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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける
第98話 リベンジ
しおりを挟む「……レイフェット、良くそんなぐびぐびと行けるな」
「まぁ、水……よりは飲みやすいな!」
「飲み比べるようなもんじゃないだろ」
酒をジョッキで呷るように飲みながら機嫌が良さそうにするレイフェットを見ながら、センは呆れた様にぼやきつつ立ち上がる。
「ん?どうした?」
「いや、気にしないでくれ。クリスフォード殿……すみませんが、少し……」
「なんでしょう……?」
「これをアルフィンに渡してもらえますか?」
センは紙に何かを書いて折りたたんだ後、クリスフォードにそれを渡す。
「畏まりました。すぐにお渡しした方が?」
「えぇ、お願いします」
センから紙を受け取ったクリスフォードが静かに部屋から出て行く。
その姿を見送ったセンは、レイフェットの対面に再び腰を下ろした。
「クリスフォードに何を頼んだんだ?」
「あぁ、ちょっとアルフィンに伝言を頼んだんだ」
「アルフィンに?宿題か何かか?」
ジョッキを片手に不思議そうな顔をするレイフェットにセンはかぶりを振った後、皮肉気な笑みを見せる。
「宿題って程のものじゃないが、ちょっとした頼み事ってところだ」
「ほぅ……ところで……アイツの勉強はどうだ?」
少しソワソワした様子を見せるレイフェットにセンは笑みの種類を変える。
「そうだな……確かにお前の言う通り、素直ないい子だな」
「だろ!?」
センの言葉に前のめりになるレイフェット。
「後は……勉強が苦手ってこともなさそうだな。やりたい事、やるべき事をしっかりと考えられているし、考え方もしっかりしている。まぁ、勉強に対して苦手意識があったのは確かだがな」
「そうなのか……?今までの家庭教師からは本人のやる気がなく、これ以上教えても効果がないと言われていたが」
「そんなことは無いと思うんだがな……正直学習意欲は低くなかったと思う。苦手意識が邪魔をしている部分はあったがな。まぁ、勉強は順調だし苦手意識もかなり薄れている……俺の家庭教師は予定よりも早く終わるかもな」
「そうかそうか……」
満足気に頷くレイフェットは実に誇らしげだ。
「やはりセンに頼んだのは正解だったな。実に俺は慧眼だな……惚れ惚れするぜ」
「褒めるポイントがどうかしているが……」
「なんだよ、なんか文句あんのか?俺の息子が可愛くて賢いのも、俺の見込んだ通りお前がしっかり勉強を教えてくれているのも間違ってないだろ?」
「文句があるのはその二点じゃないだろ……まぁ、どうでもいいが」
レイフェットが酒のせいか若干鬱陶しい絡み方をしてきて、若干投げやりな返事をするセン。
「そう言えば……アルフィンと勉強する時に、なんかゲームをやったりしているんだろ?」
「あぁ、それは聞いていたのか。ライオネル商会の商品だがな、まだこの街で売り出しているものではないが……」
「へぇ……まだってことはその内売り出すんだろ?」
「そうだな。いつになるかは俺には分からないがな。ハルキアの王都では入手困難らしいぞ?」
「一度試してみたいな」
「すまん、今日は持って来てないな」
「そりゃ残念だ……よし、じゃぁ今日は俺の提案するゲームで勝負しないか?」
「脈絡がないんだが?」
半眼になりつつセンは言うが、そんな視線なぞどこ吹く風と言った様子のレイフェットがどんなゲームにするかと呟く。
暫く悩む素振りを見せたレイフェットが、テーブルの脇に置いてある台車に目を向けた後、笑みを深める。
その様子を見たセンは軽くため息をついた後、レイフェットに尋ねる。
「で、何をするんだ?」
「これだけ酒があるからな。飲み比べでどうだ?」
「いや、今飲んでる酒を見ろよ?明らかに俺が勝てる要素がないだろうが」
センが飲んでいる器はショットグラスサイズ……手のひらに二、三個乗せることが出来るサイズのコップだ。それに対してレイフェットの器はジョッキ……センのそれに比べて十倍くらいの量を注げるサイズである。
