104 / 160
3章 召喚魔法使い、同郷を見つける
第104話 ぶっ飛ばす!
しおりを挟む「卑怯臭いの意味は分からないが……事前準備も無しに突撃する方が失礼じゃないか?いや、分かるぞ?誠意を見せるとか……疚しい事は無いのだから真正面から行けばいいとか……そういう自己満足的な解決方法もあるにはある。でもそれは、相手の事情を鑑みる事をせずに自分の要求だけを通そうとする、自分勝手なやり方だ」
「そんな言い方……!」
ナツキが眦を上げながら立ち上がるが、センは落ち着けという様に相手に手のひらを見せた後言葉を続ける。
「誠意は大事だ。だが誠意と自己満足をはき違えるなって話だ。相手の事を慮るのであれば、相手の事を良く知り、何を求めているかを知り、その上で自分の要求を通すにはどうしたらいいかを考える。最終的にお互いが満足いく結果に持って行くこと、それが誠意だ」
「私の知っている誠意とは違うみたいだけど……」
不満気にしながらも椅子に座るナツキを見て、センは表情を緩める。
「実直に思いを伝えることが誠意になるのは、相手が実直に伝えることを良しとしている時だけだと俺は思う。相手によって手を替え品を替えってのが俺の誠意の見せ方だ。実直に伝えることを気持ちよく感じる人間だけじゃない、そして同時に小細工を好まない手合いがいるのも事実。だから、俺は事前に相手の事を調べるんだよ、不快な思いをさせないためにな」
「うーん……」
いまいち納得していない様子のナツキを見て、先程のハルカの様な例えをしてみようと思いつくセン。
「そうだな……あれだ。プレゼントを渡す時の事を考えてみろ」
「プレゼント?」
「あぁ、プレゼントや土産を渡す際……相手の事を良く知っていれば好みの物、相手が喜ぶものを渡すことが出来るだろ?だが、相手の事を良く知らなければそれも難しい。渡す相手がどうでもいい相手だったら、深く考えずに適当な物を渡せば良いがな。だがそうでないのであれば、相手の好き嫌いを調べておいて損はしないだろ?」
「なるほどね!どうせなら喜んでもらいたいってことね」
「そういう事だ。だから事前に相手を調べるということは必要な事という訳だ」
なるほどなるほどと言いながら頷くナツキを見て、ハルカが若干困ったような笑みを浮かべている。
(まぁ、勿論相手を調べることによって弱点を見つけるという意味もあるが……ハルカの方は俺の考えを理解しているみたいだな)
姉妹でこうも考え方が違う物かと妙な関心をしているセンだったが、話を本題に戻す。
「そういう訳でエンリケという貴族を調べた訳だが……この貴族はあまり、人の良さそうなタイプではなさそうだな。少なくともナツキの言う誠意を真正面から受け止められるタイプではなさそうだ」
「そんなことないと思うけど……エンリケさん結構いい人だよね?」
「う、うーん。悪い人ではなさそうだけど……」
(ナツキはともかく、ハルカの方もそこまで悪い印象と言う訳でもなさそうだな)
「ナツキの価値観で言うなら善人とは言い難い人物のようだな。方々から恨みを買っているようだし……ナツキ達がその貴族と初めて会った時、襲われていたのを助けたと言っていただろ?野盗が無差別に襲ったという訳ではないみたいだな、怨恨からエンリケ本人を狙った物らしい」
「怨恨って……そんなにエンリケさんって襲われるほど恨まれているの?」
ナツキが愕然とした表情でつぶやく。
そんなナツキに、センは軽い様子で言葉を掛けた。
「流石に、襲った方にどんな理由があったかまでは調べていないが……まぁ、こういった世界だからな。直接的な暴力に出てしまう人間が多いのは確かだ」
「でも……あの時エンリケさんに襲い掛かっていた人達は武器を持って……本気で殺すつもりで襲い掛かっていたと思う……」
そう言ったナツキは肩を落としてしまう。
「……お姉ちゃん……必ずしも、恨まれている方が悪いって事は無いんだよ?それにお姉ちゃんは襲われている人を助けた訳だし、お姉ちゃんが助けなかったらエンリケさんは死んでいたと思う。だからお姉ちゃんは悪い事をしたわけじゃないんだよ?」
気落ちしてしまったナツキの肩に手を添えつつ、ハルカが言う。
ナツキは相手の事情も知らず、暴漢として制圧してしまったことを気に病んでいるのだろう。
「……まぁ、ハルカの言う通りだな。人間、生きているだけ、食事をしているだけで恨まれたりするもんだ。あまり深く考えるな」
「……それって、食べ方が汚くって恨まれるって事?」
「いや、お姉ちゃん、それは……」
「食べ方が汚いのは嫌われるくらいじゃないか……?流石にそれで殺されるほど恨まれたりは……滅多にないかと。いや、熟年夫婦だったらあるかも知れないが……それにしても長年の積み重ねだからな……」
センがしょうもない話をしていると、ナツキが少しだけ声を出して笑った。
「……熟年夫婦って……確かに、なんかニュースとかでありそうだけど……あははっ」
ナツキが笑ったことで、ハルカもほっとした表情に変わる。そんな二人を見ながらセンはどうしたものかと考える。
