幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第30話 歩行術の効果

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 シグマ隊長によると、ガウェインが移動で必要以上に疲れるのは「重心」と「魔力」をコントロールできていないかららしい。
 彼の話によると、「歩行術」には接近戦闘による「肉弾戦」とはまた違う技術が必要だという。
 それは、戦争のように長期的で広域的な戦いを強いられることのない「現代の魔王軍」では訓練されていない技であった。
 なのでシグマは、1時間に1回10分程度の休憩を兼ねて「歩行術」についてガウェインに指南するという。

「明日の夜明けまでに習得できなかったら、グレイナル山脈を越えることはできない」

 その場合は、ガウェインには城へ引き返してもらうと言うシグマ。
 横に立つニャルラも「さすがに歩行術もままならないうちは山越えはむりだニャ」と首を振って頷いていた。
 インドア派の私は何が何だかわからないのだが、ガウェインも「やります」と覚悟を決めているようなので、おそらく必要なことなのだろう。

 シグマとニャルラによる講義が10分程度続き、私はその様子を近くの石の上に腰かけて見ていた。
 休憩もかねてトレーニングとシグマは言っていたが、ガウェインの様子を見てると更なる負荷となっているような気がした。
 しかし、シグマの言うように「歩行術」とやらを習得できれば肉体疲労を大幅に軽減できるのであれば、そのうち楽になるのかもしれない。
 いずれにせよ、歩行術が習得できない限り物理的にグレイナル山脈の踏破は厳しいということなので訓練するしかないのだが。


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 シグマ親子による「歩行術」の授業を休憩ごとに挟みながら、私たちはグレイナル山脈のふもとを目指して移動していた。
 だんだんと日も暮れ始めており、既に魔王城出発から5回ほど休憩をはさんでいる。
 休憩ごとに訓練を受けているガウェインであったが、当初よりも余裕そうに森の中を駆けていた。
 シグマの腕の中にいるだけの私は良く分かるのだが、明らかに休憩ごとに移動速度が上がっている。
 ガウェインが歩行術を身に着け始めたことにより、シグマ達がスピードを落とす必要がなくなってきたのかもしれない。

「歩行術ってすごいのね、ガウェインがきちんとついてこれてるわ」

 魔物の戦闘技術である「歩行術」の効果に驚いた私は、シグマの腕の中で声を漏らす。
 それを受けて、遠慮なしのスピードで爆走するシグマは「この分なら山越えも大丈夫そうだ」とガウェインの歩行術を褒める。
 ニコニコとガウェインのほうを振りかえって「恋をすると人も魔物も頑張れるんだニャ」と言うニャルラ。
 魔王軍内に広く知られる噂として「ガウェインは魔王妃様に惚れている」というものがある。
 ニャルラも例にもれずこの噂を信じているらしく、そういうわけでニヤニヤと後ろを振り返るのであった。

「いやいや、アリシアに惚れるならわかるけどさ」

 ニャルラが口にした噂について私は「ないでしょ」と両断した。
 おそらく、ガウェインの私に対する感情は「小さい妹」みたいなものだと思う。
 時々ガウェインの見せる気恥ずかしさみたいなものも「主人」に対して「兄妹」のような関係性を感じるバツの悪さみたいなものだろう。
 私たちの会話が後ろにも聞こえていたのか、ガウェインは魔力が乱れて少しバランスを崩すのだった。

「そういう話は夜にでもしとけ、そろそろ野営の準備をするぞ」

 娘が年頃の女の子のように恋愛話を私とする様子を見てシグマが言う。
 あたりも随分と暗くなってきたところで、キャンプをして一晩越すというわけである。
 途中からハイペースで進んできたこともあり、私たち一行はすでにグレイナル山脈のふもとまでたどり着いていた。
 この分だと明日は山越えになるだろう。


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「この山を越えたら、いよいよ邪神教の魔物たちがかつて住んでいたエリアに入る」

 私と一緒に火をおこしていたシグマが言う。
 火おこしの様子を見ていた私は「いよいよってわけね」と緊張感を感じた。
 ここから先は邪神教のテリトリーかもしれないと思うと、なんだか急に不安になってくる。
 今までは自分に好意的な魔物ばかりであったが、敵対心を持った魔物とも遭遇する可能性が出てくるというわけだ。
 少しうつむき気味に縮こまった私は、自分の両足が小さく震えていることに気づく。

「大丈夫だ魔王妃殿、儂とニャルラ、それにガウェインがついている」

 我ら3人がその辺の魔物に後れを取るようなことは無いというシグマ。
 私は頼れる虎の魔物に「そうよね」とほほ笑んで答える。
 私のために頑張ってくれるシグマやニャルラのためにも、立派な魔王妃になって魔王軍を支えていかなくちゃと私は思うのだった。
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