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番外編1 魔王軍第3斥候部隊の下っ端ビッケの驚き

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 僕の名前はビッケ。
 獣人族のハウンドウルフ種の魔物によって構成される「第3斥候部隊」の兵隊の一人だ。
 僕のいる第三斥候部隊は、いわゆる「偵察部隊」である。
 なので、僕の仕事は「いろいろ調べること」なのだ。

「なあビッケ、今頃例の花嫁さんが謁見の間に到着してるはずだぜ!」

 僕の隣でボアの肉を食う同僚のマイケルが楽しそうに話しかけてくる。
 僕とマイケルのいる第三斥候部隊でも話題に挙がっていた「魔王の花嫁」がいよいよこのお城にやってくるのだ。
 第三部隊の隊長も「俺は花嫁降臨の儀に参列できるんだぜ?」としきりに自慢してきたことを思い出す。

「そうだねマイケル。隊長は今花嫁様を見てるのかな」

 どんな人間がくるんだろうねーと二人で談笑するうちに、今日の夕ご飯を食べ終えてしまった。
 僕ら第三部隊のメンバーは皆、この「ボアの塩焼き」が好きなのである。
 そのまま食べてもおいしいボアの肉を、海でとれる貴重な塩をかけて更に焼いているのだ。
 こんなにおいしいものが毎日食べられるだけで、魔王軍に入ってよかったと思える。

 食べるのが遅い僕は、他の隊員たちに置いていかれそうになりながら食器を下げに行く。
 そんな僕の様子を見たマイケルは「おいおい、そんなんじゃ花嫁さんを見のがしちまうぞ?」とからかう。
 僕らはこの後、謁見の間の方角にある宿舎に帰るために食堂を後にするわけだが、その途中に「花嫁様」を一目見れる可能性があるのだ。
 謁見の間を後にした「花嫁様」が廊下を歩いているかもしれないのである。

「ま、待ってよみんなー‼」

 僕は置いて行かれそうになりながらも、急いで食堂の出口へと向かう。
 マイケルや他の隊員たちもニコニコしながらも、きちんと僕を待っていてくれた。
 仕事終わりの夕食を取り終えた僕らは、他の魔物たちと同様に疲れた体で廊下を歩く。
 しかし、今日は花嫁様が来る日だ。
 僕らも、他の魔物たちもどこか嬉しそうにそわそわしているように見える。

「花嫁様かあ」

 花嫁様ってどんな人なんだろうとあれこれ妄想を膨らませながら歩く僕。
 当代の魔王様にも遂に奥さんができるということに、なんだかわくわくする。
 代々、魔王様は奥さんが現れてから活発に行動するようになるらしい。
 なので、魔王軍の活動も本格化してくるのかなあと呑気に考えていた。

「おい!ビッケ!前見ろ前!!」

 ボーっと歩いていた僕は、横から聞こえてくるマイケルの声にハッとした。
 目に映る景色は先ほどまでの者とは異なり、僕が部隊の先頭を歩いていたことに気づく。
 いや、違う。
 僕意外のメンバーは皆壁際によって礼をしていた。

「アドラメレク様!?それに人間……」

 目の前に宰相のアドラメレク様と見たことのない人間が3人歩いていることに気づいた。
 宰相様のような偉い方がお連れしている人間……。
 ここまで考えた時、僕は後ろの人間が誰であるか察してしまった。
 魔王様の花嫁……。

「し、失礼しました!!!」

 思わぬ失態に一瞬頭が真っ白になった僕だが、とにかく急いでこの場を譲らなければならないと思い、光のような速さで壁際に寄る。
 すると、アドラメレク様と並んで歩いていた小さな女の子が「魔物って喋れるのね」と驚いた様子で僕の方を見た。
 魔王様と同じ黒い綺麗な髪の女の子。
 彼女の目は泉のように透き通った綺麗な水色であり、僕は思わず軍の講義で習った「古の魔女アルテミシア」を彼女に映し見た。
 女の子の少し後ろにいたスタイルのいい女の人は「あらあら、可愛いわ!」とニコやかで、赤い髪の男の人は「い、犬が喋った」と驚いている。
 そして、彼女たちが通り過ぎた後に僕は大きな魔力の流れを感じた。

「これが、花嫁様の魔力……」

 魔王様のような強大な魔力ではあるが、心地よく包まれるような温かい魔力。
 それが僕の花嫁様に対する感想であった。
 僕より先に壁際で礼をしていたマイケルに「お、お前!!花嫁様と話しやがって!!」と頭を殴られる。
 他の隊員たちにも「ひやひやさせやがって!!」と怒られるのだった。

 それから少しして、礼の姿勢を解いた僕らは「花嫁様」についてあれこれ話しながら宿舎へ向かって歩き出す。
 マイケルなんかは「花嫁様ってすげえ美人だったな!!魔力もすごい綺麗だったし!!」と随分興奮した様子であった。
 確かに、芸術彫刻のような生物離れした容姿の女の子であることは僕も同意する。
 皆も似たような意見であった。
 そんな風に感想を言い合っているときである。

「ビッケーーー!!」

 先ほど聞いた「花嫁様」の声が聞こえてきた。
 しかも、なんと「僕の名前」である。
 僕は驚きすぎて目を見開いて振り返った。
 周囲の魔物たちも皆僕と同様に花嫁様を見ている。

「名前を呼んでみただけだから気にしないで!!」

 僕に向かって手を振っている花嫁様の様子を見た僕は、その記憶を最後に気絶してしまったのだった。





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