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第13話 一流料理人メルヴィナ
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「いえ、スープの野菜を煮るときは水から煮る方がいいわ」
そうすることで、おいしく調理できることを私は一同に説明することにした。
お湯で茹で始めると野菜の外側はすぐに柔らかくなるが、内部は比較的硬いままになってしまうのである。
このままでは芯が残っておいしくない。
しかし、中までしっかり火を通そうとすると表面が煮崩れしてしまうのだ。
だから、ひたひたの水から煮るのである。
「そ、そんな手法があるのか……」
「野菜の煮方など見習いの時に習ったきりだ」と驚いた様子の料理長。
驚くコック達をよそに豆と肉の煮物も、火が均等に通るようにサイズを切りそろえていく。
そして、肉の組織を柔らかくするための調味料を先に加えて弱火で煮る。
「これは、どういう意図があるんだ?い、いや秘伝の技なら見て盗むからいいのだが……」
私が見せる料理の一手間ごとに、料理長たちは説明を求める。
そのときにはもう、彼らも「私の料理」を認め始めている様子であった。
その問いかけに対して、私は「隠すものでもないわ」と丁寧に手順や役割を説明していく。
料理がすべて出来上がるころには、料理長たちの怒りの感情は既に消えていた。
彼らも一介の料理人として、純粋に私が料理している様子を見て楽しんでいるようである。
アリシアと私が完成した料理を人数分の食器に盛り付け、いよいよ味見の時間となった。
「それでは、皆さん召し上がってどうぞ」
私が一口食べて料理の味を確かめた後、皆に食べるよう勧める。
ドキドキした様子で食べる料理長たちやアドル。
彼らが料理を口に入れた瞬間、厨房内は静寂に包まれる。
そんな中、アリシアやガウェインは「やっぱり、お嬢様の作る料理が一番おいしいですね!」と手放しに褒める。
「う、うまい……、いや、うますぎる……」
目を見開いて涙をこぼすオークの料理長。
いや、ちょっと大げさすぎるわよ、あなた。
基本に忠実に料理しただけの私は、なんだか気恥ずかしくなってしまう。
他のコック達の中には「こんな旨いものが地上にあったのか……」と手にもつ匙を落とす者もいた。
アドルも「これが人間達の料理……、いや、メルヴィナ様の腕か……」と驚きを隠せない様子である。
「どう?お口に会うかしら?」
どうやら、私の中にあった「魔物と人間の味覚が根本的に違ったらどうしましょう」という不安は無用だったようだ。
もくもくと料理を食べ続けるコック達とアドル。
彼らも食堂で一緒にご飯を食べていたはずだが、魔物はよく食べる生き物なんだなと思う私であった。
食堂で出た料理もほとんど手つかずのままだった私たち3人も、ようやくお腹が満たされる。
みんなが料理を完食したのを確認し、私も一緒に食器や道具を片付ける。
ふと台所へ向かう私に「魔王妃様に片付けなんてさせられねえ」と言う料理長であった。
しかし、料理は「片付けまで」やることが基本であると思っているので、気にせず私は片付けを始める。
手際よく仕事を処理していき、料理の会も解散というときであった。
「魔王妃様!!俺を弟子にしてください!!お願いします!!」
オークの料理長が厨房の外へと向かう私に声をかける。
他のコック達にも「俺たちにもっと料理を教えてください!!」と懇願された。
その様子に若干困惑しつつも、アドルに確認をとる私。
アドルも「メルヴィナ様がよろしければ、ぜひ彼らに料理を教えてやってください」と涎をぬぐう。
さてはこいつ、私の料理に味を占めたな?
