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第37話 崖下り気分

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「ガウェイン!!大丈夫!?」

 彼の肩をつかんでゆすると「お嬢様……大丈夫です……」とほほ笑むガウェイン。
 うまいこと爆破の勢いを利用して爆心地から距離をとっていたというガウェインは、体についた土を払って立ち上がる。
 爆風から私を守るために直撃を食らったシグマとニャルラは傷薬のようなものを体に塗っていた。
 いや、爆発を生身でくらってるのに傷薬程度で済んでしまうのか……・。

「自爆した魔物が言っていたことが気になるわね」

 私は人狼の死に際に残した一言について疑問があった。
 たしか「フェイリスの復活は止められない」と言いながら死んでいったはずだ。
 シグマやニャルラは特に気にした様子もなかったようだが、ガウェインは何か気づいたようである。

「お嬢様、復活は止められないってことは……」

 ガウェインが私に答え合わせを求めるように喋りかける。
 彼が言いたいのは「邪神教の教主フェイリスはまだ復活していないのでは?」ということであった。
 ガウェインと同じことを考えていた私は「そうね」と短く返答する。
 しかし、邪神教はすでに復活しているという話であったはずだ。

「おそらく、フェイリスがいない間の指導者がおるのだろう」

 私の疑問に対してシグマは「何人か心当たりがある」と邪神教の魔物について語った。
 彼が言うには、大戦時から邪神教にいた側近的な魔物がその役割を果たしているのではないかと言う。


----


 私たちは「復活前に阻止できれば邪神教を封じ込められる」ということで、少しでも多くの情報を拾うために現場へと急ぐことにした。
 邪神教の廃城とやらに近づけば近づくほど魔物と相対する機会も増えているあたり、おそらく目的地は「廃城」で間違いないはずである。
 今までよりもペースを上げて進んでいく私たち。

「ねえ、あれは何かしら?」

 廃城へと向かう道すがら、私は森の中に深く突き刺さった巨大な鋏を見つけた。
 持ち手には豪奢な装飾が施され、全体的に少し錆びた感じのハサミである。
 それは、私やシグマの身長よりも遥かに大きい、一見するとモニュメントのようにも見える物騒な刃物であった。

「あれは、おそらく大戦の時にいた巨人族の魔物が使っていた武器だろう」

 巨大な鋏の横を通り過ぎながらシグマが答える。
 ニャルラは流石に大戦時代は生きていなかったらしく「こんなのを振り回す奴がいたのかニャ……」と驚いていた。
 かつて存在したという巨人族についてイメージしながらも、私たちは廃城へと先を急ぐ。

 森の中を走り続ける私たち。
 シグマの腕の中にいる私は「いつまで森が続くのかしら」と思っていた。
 すると、そんな私の思惑を世界が汲み取ったのか森は一旦終わりを告げる。

「えっ、ちょっと、崖じゃない」

 森を抜けた私たちは、目の前に広がる「大河」に目を奪われる。
 岩肌の崖の下に、流れは緩いが川幅の広い大きな川が流れているのだ。
 そもそも、どうやって降りるのかも分からないし川を渡る方法も私はイメージできない。
 ガウェインも私同様に「どうするんですか……?」と困惑している。

「ここを降りて、川を渡るだけニャ」

 あっけらかんとした様子で言うニャルラに、私とガウェインは「いやいや、まさか」と苦笑いをするのだった。
 シグマもそれに同意して「それじゃあ降りるぞ」と言っているあたり、ニャルラの言ってることが冗談ではないことを確信する私たち。
 「まずい」と思った次の瞬間に、シグマは私を抱えて岩壁を蹴って降り始めた。
 それに続いてニャルラも「ガウェイン、歩行術の応用で簡単に降りれるはずニャ」と言って飛び降りる。
 シグマの腕の中の私は悲鳴をあげる間もなく次々と変わる景色に呆然としていた。
 時々見える景色の中に「待ってくださいよおおお!!」と叫びながら崖を降りてくるガウェインの姿が見える。
 それから程なくして、空中を落下しているような浮遊感を感じることはなくなった。

 久々の崖下りも楽しいもんだと呑気に笑うシグマとニャルラ。
 その後ろには「寿命が縮まる思いですよ……」と青い顔をしたガウェインが立っていた。

「本当に、勘弁してよね……」

 彼と同じく青い顔をした私の心境である。
 そして、目前に映るほぼ海のような広さの水辺に対して私は「まさか、次は川を渡るのかしら……」と弱気な感情を抱くのであった。
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