幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

文字の大きさ
上 下
14 / 91

第12話 魔王城の厨房

しおりを挟む
「おい、誰かこいつを厨房に案内してやれ」

 げっそりと疲れた様子の魔王が、食堂の中央方向へ向かって雑に声をあげる。
 すると、魔王とメルヴィナの話を聞いていたオークの料理長が「はい、私が責任をもって厨房へお連れします」と立ち上がった。
 自らの自慢の料理を私に酷評され、多くの魔物たちがいる空間で恥をかかされたであろう彼の表情は硬い。
 確かに、そのことに関しては申し訳ないと私も思っている。
 だが、だからといって不味い料理を許していい理由にはならない。

 トラブル発生を危惧してついてきたアドルと、不機嫌なオークの料理長、その他のコック達に連れられて私は再び廊下を歩く。
 私の後ろの方を歩くコック達からは「料理長は先代の時から修行してるんだぜ?」と不思議そうにしていた。
 どうやら、コック達の間では絶対的な存在であった料理長が貶されたことに納得がいかない模様である。

「ここが厨房です」

 扉を開けろ!と部下に命令する料理長。
 身長が2m以上あるオークの料理長でも軽々と入れるほどの大きな扉である。
 彼に連れられて私たち3人は厨房へと入っていった。

「早速なんだけど、今朝の食事をどうやって作ったのか教えてもらえるかしら?」

 厨房の大きいアルミ製のテーブルの前の台の上に立つ私がコック達に問いかける。
 すると、料理長が「もう一度、目の前で用意します」と力強く答えた。
 コック達が持ってきた材料を熟練の手さばきで、手際よく調理していく。
 その様子は「ベテランコック」のそれであった。

「さすが料理長!動きに無駄がねえ!!」

 テーブルの周りを囲む下っ端コック達がその様子を賞賛する。
 たしかに、動きに無駄はなかった。
 そこに関しては私やアドルも「ほう」と感心する。
 そして、卓上に野菜のスープ、豆と肉の煮物が出来上がった。
 遅れて、ふかふかパンもあらかじめ作っておいたタネを焼き上げたものが到着する。

「魔王妃様、料理が完成しました」

 どうだ!と言わんばかりの表情と態度でメルヴィナに報告する料理長。
 改めて、人間3人は料理の味見をすることになる。
 コック達にとっては緊張の一瞬であった。

「やっぱり駄目ね」

 スープの野菜を一口食べた私は、容赦なく料理に対する低評価を下した。
 隣で食べるアリシアとガウェインも同様に「やはり、あまり美味しくはないですね……」と申し訳なさそうにしている。
 その様子を見ていたオークがバンッ!とアルミ製のテーブルを叩く。
 「何がいけない!」と感情をむき出しにするオークに対して、宰相のアドルが「料理長、落ち着きなさい」と諭した。

「しかしアドラメレク様、こうも私たちの料理を貶される理由が知りたいのです!」

 拳を強く握りこんだままの料理長が、歯噛みしながらアドルのほうを見る。
 長年食べてきた魔王軍の料理の味を知るアドルも「彼の料理がそんなに気に入りませんか?」と私に問いかけた。
 周りのコック達も「人間の味覚はおかしいのか?」と不思議そうにしている。
 そんな様子に呆れた私は、料理長たちに「料理」をふるまうことにした。

「同じメニューを私が作るわ。材料を用意して頂戴」

 まったく同じものを自分で作ると言い出した私に、アドルや料理長、その他のコックが驚く。
 いくら魔王妃様といえど、料理はそんなに簡単じゃないぞと言いたげな様子であった。
 しかし、横に控えるアリシアは「下ごしらえなどお手伝いします」と当たり前のような顔をして動き出す。
 料理は特にできないガウェインも「それじゃあ自分は材料運びます」と力仕事を買って出た。

 小さな女の子である私が見せる巧みな包丁さばきに、料理長を始めとするコック達は息を飲む。
 料理長の見せた「力強く速い」カットとは異なり、素材を慈しむような「優しくも鋭い」手際の良さに驚く一同。
 そして、スープの野菜を水の張った寸胴鍋に投入しようとしたところで料理長から待ったがかかる。

「魔王妃様、お言葉ですが「湯」が沸いておりません」

 オークの料理長は「お湯を沸かし忘れていますよ」とアドバイスをくれたが、私は「それではだめなのよ」と答える。
 その返答に「何をいってるんだこいつ」みたいな目で見てくるコック達。
 アドルも「水に野菜を入れても意味がないのでは?」と疑問を投げかけてきた。

「いえ、スープの野菜を煮るときは水から煮る方がいいわ」



 厨房の空気が変化した瞬間だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?

まめまめ
恋愛
 魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。  大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹! 「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」 (可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)  双子様の父親、大公閣下に相談しても 「子どもたちのことは貴女に任せます。」  と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。  しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?  どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな
恋愛
 四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。 記憶が戻ったのは五歳の時で、 翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、 自分が公爵家の令嬢である事、 王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、 何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、 そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると…… どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。  これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく 悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って 翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に 避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。  そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが 腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。 そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。  悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと 最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆ 世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

処理中です...