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第78話 魔王妃強化作戦失敗?
しおりを挟む模擬戦明けの午後、訓練場に集まる一同は遂に「魔王妃の訓練」を再開する運びとなった。
なにやら私が「24時間」訓練し続けるという怪しい流れになっているのだが、一旦それは置いといてあることを確認することになる。
「アルテミシアの力を借りるってわけね」
ロキから説明を受けた私は、それを聞いて「まあ当然よね」と思うのであった。
というのも、生身の私が短期間努力した程度でなんとかなる世の中ではないからである。
もしもそれで魔王妃が「生き抜ける」程度の戦争だとしたら、魔王もアドルも夜を徹して事務仕事などしない。
私がアルテミシアの力を借りて、膨大な魔力を使いこなせるようになることが急務であるというわけである。
「とはいえ、アルテミシアの力を借りるっていう作戦は結構博打なんだよね」
先ほどまでの緩い雰囲気とは違い、いつになく真剣な様子のラティスが言う。
普段お調子者のイケメンが大事な時には真面目になる現象というやつである。
私の周りを取り囲む他の人員も皆、一様に険しい表情をしていた。
私も先日アルテミシアの力を借りた際の「恐怖感」を思い出し、小さく体を震わせる。
「師匠!もしもアルテミシアが暴走しちまいましたら、俺達が4人がかりで止めるんで!」
怯えて弱く縮こまっている私を見たオーキンスは、力強く応援してくれた。
それを隣で見ていたドレイクも「我らは大戦当時にアルテミシア殿との組手も経験しているから問題ない」と後押しする。
繕った真剣な雰囲気を一端崩したラティスも「駄目だったらまたロキ君を強化して抑え込むから大丈夫、大丈夫!」と笑っていた。
レティスに肩をポンポンと叩かれているロキは「ぐっ、まぁ、魔王妃様の代わりに俺が耐えるんで大丈夫っすよ!」と苦笑いしている。
「姫さん、それじゃあアルテミシアを呼んでみてください」
少し柔らかくなった雰囲気の中、ロキに告げられた私は「いよいよか……」と思いながら目を瞑る。
体の中にいるアルテミシアに声をかけるように、頭の中で彼女に話しかけてみた。
以前、私の脳内に直接語り掛けてきた時の彼女の容姿や声を思い出す。
そして、美しい黒髪の魔女に思いを届けるべく集中する。
頼むわよ、私に力を貸してちょうだい……。
アルテミシアは前回「いつでも頼ってね」と言っていた。
あの言葉が嘘でなければ、きっと今回も私の声にこたえてくれるはずである。
「お願い……」
そろそろ魔力が身体から噴き出し、以前の様に「強い魔王妃」としてこの地に立つことになるのだろう。
私はそんなことも考えながら彼女が出てくるのを待つ。
しかし、私がアルテミシアに問いかけている数秒間、木の葉を風が揺らす音くらいしか聞こえてこなかった。
「……あれ?」
あまりにもアルテミシアからの反応が無いので、私は目を開いて周りを見渡すのであった。
その様子を見て察したロキも、私と同様に「もしかして、計画の修正が必要か!?」と焦った様子である。
焦る人狼隊の隊長を少し離れたところから見守る部下たちも「おいおい、ロキ隊長大丈夫かよ……」とざわついていた。
足元で寝ころんでいたワタアメも、私の腕の中に潜り込んできて「もきゅぅ?」と心配そうに鳴いている。
「おい、何でも屋、この空気なんとかしろ」
必死で笑いをこらえているラティスに向かって、オーキンスが話しかける。
どうやら、ラティスはこうなることが予測できていたらしく「いや、ちょっとね……」とお腹のあたりを抑えていた。
作戦が失敗に終わることはなさそうだということに私とロキは安心する。
「それじゃあ、ちょっと失礼するね」
オーキンスとドレイクの視線を受け続けたラティスは、私の方へと近づきしゃがみ込む。
私は一瞬何をするのかと疑問に思ったのだが、彼が私の両手を握ったことで理解した。
今の私は「幼女」であり、圧倒的に身長が足りていないということである。
「俺がアルテミシアと対話してみるから、魔王妃様はじっとしててね」
端正な顔立ちのエルフに突然手を繋がれてちょっとドキッとした私だったが、今の状況を思い出して「うん、お願いするわ」と冷静に対応する。
こうして、ラティスを介してのアルテミシアとの対話が始まるのだった。
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