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第27話 魔石を持つ者
しおりを挟むその魔物は最初、巨大な角を生やした牛のような姿をしていた。
動きが鈍く体は大きかったので、殆どの出場者が初め優先的にその魔物を狙っていたことを覚えている。
明らかに得点が高そうな割にそれほど強い魔力は感じ取れなかったので、俺やフウコも遠距離からそいつに向かって魔法を撃ち込んでいた。
「グオオォォォォォォォォオオオオッ!」
しかし、ある程度ダメージが蓄積した段階でヤツに明確な変化が起こった。
なんと、その体を突き破って巨大な人型の悪魔のような悪魔が出現したのである。
その様はまるで、蛹から羽化する瞬間の蝶のようであった。
「………………ッ!」
その魔物の全身から発されるおぞましい魔力を感じ取った俺は、相手が『魔石』を取り込んでいるのだと直感で理解する。
それなのに敢えて力を抑え、弱いふりをしていたのだ。
「ウマそうナ……肉だ……。捕まってヤった甲斐ガ……あっタ……!」
「……なるほどね。そういうことか」
狩りをしていたのは向こうも同じだったのである。
「サあ……どいツから喰おうかなア……?」
悪魔のような姿をしたその魔物は、口から鋭い牙を覗かせて笑みを浮かべながら、魔獣狩りに参加している子ども達を眺め回している。
本来であれば、こんな化け物は子供の手に負える相手ではない。魔獣狩りは即刻中止されるべきだ。
「――逃げるんだアラン君! そいつはまずいッ!」
現に観客席に居た先生達や実力のある大人は、羽化した悪魔を見た瞬間その異常性に気付き、観客の避難誘導と俺たち参加者の救助を始めようとした。
「ジャマを……するナ……!」
しかし奴は、先んじてその魔力で闘技場の周囲に展開されていた結界を強引に塗り替え、自分の領域にすることで俺達を閉じ込めてしまったのである。
元々かなり強固に作られた結界であるため、こうなってしまうと外からも内からも容易に破ることは出来ないだろう。
つまり、この時点で救援はしばらくの間見込めなくなり、目の前の魔物を倒さない限り闘技場から出ることすら不可能になってしまったのである。
「そんな……! お終いじゃ……!」
数十人居た参加者の子供達は例外なくパニック状態に陥ってしまい、このまま魔物が動き出せば一方的な殺戮が繰り広げられることは明白だった。
「……人を呪わば……穴……二つ……」
ナビーラも俺の後ろで気絶しかかっていたしな。
「……いいや、大丈夫だよ。フウコちゃん。……ついでにナビーラちゃんも」
「アタシの名前……どうして……?」
だからこそ、またあれをしたのは仕方ないことだったのだ。
「な、何を言っておるっ! お前さま、気が狂ったのか?!」
「僕は至って正気さ。……本当は先生にも怒られたくないしね」
俺は言いながら、ゆっくりと魔物に近づいていく。
「オマエ……かラだ……!」
「魔力解放」
「………………ッ?!」
次の瞬間、黒い魔力が一斉に外へと溢れ出して俺の周囲を取り巻いた。
「 黒渦ッ!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
そして、俺は凶悪な魔物を叩きのめしたことでかっこよく目立ってしまったのである。
「ほう……あれが噂の……!」
「真っ黒で……禍々しくて……すごい魔力……!」
近くで見ていたフウコやナビーラに好かれてしまうのも無理のない話だ。
「うゥ……があああああああああっ」
どうにか魔物を消し飛ばすと、ヤツは紫色に輝く大きな結晶を残していった。
「ふぅ、なんとか勝てた」
「そ、それは……?」
「魔石、かな。フウコちゃんは近づかない方がいい」
原作だとこれのせいで国が滅びるので、放置するというわけにもいかない。
この魔石が全ての元凶なのだから、その場で処分しておく必要があった。
「あ…………!」
しかし、そこで俺は名案を思いつく。
処分するのではなく、取り込んでしまった方が手っ取り早いと気づいてしまったのだ。
「くっくっく……!」
原作だといきなり七つも魔石を取り込んだから暴走してしまった。
しかしアランの才能が有れば、魔石一個分くらいなら容易く制御できるはずだと俺の直感がそう告げている。
……ちょうど叶えたかった願いもあることだし、願いを叶える力が手に入るという魔石を利用しない手はない。
「さてと……」
俺は目を閉じ、頭の中に願いを思い浮かべる。そして、魔力を纏って保護した両手で魔石へと触れてみた。
するとその瞬間。
「――――――ッ!」
全身に膨大な魔力が流れ込んでくる。
「こ、これは…………っ!」
身に覚えのある、不快な感触だった。
「あの……時の……っ!」
――同じだ。
この体に転生した後、一時的に失っていたアランとしての記憶が戻って来た時とまるで同じなのだ。
高熱を出して寝込み、ニナに看病してもらったことは今でもはっきりと覚えている。
あの時と違うところは一つだけ。流れ込んできているのが、記憶ではなく魔力の塊であるという点だ。
「うぐっ……うぅっ!」
他は全て同じ。頭の中がごちゃごちゃになり、強烈な吐き気が襲ってくる。
俺はたまらずその場に屈みこんだ。
「し、しっかりするのじゃアランっ!? 言わんこっちゃない!」
すると、じっと見ていたフウコが俺の元へ駆け寄って来て背中をさすってくれる。
「い……いや、僕は……もう…………だいじょ、うぐっ」
「アランーーーーっ!」
――どうにか返事をしようとした次の瞬間、俺は意識を失ってしまうのだった。
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