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第7話 消えたA級妖魔
しおりを挟む最終的に十五分ほどかけて駅に到着した二人は、到着した電車に乗り込み、二駅先で下車する。
時刻は五時ちょうど。この時点で遅刻確定だ。
「あー……」
秋花は途端に塾へ行くのが億劫になる。
「どうせなら、どっか寄り道でもしてく?」
改札を通り抜けてすぐ、独り言のように呟く秋花。
「え……? 急にどうしちゃったのあきちゃん……!」
その言葉を耳にした小春は、ただでさえまん丸の目を更に見開いて驚いた。
「間に合わないなら急ぐ必要もないかなー……って。そもそも、今日は実技しかやらないんだし」
軽く伸びをして、秋花は続ける。
「少しくらいさぼっても問題ない」
本日の魔法塾で行われる実技とは、霊力の転化及び術式化の実践だ。
転化とは、体内に循環する霊力を「魔力」や「呪力」といった別の力へ変質させること。
術式化とは、変質させた霊力を対応する護符や神器へと流し込み、「黒魔術」や「陰陽術」として発動させることを指す。
黒魔術には魔力、陰陽術には呪力というように、高度な術式はそれに対応した力でしか発動しないのである。
従って、「転化」と「術式化」は退魔師であれば必ず習得しなければいけないとされる重要な技能なのだ。
それを踏まえた上で、秋花は断言する。
「塾で習う程度の実技なら完璧だしな。私たち」
「そうだけど……!」
幼少からの訓練によって呼吸をするように一連の流れを実行できる二人にとって、本日行われる実技は退屈な授業なのだ。
「わ、私のせいで真面目なあきちゃんが不良に……!」
小春はおろおろしながら言った。
「はるこは見かけによらず不真面目だもんね」
「ひ、ひどいなぁ。ぐうの音も出ないけど……」
「反省するのだ」
「ぐぅ…………」
「出たな。ぐうの音」
「…………うん」
小春はうなだれ、秋花は呆れた顔をする。
「で、でも! 不真面目かもしれないけどちゃんと優等生だからっ! 塾の授業の進みが遅いから、もっと実用的な訓練をしてるだけなのっ!」
「はいはい。分かったから行くよ」
「えっ、寄り道……しないの?」
気を取り直して魔法塾へ向かおうとする秋花に対し、小春が不服そうに問いかけた。
「だって、するような場所もないでしょ?」
「………………」
秋花の問いかけに対し、体を揺らしながら下を向く小春。
「もしかして、どっか行きたいところでもあるの?」
「うん。……ほら、この近くに昭間《しょうま》公園があるでしょ」
「……はるこ、まだ公園とかで遊ぶんだ。可愛いな」
「そうじゃなくて」
否定する小春の表情は、いつになく真剣である。おどけているわけではなさそうだ。
「……知ってるでしょ? 昨日の深夜、一瞬だけA級相当の妖魔反応があった場所がその公園なの」
「…………ああ」
その話を聞き納得する秋花。彼女の家の者達も、今朝はその件で殺気立っていた。
「A級の妖魔か……」
現在、妖魔の等級は国際魔法機関によって七段階に定められている。その霊力及び危険度に応じて、上からS級、A級、B級、C級、D級、E級、F級と割り当てられていくのだ。
E級以下は、妖魔を視ることが出来る程度霊力があれば誰でも簡単に祓うことができる。
D級以上は殺傷能力を持ち、祓う際には命の危険が生じる。
B級以上になると非常に危険かつ厄介な存在となり、熟練の退魔師でなければ祓うことは難しい。
S級はかつて観測された規格外の存在に対して特例的に割り当てられている等級であるため、A級に認定されている妖魔が実質最強クラスと言って良い。
その霊力の強さは、放置すれば単体で国一つを滅ぼすことができるほどだとされる。
現代の退魔師の間では「F級は『無毒な害虫』、E級は『毒を持つ害虫』、D級は『生身の人間』、C級は『人食いの猛獣』、B級は『武装した人間』、そしてA級は『大災害』を相手にする心構えで対峙しろ」とよく言われている。
つまりA級は他と比べて別格なのだ。現代でそれを祓える退魔師は殆ど存在していないため、皆が不安に思うのも無理のない話である。
「昭間公園……。なるほど……招魔ね。確かに、色々と招いてそうな感じの場所だけどさ」
その響きから嫌なものを感じ取った秋花は、思わず顔をしかめた。
「うん。だからちょっとだけ調べてみようよ」
対して、小春はそんな提案をする。
「おいおい、勝手なことはするなって言われてるでしょ? それに、妖魔の反応自体が誤検知だったって話だし」
「でも……もし本当にA級妖魔が出現してて、今は隠れてるだけだったら……大変なことだよ!」
「はるこ……心配なのは分かるけどさ……」
言い淀む秋花。
小春の両親は優秀な陰陽師であった。だが彼女が十歳の時、退治し損ねたB級妖魔の報復によって命を落としてしまったのである。
だから小春にとって妖魔は肉親の仇だ。妖魔を誰よりも憎み、また恐れてもいる。
この世からそれらを完全に消し去り、皆が平和に暮らせるようにしたいと彼女は本気で考えているのだ。
そしてそれは、彼女の両親がよく口にしていた願いでもあった。「私たち退魔師が暇に過ごせるのが、この世界にとって最も良いことなんだ」という話を、秋花も何度かされたことがある。
「いくらなんでも……無茶だって」
「……けど、どうしても気になるんだもん。授業どころじゃないよ」
「A級妖魔なんて今のあたし達でどうにかなる相手じゃないでしょ? もっと上の……一等退魔師に任せるしかないよ」
「うん……」
小さな声で返事をするが、納得していない様子の小春。
――退魔師は、祓うことの出来る妖魔の等級に応じた六つの階級が定められている。
A級を祓うことが出来るのが一等退魔師であり、秋花と小春はともに三等。退魔師としてはかなり優秀だが、祓えるのはC級の妖魔までだ。
「……分かった?」
「無理なこと言ってごめんね……あきちゃん……」
沈んだ表情で謝る小春。
「……ま、まあでも」
それを見た秋花は、視線を逸らしながら言った。
「本当に誤検知だったのか調べるくらいのことは付き合ってやってもいいよ」
「ほ、ほんと……?」
「――それはそれで勉強になりそうだし」
すると、小春の表情は一転してぱっと明るくなる。
「ありがとう! あきちゃんっ!」
「……まったく。あんな顔されたら断り辛いだろー」
秋花は苦笑しながら言った。
この後、想像を絶する恐怖が待ち受けているとも知らずに。
「……ん? いま……」
「どうしたの?」
「……いや。一瞬だけ向こうから異様な気配を感じたんだけど……気のせいか……?」
「それ、公園の方角だよ! やっぱり何かあるのかも!」
――その時、クラスメイトの影の薄い少年が駅の改札を出て、二人の脇をそそくさと通り過ぎたのだった。
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