔法講師ね」

 月城の勢いに押され、一歩だけ後ずさる二人。

「そう! もしよければ、私もご一緒させてくれないかな? 何でも好きなものを奢ってあげよう! 私は可愛い子にご飯を食べさせるのが大好きなんだ!」
「えっ! えぇっ!」
「か、かわいい……?」

 可愛いと言われたフレドリカとシルヴィアは、顔を赤くして満更でもなさそうな表情をする。

「そ、そこまで言うなら仕方ないわねっ!」
「つ、付き合ってあげるわ……」

 こうして、二人ともあっさりと陥落するのだった。

「……鳴神、お金を貸してくれ」

 少女二人を口説き落とした月城は、鳴神に小声で耳打ちする。

「…………は?」
「わ、私はおととい、別の子に奢ってしまったからな。現金はあまり持ち合わせていないんだ。――さっきはつい勢いに任せてああ言ってしまったが、足りないかもしれない!」
「……お断りします」

 即答する鳴神。

「ありがとう! キミなら貸してくれると思っていたよ!」
「………………………………」
「まったく、羨ましい奴だな! 可愛い美少女三人に囲まれて食事ができるんだ。なんなら、三人分の食費くらいはキミが出してもいいよな!」
「あ?」
「すみません調子にのりました……。自分の分は出します……」
「私は車に戻ってい――」
「では行こう!」
「……………………」

 ――その日鳴神は、妖魔たちの集まりよりも最悪な、地獄の宴会を経験するのであった。
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