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第77話 模擬戦の結果
しおりを挟む「くっ、結局俺たちの負けっすね……」
大戦期を生きた3人とロキの模擬戦は、結局ロキ達の負けという結果で終わった。
とはいえ、ラティスとロキが観客達に与えた衝撃という意味では、彼らも負けていない。
むしろ、戦闘の様子を見ていた観客達は皆「軍医さんの新作魔法ってやばくない……?」とロキ達の判定勝ちくらいに思っているのであった。
「とんでもない試合だったわねぇ……」
私は呆れ混じりに、試合を見終わっての感想を膝に抱えるワタアメへこぼしていた。
周囲で野次馬している兵士たちも模擬戦の終わりと同時に沸き立つ。
彼らも漸く模擬戦中のピリピリとした空気感から解放され、溜まっていた感情があふれ出したのだろう。
こんな凄まじい試合を見せられたら、武人でない私ですら興奮せざるを得なかった。
試合の流れを雑に要約すると「ロキが一人で頑張った」というものである。
ラティスの新作魔法が恐らく「身体強化」に分類される魔法であり、それを一身に受けたロキが猛者二人を相手取るという構図であった。
魔王軍の中でもそこそこ強いロキではあるが、オーキンスやドレイクといった大戦期の猛者に比べると下っ端としてカウントされる。
私に戦闘能力の高低はいまいちわからないけれども、猛者二人が全力で攻め続けても突破できない防御力を作れる魔法というのがとんでもないことだけは分かる。
ただ、魔法発動中にラティスが動けなくなるという弱点はあるが、それでも今回の模擬戦の結果を見るに「新作魔法」とやらは随分と凶悪な仕上がりであった。
「ぁぁ……全身が軋む……」
試合が終わり、ラティスの強化魔法が切れたロキは訓練場の中央に横たわって呻いている。
そんな彼を見た私は「代償が大きすぎる」というロキの言葉を思い出すのであった。
----
会場を興奮で沸かせた模擬戦は無事に終わり、野次馬兵士たちもトボトボと解散して持ち場へと戻っていった。
そして、訓練場には私たち4人とドレイク、人狼隊の部下たちというメンバーだけが残る。
「というわけで、さっき俺にかかっていた「強化魔法」を姫さんにかけます」
ラティスによって無理やり回復させられたロキが、申し訳なさそうな様子で私に言う。
先ほどの光景を見た後でのロキの宣告は、私に絶大なる恐怖感を与えるのだった。
あの強化魔法の原理は、自身の肉体エネルギーを消耗する代わりにラティスの魔力を使うといった仕組みになっているらしい。
つまり、ラティスが乾電池のような役割を果たし、ロキは本来の数倍の出力を常に維持し続けられるというチート技であったというわけだ。
「これなら寝なくても死なないし、短期間で強くなれるよ魔王妃様、やったね!」
これから始まる地獄の訓練を想像する私を見て、ニコニコと楽しそうに喋るラティス。
そもそも私が弱っち過ぎて、多少の訓練ではどうにもならないと判断したラティスはある作戦を考えていたのだ。
その究極の訓練方法というのが「24時間戦う」という恐ろしい方法である。
どうやら、魔王軍に労働基準法など存在せず、魔王妃である私に人権など存在しない模様であった。
「ちょっとまって!その方法には欠陥があるわよ!!」
このままだと全身を酷使されて廃人になってしまうと、かつてないほどの危機感を覚えた私はラティスの作戦に指摘するのだった。
彼の言う「24時間戦う」作戦というのには重大な欠点があるのである。
少し考えればわかることなのだが、私が24時間動き続けるということは、術者であるラティスも同様に24時間絶え間なく魔法をかけ続ける必要があるのだ。
それに加えて、術中は動けないラティスの代わりに私を訓練づける教師役も必要である。
つまり、そもそもこの訓練法の設定に無理があるのだ。
私は「これ無理よ!!」と必死のアピールを見せる。
「いや、ラティさんなら大丈夫ですよ姫さん。教師役も俺と料理長が交代でやるんでなんとかなります」
私の提案を無慈悲にも却下し、ラティスなら一週間くらい魔法を使い続けても大丈夫だというロキ。
彼の言い分を聞いていたドレイク隊長も「訓練の合間に我も協力できるぞ」と楽しそうにしている。
そんなドレイクとオーキンスは「アルテミシア殿との戦闘訓練も久しぶりだなあ!」と思い出話で盛り上がっていた。
ああ、これはもう逃れられない……。
「それじゃあ魔王妃様、早速訓練を始めてみようか」
こうして、魔王妃の訓練が漸くはじまるのであった。
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