召喚魔法の正しいつかいかた

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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける

第103話 二人の相談

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「そういう訳だからさ、ちょっと知恵を貸して欲しいんだけど……」

「……まぁ、事情は分かった」

 ライオネル商会を通じてナツキ達に呼び出されたセンは、少し考えるようなそぶりを見せる。
 二人の相談内容は、どうやったら円満に学府を辞められるかというものであった。
 流石に二人と会うにあたって、毎回ライオネル商会の一室を借りるわけにもいかず、今はセンが借りた宿の一室で会っていた。

(まぁ、ライオネル商会の経営している宿の一室を借りているのだからあまり変わらないかもしれないが)

 そんなことを考えながら、センは二人に話を続ける。

「そもそも学府は任意に辞めることが出来るのか?」

「辞める人は少なくないかな……私が知っているだけでも十人くらいは辞めてると思う」

 卒業後はほぼ軍属になる学府を辞めることが出来るのか気になったセンの問いにナツキが少し思い出すようにしながら答える。

「辞めた理由は分かるか?」

「成績が振るわなかったり……金銭的な理由だったり、家の事情だったりかな?」

「なるほど……因みに、ハルカは学内ではどういった立場なんだ?」

「私……ですか?」

 ハルカが少し首を傾げたが、すぐにセンが何を聞きたいのかを理解した様で少しだけ考えるそぶりを見せた後に答える。

「私はあまり目立つような成果はあげていません……」

「成績はトップクラスだけどねー」

「べ、勉強は真面目にやらないと……」

 若干気まずそうにしながらナツキの茶々にハルカが答える。
 ハルカ自身は目立つ事を避けていたようだが、勉強で手を抜くことは出来なかったようで、良くも悪くも真面目なハルカらしいと言える。

「ふむ……どこかの考え無しと違って、知識の収集に重きを置いて派手な行動は避けていたってことだな?」

「考え無し?」

 ナツキが誰の事と言いたげな表情をしながら首を傾げるが、センもハルカもその事には答えずに話を続ける。

「私の魔法開発の才能は、派手な事をすれば身動きが取れなくなりそうだったので……新しい魔法の開発は基本的に行わず、魔法式の研究を主にしていました。研究室に参加させてもらったりもしていますが、目を着けられるほどではないと思います」

「そうだな……正直言って、ナツキの才能よりもハルカの才能の方が国としては手放したくないものだろうしな」

「……ハルカは確かに凄いけどー私はすっごく強いよ?戦争とかだと凄く役に立つと思うけど?」

「……この前話した時に言っただろ?お前は一万を倒せる人材……勿論そういう人材はいると心強い。だが、ハルカは万の弱兵を万の強兵に帰ることが出来る人材だ。国としては未来につながる財産という意味でもハルカの方が使い勝手がいいって話だよ」

「なる、ほど?」

 いまいち理解出来ていない様子のナツキに、ハルカが話しかける。

「お姉ちゃんは物凄く料理が上手な人。私は美味しい野菜を作る人かな?」

「野菜を作る人の方が偉いってこと?」

 ハルカの例えにナツキが首を傾げる。そんな姉にハルカはかぶりを振って説明を続けた。

「違うよ。料理を作ることの上手な人は、レストランに来る人に料理を作ってあげられる。美味しい野菜を作ることが出来る人は、皆の食卓に野菜を届けることが出来る。その違いだけの話だよ」

「センの言う国としてはって言うのは……」

「料理をすっごく上手に作ることが出来る人は……弟子とかも取れると思うけど、やっぱりセンスが大事なんだと思う。その人と全く同じって言うのは……レシピがあっても難しいよね?でも野菜の作り方は広く伝えることが出来るし、沢山の人に食べてもらえる。国としては凄い料理人も野菜を作る人も欲しいけど、今は食料を大量に作れる人の方が優先度が高いって感じかな?」

「なるほどー、人はいっぱいいるからね。少人数相手のお店より、多くの人の食卓を豊かに出来る人の方が欲しいって訳かー」

(俺の説明と同じことを言っていると思うのだが……やはりハルカは妹として姉の扱いに長けているということだろうか?)