(正直言って、一番楽な方法は学府にも件の貴族にも何も言わずに出奔することだ。先ほどは言葉を濁したが……相手の貴族はかなり黒い。ライオネル殿からも注意が必要という風に言われているし……話し合いをしてもあまりいい結果にはならないだろう。相手からすれば……ナツキは思わぬ拾い物だろうし、何としても手元に置きたがるはず)
ナツキの成績が大したことなければ問題は無かったはずだが、武術大会優勝は流石に放ってはおけないレベルだろう。
センが調べた所では、武術大会優勝者は数年の下積みの後、ほぼ確実に近衛騎士に任じられるらしい。
貴族でなかったとしても、そんな出世間違い無しな相手との繋がりを、そう易々と手放したりはしないだろう。
(懐柔であればまだいいが……強硬な手段……ハルカを人質とすると言った手段も取りそうな相手だ。短絡的な方法ではあるが、短期的に相手に言う事を聞かせるにはいい手段だ。まぁ、関係の修復は望めないし、人質に何かあればそれで終わり……そうでなくても最強の駒が常に最大の敵になるリスクが付きまとう。俺なら絶対に避ける手段だが……相手の情報を見る限りだとやりかねん……)
センは相手の情報を思い出しながら、二人を説得する方法を考える。
(真実を伝えて出奔させるのが一番だが……ハルカの方は恐らく問題ない。ナツキも……恐らく問題ないと思うが……なんとなく俺の予想外の行動を取りそうで怖い。だが、話さなければ話は進まないか……出来ればハルカに先に相談したいところだが……)
ハルカと二人で話す理由を作れないものかとセンは考える。いくらセンであっても、ナツキに聞かせるのは面倒になりそうだからお前は聞くな、とは言えない。
「……もう少しその貴族……エンリケに関する情報を集めてみよう。少し時間はかかるかも知れないが、それを基に何かいい方法が無いか考えてみる。それと、ハルカ。少し魔法の開発の事で相談したいことがあるんだが、今度時間を作ってもらえるか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
センの頼みにハルカは少し驚いた表情になったものの、すぐに承諾する。
それを横で聞いていたナツキは不満げにしながら手を挙げる。
「ハルカだけ?私は?」
「ナツキは開発も出来るのか?」
「いや、それは無理」
センの言葉に口元をひきつらせながらナツキが答える。
「……来ても構わんが、結構難しい話になるぞ?」
「う……で、でも、ハルカとあんたを宿屋で二人っきりになんか出来ないわ!」
「……それは確かにそうだな。勿論、何もするつもりは無いが……」
(やはり二人きりになるのはまだ難しいか……)
そんな風に悩むセンの様子を見ていたハルカがナツキに話しかける。
「お姉ちゃん、魔法開発の話は私もしたいし……駄目かな?」
「うーん……でもやっぱり宿に二人きりって言うのは……」
「じゃぁ、お姉ちゃんが部屋の鍵を持っておくって言うのはどう?ずっと部屋に居ても退屈だろうし、自由にしてもらって……お姉ちゃんが部屋に自由に出入りできる状況で、センさんが……あの……へんなこと……とか……出来ない、よね?」
前半は饒舌に話していたハルカだったが、話の後半は顔を赤くしながら言う。
「あーなるほど。いつ私が入ってくるか分からないってことだね。もし変な事しようとしてたらぶっ飛ばす!」
「絶対にしないから安心してくれ。その案でいいなら是非お願いしたい」
センがそう言うと、顔を真っ赤にしたままハルカがこくりと頷く。ナツキはそんな妹の様子を見て、少し苦笑してからハルカの頭を撫でつつセンを睨む。
(ハルカは色々察してくれたみたいだな。非常にありがたいが……何故かナツキの威圧感が増しているな)
「指一本触れたらぶっ飛ばす」
「……まだ信用はしにくいだろうが、絶対に触れないと約束する」
今にも噛みついてきそうなナツキにセンは苦笑する。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜
四乃森 コオ
ファンタジー
勇者によって魔王が討伐されてから千年の時が経ち、人族と魔族による大規模な争いが無くなっていた。
それでも人々は魔族を恐れ、いつ自分たちの生活を壊しに侵攻してくるのかを心配し恐怖していた ───── 。
サーバイン戦闘専門学校にて日々魔法の研鑽を積んでいたスズネは、本日無事に卒業の日を迎えていた。
卒業式で行われる『召喚の儀』にて魔獣を召喚する予定だっのに、何がどうなったのか魔族を統べる魔王クロノを召喚してしまう。
訳も分からず契約してしまったスズネであったが、幼馴染みのミリア、性格に難ありの天才魔法師、身体の頑丈さだけが取り柄のドワーフ、見習い聖騎士などなどたくさんの仲間たちと共に冒険の日々を駆け抜けていく。
そして・・・スズネと魔王クロノ。
この二人の出逢いによって、世界を巻き込む運命の歯車がゆっくりと動き出す。
■毎週月曜と金曜に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる