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第28話 戦神と魔王妃と騎士とメイド

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 明るい雰囲気の中、私はシグマ隊長に試験的に精鋭隊の一部隊のリーダーをやってもらえないか頼んだ。
 とりあえず一部隊作ってみて、その結果うまくいったら増やしてみようということである。
 隊長格といえども普段は鍛錬をするのみで暇そうにしていることをあらかじめ調べておいた私は、魔王軍でも最高峰の武力の持ち主であるシグマを指名したのだ。
 それに、彼ほどの武人がリーダーを請け負うならば、ほかの魔物たちにとってもリーダーは憧れのポジションになるはずである。

「ああ、儂は構わないがほかのメンバーは誰が担うのだ?」

 久しぶりに城の外の魔物とも戦いたいと腕をブンブン振るシグマは意外にも乗り気であった。
 彼自身も隊長である自分が諜報部隊として動くことになるとは思っていなかったらしく、なんだかワクワクした様子である。
 隣に座るヴァネッサは「戦神と呼ばれるこいつに命令を下せるような鋼の精神を持った文官はいないわよ?」と呆れたように言う。
 彼女に合わせるように、土塊スターチアも「私やヴァネッサ、ドレイクみたいな先代からの付き合いがある魔物くらいですね」と断言する。
 会場に居合わせる頭脳派の文官や執事たちも「俺を指名するのはやめてくれよ?」みたいな空気を放っていた。

「大丈夫よ、シグマ隊長に助言する役は「魔王妃メルヴィナ」がやるわ」

 会場のあちこちから「なに!?」と驚く声が上がった。
 豪奢な椅子でうつむいてため息をつく魔王や、隣で青い顔をしてこちらを見るアリシア。
 ヴァネッサやスターチアも「小さい魔王妃様が!?」と困惑した様子であった。
 いや、スターチアも私よりは大きいけどあまり変わらないわよ?

「隊員のうちの一人はここにいるガウェインが担当するわ」

 本人の背中をポンと叩いて喋る私に「お嬢様!?」と驚きを隠せない様子のガウェイン。
 私の推薦をうけて、第二部隊隊長の竜人ドレイクが「ガウェインならば問題ないだろう」とお墨付きをくれた。
 どうやら、最近は第二部隊に混ざって戦闘訓練を受けているガウェインの評価は意外にも高いらしい。
 周囲の魔物たちも「ドレイク隊長が言うなら問題ないだろう」という空気になっていた。
 ドレイクから好評価を受けたガウェイン本人も心なしか嬉しそうにしている。

「魔王妃殿、もう一人の隊員なのだが……」

 私の話を聞いていたシグマ隊長が残りの隊員について提案してきた。
 彼が推薦するもう一人の隊員とは「黒猫メイドのニャルラ」である。
 ニャルラは以前から風呂やその他の施設で色々と世話になっているので、私も彼女のことはよく知っていた。
 しかし、シグマはなぜメイドのニャルラを推薦するのだろうか。

「まあ、こいつとチームを組めて魔王妃様とも交流が深いのはあの子だけよね」

 吸血姫ヴァネッサによると、ニャルラは戦神シグマの「娘」であるとのことであった。
 そのことに私たち3人は驚きながらも「確かに少し面影があるかも……」と納得する。
 ニャルラは親父仕込みの武闘派でもあるらしく、戦闘能力に関しては申し分ないという。
 確かに、「魔王妃」と「第一部隊隊長」と「人間の騎士」と4人一組を組めるような器用な魔物はそうそういない。
 あと、魔王妃は「女の子」であるため、女性であるニャルラを組み入れるのは必然的である。
 そのへんのことをあまり考えていなかった私は少し反省するのだった。


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 私の提案に対して議論を重ねていた結果、会議は思いのほか長引いた。
 朝食を取った後に始まった定例会議が終わったのは、昼食の時間頃である。
 そして、邪神教に関する情報を一刻も早く手に入れるために昼食を取り次第動き出すことになった。

「お嬢様、お気をつけて。シグマ隊長、ニャルラさん、お嬢様をお願いしますね」

 魔王城の玄関口に見送りに来たアリシアが隊員の二人に私を託す。
 その名前の中にガウェインがいないことに気づいた私であったが、彼に関しては既に私の騎士であるからお願いは不要であるということなのだろうか。
 いや、アリシアの中でガウェインがまだ頼りない少年騎士というイメージなのかもしれないな。
 まあ、幼いころからの仕事仲間を信頼していないわけもないのでそんなこともないだろうが。

「うん、私がいない間お屋敷の対応とかお願いね」

 最近私のお屋敷をちょこちょこ訪ねてくる魔物たちの対応よろしくね、とアリシアに頼む私。
 アリシアの言葉を受けて、大柄の虎の獣人であるシグマは小さい私を抱きかかえて「ああ、魔王妃殿には掠り傷ひとつ負わせやしない」と言う。
 しかし、すでに彼の腕力で体を圧迫されている私は少し苦しかった。
 それを見たニャルラは「パパ、腕に力入れすぎニャ!」とシグマの頭に拳骨を落とす。

「おお、すまんすまん」

 隊長の威厳もあったもんじゃないシグマは、ニャルラに殴られて嬉しそうにニコニコしていた。

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