 センが若干腑に落ちない思いをしているとナツキが言葉を続ける。

「それで、何の話だっけ?」

「ハルカは全力を出すとお前以上に国に目を着けられやすいのを自覚していて、能力を隠していたってことだ」

「あー、なんかそれ前にきいたことがあるよーな」

「……うん、お姉ちゃんには前にも説明したかな?」

 ハルカのその言葉を聞きすさまじく不安を覚えるセン。

(参ったな……ナツキは想像以上に……アレだ。伝える情報には注意が必要かもしれん)

 ナツキには迂闊な部分が多いとは思っていたが、ハルカによって説明が一度あったにも拘らず、その事を本当の意味で理解できていないというのは非常にまずいとセンは考えた。
 大事な情報を、それと知らずに漏らしてしまう危険性もそうだが、何より大事な情報を大事なのだと理解出来ていないのは、危険を通り越して害悪でさえある。
 敵であれば実にありがたい敵ではあるが……味方としては非常に困るだろう。
 戦闘力の高さに反比例して、センのナツキに対する信用度が限りなくゼロに近くなった。

「ナツキ……せめて大事な事を理解しようとする努力は止めるなよ?」

 センが若干諦めの色を含んだ言葉を発すると、ナツキが顔を顰める。

「分かってるわよ!自分がその……ちょっと考え無しってのは!」

「……そうか。まぁ注意する努力を忘れなければいいんだ。とりあえず話を戻そう。ハルカの方は学府を辞めるのは……紹介してくれた貴族への義理立てを除けば大丈夫そうだな。学費なんかはこちらで用意できるしな。問題はナツキだ」

「……なんで?」

 首を傾げるナツキにセンはため息をつく。

「……お前はがっつり目立っているだろうが。本当かどうか知らんが……お前はこの世界で一番魔法の才能があるんだ。現時点でお前より魔法が上手い奴はいるだろうが……努力を続ければいつかは追いつき追い越せる。その事を学府や国の連中が知っているわけでは無いが……学府一年目にして突出した実力を有しているお前を、国やその貴族がそう簡単に手放すわけがないだろ?」

 ハルカの才能と比べれば優先度が低いとは言え、それでも突出した武力であるナツキは国からすれば絶対に逃すことの出来ない人材だ。

「さっきの話だと、別にあたしなんかいらない子って感じじゃなかった?」

「そうは言ってないだろ。ちゃんと話は聞いてたか?そもそも、ハルカの方は実力を隠しているから、成績優秀者を逃がすのは惜しいくらいで済むはずだが、お前は武術大会で優勝したんだろ?半分軍に属しているようなものなのだから、辞めますの一言で話が済むわけないだろ?」

「えー、そういうもの?……私的にはエンリケさんにどう説明したらいいかって所を相談したかったんだけど……」

「そのエンリケって言うのはハルキアの貴族だろ?自分が紹介した人間が大活躍しているのに、国に所属せずに学府を辞められたりしたら相当なダメージだと思うぞ?」

「……」

「……やっぱりそうだよね……」

 センの台詞にナツキだけではなくハルカも困ったような表情になる。

「とは言え……俺もお前達が軍属になるのは非常に困るからな……まぁ、いきなりクーデターとか起こして国のトップになってくれるのであれば大歓迎なんだが」

「何物騒な事言ってるのよ!」

「いや、俺達の目的を考えれば大国のトップが味方なのは良い事だぞ?どうだ?一発王様やってみないか?」

「やってみないわよ!やりたいなら貴方がやりなさいよ!」

「やりたくないに決まっているだろ?国のトップなんか絶対に避けたい役どころじゃないか。頼まれたって断固拒否だろ」

 これ見よがしにため息をつきながらセンはかぶりを振る。

「まぁ、それはさておき、エンリケっていう貴族の事……一応調べておいた」

「え?なんで、エンリケさんを調べたの?」

「学府を辞めるのであれば、その貴族に話を通さない訳にはいかないだろ?なら相手を調べなければ円満に解決する方法なんか見つかるわけがない」

「……それは、そうかもだけど……なんか、卑怯臭くない?」

 センの言葉に、ナツキが呆れたような声を出した。

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