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第27話 立場とプライド 

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 突然シグマに「プライド」はあるか?と問いかける私に周囲は困惑する。
 隣に座っていたアリシアは私との長年の付き合いから何か気づいたのか「まさか、お嬢様……?」と眉をひそめた。
 シグマを含めたほかの魔物たちは「何のことだ?」と私の言葉の意味を考えている。

「魔王妃である私が隊長である「魔王軍精鋭隊」として諜報部隊を作るのよ」

 自分を隊長として、新部隊を設立するという提案をする私に魔物たちはさらに困惑している。
 近くに座るオーキンスも「魔王妃様が隊長?料理長じゃなく?」と不思議そうにしていた。
 いきなり何を言い出すのかと怪訝な表情の魔王が、アドルに対して「あいつ頭大丈夫か?勉強のし過ぎじゃないか?」と問いかける。
 第一部隊隊長のシグマもこれに対して「新しい部隊を作ることと儂のプライドに何の関係があるのだ?」と首を傾げている。
 私はその様子を見て「おっかない虎の魔物でも、猫みたいに首をかしげていると案外可愛らしいな」などと呑気に思っていた。

 私が改めて提案した「精鋭隊」は先ほど言った通り「4人一組」の部隊を魔王妃である私が指揮するといった部隊である。
 そして、4人一組のリーダーの役目は「一番強い魔物」に与えるという説明をした。
 もちろん会議場からはその説明に反論が飛んでくる。

「いやいや、それじゃあ結局情報収集を頭の悪い武人が指揮することになって意味ないでしょ」

 桃色の髪を手で掬い上げながら答えるヴァネッサ。
 彼女に言外に「頭の悪い武人」と揶揄されたシグマはその意味には気づいていなかった。

「リーダーである武人には、参謀である知能の高い魔物を生かす立ち回りを要求するわ」

 彼女の反論に対してニコニコしながら私は答えた。
 私が言う理論とは「隊長である私の命令としてリーダーにすべてを任せる」ということである。
 しかし、リーダーに任せる内容は「隊員達の能力を生かして、情報収集して無事に生還すること」であった。
 つまり、頭の良い魔物に指示をもらうことは「リーダーが命令して指示を出させる」行為であり、強い魔物が弱い魔物に従うというわけではないということである。

「なるほど、詭弁かもしれませんが確かにこれならなんとかなるかもしれませんね」

 先ほどから自らの不甲斐なさに嘆いていた土塊スターチアが、私の意見に対して好意的に頷いていた。
 スターチアとは反対に「いくらなんでもそこまで魔物はバカじゃないわよ?」と私に進言するヴァネッサ。
 彼女の隣に座るシグマ隊長は「むう?どういうことだ?」と話の流れを理解できていないようである。
 近くに座る竜人ドレイクも「魔王妃殿、もう少し我らにも分かりやすく話してくれぬか?」と頭上にはてなマークが浮かんでいた。
 そして、魔王からも「こいつらにも分かるように説明してみろ」という命令が私に下される。

「わかったわ、それじゃあ説明を始めるわね」

 彼らにも分かるように説明をすることにした私。
 まずは私が魔王妃様であり、魔王と並ぶ権力者であることを話した。

「魔王妃様である私は偉い!これはわかるわよね?」

 腕を組んで「ふむ」とうなづくシグマ隊長を見るに、これに関しては全員きちんと理解しているようである。
 続いて私は「魔王妃様から部隊を任されるリーダーは魔王軍の中でも特に偉い」と説明した。
 これは、各戦闘部隊の隊長格であるシグマや、ドレイク、スターチアのように偉いのだと付け加える。

「確かに、魔王妃様が任命するリーダーは魔王様が任命した隊長のように偉いはずですね」

 横に座るオーキンスが呟く。
 この料理長は意外と賢いのかもしれないなと思った瞬間であった。

「そのリーダーが魔王妃様から請け負った任務のために、与えられた隊員という「駒」の助言を利用するってことよ」

 私はそれに加えて「あなたたちだって強くなる時は「教え」を乞うでしょう?」と言うと、シグマをはじめとする武人は「なるほど、そういうことか」と理解したような雰囲気であった。
 つまり、弱い魔物に「ああしろこうしろ」と言われるのではなく、強い魔物のほうから「どうすればいい?」と聞くということである。
 本質的には全く変わらないのだが、武力を重んじる魔物たちにとっては重要なことなのだ。
 私はこういった形式上の手続きは大事であることを理解している。
 魔王軍の魔物たちにも人間の貴族たちと同じように「体裁」があるのだ。

 私の説明に対して魔王も「なるほどな」と感心した様子であった。
 先ほどまで私の意見に懐疑的だった吸血姫ヴァネッサも「たしかに、立場や上下関係を組み込めば可能かもしれないわね」と納得した様子である。
 謁見の間で話を聞いている魔物たちにも「もしかして、うまくいくのでは?」と明るい空気が流れ始めていた。

「そこでシグマ隊長、まずはあなたにリーダーをやってもらえないかしら?」

 そして私は空気の変わった会議の現場で、新しい提案をするのだった。

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