幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

文字の大きさ
上 下
47 / 91

第41話 魔王妃の作戦

しおりを挟む


 魔法陣が動いて、私たちから隠れているのだから見つからないのだ。
 よく考えてみると、あれだけ探したのに見つからないということはそういうことなのである。
 私の発言に対してシグマとニャルラは「魔法陣が歩く?」と首をかしげていたが、ガウェインはなにやら気づいたことがあるらしい。

「お嬢様、魔物に魔法陣を刻むことって可能なのですか?」

 ガウェインは魔物に魔法陣を記すことができるのならば、書かれた魔物が逃げ回れば「魔法陣は動ける」のではと言う。
 それに対して私は「可能よ、私の体内にも制御魔法陣があるわ」と答える。
 生まれたときに医師のゲンジに刻み込まれた「対アルテミシア」の魔法陣であった。

「制御魔法陣が入っているだと?」

 私の体内に魔法陣が刻み込まれていることを知らなかったシグマは驚く。
 そういえば、魔王軍の魔物には私がアルテミシアであるということを話していなかったわね。
 そもそもアルテミシアについて知っているのかも分からないが、魔王軍の書庫にあった本には書かれてあったので知っているかもしれない。
 私がシグマに自分が「アルテミシア」であることを話すと、意外な反応が返ってきた。

「先代の魔王妃メルヴィナ様もアルテミシアだったのう」

 顎を手で撫でながら先代魔王妃について話すシグマ。
 今の魔王妃殿のように小さくはなかったが、黒髪に青い瞳という点はそっくりであるという。
 ニャルラは「アルテミシアって何なのニャ?」とさらに首をかしげていた。
 魔物たちの間では「魔王妃は何か知らんけど魔力がすごい」くらいの認識であるらしい。
 まあ、その辺の話題は現状打破にはつながりそうもないので後回しにしておこう。

 とりあえずこの状況をなんとかしなければならないので、私は「魔方陣が生き物である可能性」に対する対策を話す。

「自爆した人狼の魔物のように、邪神教の狙いはもしかしたら「わたし」なのかもしれないわ」

 そのことについてはシグマ達もそう思っているらしく、私を守るのを最優先に動いているという。
 人狼が襲い掛かってきたときもシグマは私の命を一番に考えてくれていたことを思い出す。
 そのことについてはガウェインも「当然です」と強く言い切っていた。

「私たちは魔法陣を手分けして探したわよね?」

 そして、私たちが魔法陣を探す方向に舵をとることも予想済みであるとするならば魔物たちはどんな手をうつか?
 急いでいる私たちが魔法陣を手分けして探すだろうということは容易に想像がつく。
 すると、二手に分かれたことによって私のガードが手薄になるはずである。
 つまり、敵はシグマと私が2人行動になったときに何らかの手を打ってくるはずだったのだ。

「だが、魔王妃殿とワタアメと3人で行動している時も魔物は気配すら感じなかったのう」

 私の話だとハサミのもとへ帰ってくるまでに接敵してるはずだと言うシグマ。
 たしかにその通りなのだが、シグマは強いのでおそらく敵も警戒しているのだろう。
 言い換えれば、魔物側は私たちに攻め入るタイミングがなかったというわけだ。
 そう考えると魔物自体はあまり強くないのかもしれないわね。

「じゃあ、どうすれば魔物は姿を現すと思うかしら?」

 私がシグマ達に問題を投げかけると、うんうん唸った後でシグマが「分からんのう」と答えた。
 ニャルラも「片っ端から魔物を探すしかないニャ……」と弱気に発言する。
 私の意図に気づいたであろうガウェインは唯一その場で深刻な表情をしていた。

「お嬢様、それは危険すぎます……」

 ガウェインが私の考えに対して難色を示していることにシグマ達は困惑していた。
 シグマ達には私の作戦が伝わっていないのである。
 ガウェインが答え合わせもかねて、考えた作戦について話し始めた。

「つまり、お嬢様は「自分を囮にする」と言いたいのですよね?」

 ガウェインは悲痛な面持ちでそう言う。
 それに対してシグマやニャルラも「それは危険すぎる」と答えた。
 私はガウェインの言った作戦が概ねあっていることに喜びながら、彼らにこの作戦について詳しく話す。
 作戦の概要は簡単だ。
 ガウェインには申し訳ないがこの3人の中で一番対処しやすいであろうガウェインをここに残して、シグマとニャルラはいったん超速で魔法陣探しに出かけるふりをしてもらう。
ある程度の距離が開いたところで、敵はこのチャンスを逃さぬように私の命を狙いに来るはず。
 それを逆手にとって後ろから挟み込むというわけだ。

「現状ではこれが最善手のはずよ」

 一同もそれ以外に解決策は思いつかず、覚悟を迫られるのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな
恋愛
 四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。 記憶が戻ったのは五歳の時で、 翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、 自分が公爵家の令嬢である事、 王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、 何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、 そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると…… どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。  これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく 悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って 翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に 避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。  そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが 腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。 そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。  悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと 最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆ 世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?

まめまめ
恋愛
 魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。  大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹! 「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」 (可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)  双子様の父親、大公閣下に相談しても 「子どもたちのことは貴女に任せます。」  と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。  しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?  どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

季邑 えり
恋愛
 サザン帝国の魔術師、アユフィーラは、ある日とんでもない命令をされた。 「隣国に行って、優秀な魔術師と結婚して連れて来い」  常に人手不足の帝国は、ヘッドハンティングの一つとして、アユフィーラに命じた。それは、彼女の学園時代のかつての恋人が、今や隣国での優秀な魔術師として、有名になっているからだった。  シキズキ・ドース。学園では、アユフィーラに一方的に愛を囁いた彼だったが、4年前に彼女を捨てたのも、彼だった。アユフィーラは、かつての恋人に仕返しすることを思い、隣国に行くことを決めた。  だが、シキズキも秘密の命令を受けていた。お互いを想い合う二人の、絡んでほどけなくなったお話。

十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~

氷雨そら
恋愛
幻獣を召喚する力を持つソリアは三国に囲まれた小国の王女。母が遠い異国の踊り子だったために、虐げられて王女でありながら自給自足、草を食んで暮らす生活をしていた。 しかし、帝国の侵略により国が滅びた日、目の前に現れた白い豹とソリアが呼び出した幻獣である白い猫に導かれ、意図せず帝国の皇帝を助けることに。 死罪を免れたソリアは、自由に生きることを許されたはずだった。 しかし、後見人として皇帝をその地位に就けた重臣がソリアを荒れ果てた十三月の離宮に入れてしまう。 「ここで、皇帝の寵愛を受けるのだ。そうすれば、誰もがうらやむ地位と幸せを手に入れられるだろう」 「わー! お庭が広くて最高の環境です! 野菜植え放題!」 「ん……? 連れてくる姫を間違えたか?」 元来の呑気でたくましい性格により、ソリアは荒れ果てた十三月の離宮で健気に生きていく。 そんなある日、閉鎖されたはずの離宮で暮らす姫に興味を引かれた皇帝が訪ねてくる。 「あの、むさ苦しい場所にようこそ?」 「むさ苦しいとは……。この離宮も、城の一部なのだが?」 これは、天然、お人好し、そしてたくましい、自己肯定感低めの姫が、皇帝の寵愛を得て帝国で予定外に成り上がってしまう物語。 小説家になろうにも投稿しています。 3月3日HOTランキング女性向け1位。 ご覧いただきありがとうございました。

処理中です...