センは未だに一杯目をちびちびと飲んでおり、対するレイフェットは豪快にぐびぐびの酒を飲んでいる……比べるまでも無く勝負にならないだろう。
「ちゃんとハンデをやるよ。そうだな……俺が五杯飲む間に、お前がその器で一杯飲めたらお前の勝ち、先に俺が飲み干したら俺の勝ち。それでどうだ?」
「……それはいくら何でもハンデがあり過ぎじゃないか?いくらキツイと言ってもこのサイズの器なら一気に飲めるぞ?」
「くはは!そうは言うが、まだその一杯も飲み干せて無いだろ!強がらなくていいんだぞ?」
そう言ってニヤニヤとした笑みをセンに向けるレイフェット。
「……まぁ、そこまで言うならそのハンデを貰ってやるか」
「おっし、じゃぁセンはその器に酒を継ぎ足すか」
「飲み干さなくていいのか?」
「それを待っていたら日が暮れちまうからな」
そう言ってレイフェットはテーブルの上に乗っているセンの器に酒を注ぎ、自分の分の器を五つ用意する。
「ルールは……自分の器を空にした方の勝ちだな?」
センがルールを確認すると、一瞬頷きかけたレイフェットがかぶりを振って答える。
「……いや、自分でちゃんと飲み干したら勝ちだ。始まった瞬間、中身捨てられたらたまったもんじゃない」
「……そのルールだと、例えばお前が俺の器を奪って飲み干したら俺の負けが確定するんじゃないか?」
「なんでお前はそうやって小ズルい方法ばかり考えるんだ?」
「ルールは従う物じゃなくって利用するものだからな」
センがそう言って皮肉気に笑うとレイフェットが大きなため息をつく。
「お前、ほんとアルフィンに変な事教えるなよ?」
「……俺から何を学ぶかはアルフィン次第だな」
「お前に任せるのやめるべきだったか……?」
「レイフェットの慧眼通り、逞しく育ってくれるだろうよ」
センの言葉に再び大きくため息をついたレイフェットが、顔を顰めながら口を開く。
「……ルールを追加する。相手の器には一切触れない事。これで相手の酒を飲み干したり出来なくなるだろ?後は……零させたりとかな」
「なるほど……了解だ。開始の合図はどうする?」
「じゃぁ……今飲んでいる俺の器をテーブルに置いたら開始。それまではお互いこれから飲む器には手を触れない事」
普通に考えて……ショットグラス一杯とジョッキ五杯の早飲み対決なんて成り立つはずがない。
いくらセンとは比べ物にならない程身体能力の高いレイフェットであっても、一度に口に含む量には限度があるし、いくらアルコール度数が高い酒でも、その気になれば一口で飲み干せる量を飲めばいいセンの勝ちは揺るがないだろう。
「了解だ。いつでもいいぞ?」
「よし、じゃぁ……始めだ!」
しかし、そんな条件であってもレイフェットは自信に満ちた笑顔で……開始の合図となる器を逆さ向きにテーブルに勢いよく叩きつけた。
センの飲むはずだった小さな器に被せるようにして。
「……これはどういうつもりだ?」
そう言ってセンは、自分の器に被せるようにして置かれたレイフェットの器に手を伸ばす。
「おぉっと?セン、それはダメだぜ?ルール違反だ」
「ほう?」
センは伸ばしていた手を止めて、満足げな表情で酒を飲んでいるレイフェットの顔を見る。
「相手の器に触れるのは禁止だ。そう決めただろ?」
「なるほど……そうやって、俺が酒を飲むのを邪魔している間にお前はゆっくりと酒を飲み干すと言う訳だ」
「別にルール上何の問題もないだろ?俺が器を置くと同時に勝負開始……相手の器には触れてはいけない。先に自分の器に入っている酒を飲みほした方の勝ち。何も問題ないだろ?」
「そうだな。問題はなさそうだ。ゲームを始める前に、合図を出すのはレイフェットの器でと宣言していたしな」
センがソファの背もたれに背中を預けながらそう言うと、レイフェットが呵々大笑をする。
「どうだ!前回の借りはここできっちり清算してやるぜ!それに、あー、なんだったか?ルールは従うものでは無く利用するもの、だったか?くはは!思いっきりルールに縛られているじゃねぇか!」
鬼の首を取ったかのように大はしゃぎするレイフェットは、勝利の美酒に酔いしれる様に、ゆっくりと味わいながら酒を飲み続けた。
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