「そうですね、魔王城での食事もいくらか改善されるかもしれませんよお嬢様?」
今朝の朝食に耐えられなかったアリシアも私に提案してくる。
特に魔王城でやるべきこともなかったし、純粋に料理は好きだったので彼らに教えてあげることにした。
まさか、公爵家にいたころに厨房に通い詰めていたことがこんなところで役に立つとは……。
私みたいな「公爵家のお荷物」に対して良くしてくれていた公爵家のシェフたちには感謝しないとね。
こうして、魔物の弟子ができた私はだんだんと「魔王妃」へと近づいていくのであった。
そうすることで、おいしく調理できることを私は一同に説明することにした。
お湯で茹で始めると野菜の外側はすぐに柔らかくなるが、内部は比較的硬いままになってしまうのである。
このままでは芯が残っておいしくない。
しかし、中までしっかり火を通そうとすると表面が煮崩れしてしまうのだ。
だから、ひたひたの水から煮るのである。
「そ、そんな手法があるのか……」
「野菜の煮方など見習いの時に習ったきりだ」と驚いた様子の料理長。
驚くコック達をよそに豆と肉の煮物も、火が均等に通るようにサイズを切りそろえていく。
そして、肉の組織を柔らかくするための調味料を先に加えて弱火で煮る。
「これは、どういう意図があるんだ?い、いや秘伝の技なら見て盗むからいいのだが……」
私が見せる料理の一手間ごとに、料理長たちは説明を求める。
そのときにはもう、彼らも「私の料理」を認め始めている様子であった。
その問いかけに対して、私は「隠すものでもないわ」と丁寧に手順や役割を説明していく。
料理がすべて出来上がるころには、料理長たちの怒りの感情は既に消えていた。
彼らも一介の料理人として、純粋に私が料理している様子を見て楽しんでいるようである。
アリシアと私が完成した料理を人数分の食器に盛り付け、いよいよ味見の時間となった。
「それでは、皆さん召し上がってどうぞ」
私が一口食べて料理の味を確かめた後、皆に食べるよう勧める。
ドキドキした様子で食べる料理長たちやアドル。
彼らが料理を口に入れた瞬間、厨房内は静寂に包まれる。
そんな中、アリシアやガウェインは「やっぱり、お嬢様の作る料理が一番おいしいですね!」と手放しに褒める。
「う、うまい……、いや、うますぎる……」
目を見開いて涙をこぼすオークの料理長。
いや、ちょっと大げさすぎるわよ、あなた。
基本に忠実に料理しただけの私は、なんだか気恥ずかしくなってしまう。
他のコック達の中には「こんな旨いものが地上にあったのか……」と手にもつ匙を落とす者もいた。
アドルも「これが人間達の料理……、いや、メルヴィナ様の腕か……」と驚きを隠せない様子である。
「どう?お口に会うかしら?」
どうやら、私の中にあった「魔物と人間の味覚が根本的に違ったらどうしましょう」という不安は無用だったようだ。
もくもくと料理を食べ続けるコック達とアドル。
彼らも食堂で一緒にご飯を食べていたはずだが、魔物はよく食べる生き物なんだなと思う私であった。
食堂で出た料理もほとんど手つかずのままだった私たち3人も、ようやくお腹が満たされる。
みんなが料理を完食したのを確認し、私も一緒に食器や道具を片付ける。
ふと台所へ向かう私に「魔王妃様に片付けなんてさせられねえ」と言う料理長であった。
しかし、料理は「片付けまで」やることが基本であると思っているので、気にせず私は片付けを始める。
手際よく仕事を処理していき、料理の会も解散というときであった。
「魔王妃様!!俺を弟子にしてください!!お願いします!!」
オークの料理長が厨房の外へと向かう私に声をかける。
他のコック達にも「俺たちにもっと料理を教えてください!!」と懇願された。
その様子に若干困惑しつつも、アドルに確認をとる私。
アドルも「メルヴィナ様がよろしければ、ぜひ彼らに料理を教えてやってください」と涎をぬぐう。
さてはこいつ、私の料理に味を占めたな?
「そうですね、魔王城での食事もいくらか改善されるかもしれませんよお嬢様?」
今朝の朝食に耐えられなかったアリシアも私に提案してくる。
特に魔王城でやるべきこともなかったし、純粋に料理は好きだったので彼らに教えてあげることにした。
まさか、公爵家にいたころに厨房に通い詰めていたことがこんなところで役に立つとは……。
私みたいな「公爵家のお荷物」に対して良くしてくれていた公爵家のシェフたちには感謝しないとね。
こうして、魔物の弟子ができた私はだんだんと「魔王妃」へと近づいていくのであった。
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