8 / 91
番外編1 魔王軍第3斥候部隊の下っ端ビッケの驚き
しおりを挟む僕の名前はビッケ。
獣人族のハウンドウルフ種の魔物によって構成される「第3斥候部隊」の兵隊の一人だ。
僕のいる第三斥候部隊は、いわゆる「偵察部隊」である。
なので、僕の仕事は「いろいろ調べること」なのだ。
「なあビッケ、今頃例の花嫁さんが謁見の間に到着してるはずだぜ!」
僕の隣でボアの肉を食う同僚のマイケルが楽しそうに話しかけてくる。
僕とマイケルのいる第三斥候部隊でも話題に挙がっていた「魔王の花嫁」がいよいよこのお城にやってくるのだ。
第三部隊の隊長も「俺は花嫁降臨の儀に参列できるんだぜ?」としきりに自慢してきたことを思い出す。
「そうだねマイケル。隊長は今花嫁様を見てるのかな」
どんな人間がくるんだろうねーと二人で談笑するうちに、今日の夕ご飯を食べ終えてしまった。
僕ら第三部隊のメンバーは皆、この「ボアの塩焼き」が好きなのである。
そのまま食べてもおいしいボアの肉を、海でとれる貴重な塩をかけて更に焼いているのだ。
こんなにおいしいものが毎日食べられるだけで、魔王軍に入ってよかったと思える。
食べるのが遅い僕は、他の隊員たちに置いていかれそうになりながら食器を下げに行く。
そんな僕の様子を見たマイケルは「おいおい、そんなんじゃ花嫁さんを見のがしちまうぞ?」とからかう。
僕らはこの後、謁見の間の方角にある宿舎に帰るために食堂を後にするわけだが、その途中に「花嫁様」を一目見れる可能性があるのだ。
謁見の間を後にした「花嫁様」が廊下を歩いているかもしれないのである。
「ま、待ってよみんなー‼」
僕は置いて行かれそうになりながらも、急いで食堂の出口へと向かう。
マイケルや他の隊員たちもニコニコしながらも、きちんと僕を待っていてくれた。
仕事終わりの夕食を取り終えた僕らは、他の魔物たちと同様に疲れた体で廊下を歩く。
しかし、今日は花嫁様が来る日だ。
僕らも、他の魔物たちもどこか嬉しそうにそわそわしているように見える。
「花嫁様かあ」
花嫁様ってどんな人なんだろうとあれこれ妄想を膨らませながら歩く僕。
当代の魔王様にも遂に奥さんができるということに、なんだかわくわくする。
代々、魔王様は奥さんが現れてから活発に行動するようになるらしい。
なので、魔王軍の活動も本格化してくるのかなあと呑気に考えていた。
「おい!ビッケ!前見ろ前!!」
ボーっと歩いていた僕は、横から聞こえてくるマイケルの声にハッとした。
目に映る景色は先ほどまでの者とは異なり、僕が部隊の先頭を歩いていたことに気づく。
いや、違う。
僕意外のメンバーは皆壁際によって礼をしていた。
「アドラメレク様!?それに人間……」
目の前に宰相のアドラメレク様と見たことのない人間が3人歩いていることに気づいた。
宰相様のような偉い方がお連れしている人間……。
ここまで考えた時、僕は後ろの人間が誰であるか察してしまった。
魔王様の花嫁……。
「し、失礼しました!!!」
思わぬ失態に一瞬頭が真っ白になった僕だが、とにかく急いでこの場を譲らなければならないと思い、光のような速さで壁際に寄る。
すると、アドラメレク様と並んで歩いていた小さな女の子が「魔物って喋れるのね」と驚いた様子で僕の方を見た。
魔王様と同じ黒い綺麗な髪の女の子。
彼女の目は泉のように透き通った綺麗な水色であり、僕は思わず軍の講義で習った「古の魔女アルテミシア」を彼女に映し見た。
女の子の少し後ろにいたスタイルのいい女の人は「あらあら、可愛いわ!」とニコやかで、赤い髪の男の人は「い、犬が喋った」と驚いている。
そして、彼女たちが通り過ぎた後に僕は大きな魔力の流れを感じた。
「これが、花嫁様の魔力……」
魔王様のような強大な魔力ではあるが、心地よく包まれるような温かい魔力。
それが僕の花嫁様に対する感想であった。
僕より先に壁際で礼をしていたマイケルに「お、お前!!花嫁様と話しやがって!!」と頭を殴られる。
他の隊員たちにも「ひやひやさせやがって!!」と怒られるのだった。
それから少しして、礼の姿勢を解いた僕らは「花嫁様」についてあれこれ話しながら宿舎へ向かって歩き出す。
マイケルなんかは「花嫁様ってすげえ美人だったな!!魔力もすごい綺麗だったし!!」と随分興奮した様子であった。
確かに、芸術彫刻のような生物離れした容姿の女の子であることは僕も同意する。
皆も似たような意見であった。
そんな風に感想を言い合っているときである。
「ビッケーーー!!」
先ほど聞いた「花嫁様」の声が聞こえてきた。
しかも、なんと「僕の名前」である。
僕は驚きすぎて目を見開いて振り返った。
周囲の魔物たちも皆僕と同様に花嫁様を見ている。
「名前を呼んでみただけだから気にしないで!!」
僕に向かって手を振っている花嫁様の様子を見た僕は、その記憶を最後に気絶してしまったのだった。
10
お気に入りに追加
1,681
あなたにおすすめの小説
お飾り妻生活を満喫していたのに王子様に溺愛されちゃった!?
AK
恋愛
「君は書類上の妻でいてくれればいい」
「分かりました。旦那様」
伯爵令嬢ルイナ・ハーキュリーは、何も期待されていなかった。
容姿は悪くないけれど、何をやらせても他の姉妹に劣り、突出した才能もない。
両親はいつも私の結婚相手を探すのに困っていた。
だから受け入れた。
アーリー・ハルベルト侯爵との政略結婚――そしてお飾り妻として暮らすことも。
しかし――
「大好きな魔法を好きなだけ勉強できるなんて最高の生活ね!」
ルイナはその現状に大変満足していた。
ルイナには昔から魔法の才能があったが、魔法なんて『平民が扱う野蛮な術』として触れることを許されていなかった。
しかしお飾り妻になり、別荘で隔離生活を送っている今。
周りの目を一切気にする必要がなく、メイドたちが周りの世話を何でもしてくれる。
そんな最高のお飾り生活を満喫していた。
しかしある日、大怪我を負って倒れていた男を魔法で助けてから不穏な空気が漂い始める。
どうやらその男は王子だったらしく、私のことを妻に娶りたいなどと言い出して――
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜
くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。
いや、ちょっと待て。ここはどこ?
私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。
マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。
私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ!
だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの!
前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。
記憶を失くした婚約者
桜咲 京華
恋愛
侯爵令嬢エルザには日本人として生きていた記憶があり、自分は悪役令嬢であると理解していた。
婚約者の名前は公爵令息、テオドール様。
ヒロインが現れ、テオドールと恋に落ちれば私は排除される運命だったからなるべく距離を置くようにしていたのに、優しい彼に惹かれてしまう自分を止められず、もしかしたらゲームの通りにはならないのではないかと希望を抱いてしまった。
しかしゲーム開始日の前日、テオドール様は私に関する記憶だけを完全に失ってしまった。
そしてゲームの通りに婚約は破棄され、私は酷い結末を迎える前に修道院へと逃げ込んだのだった。
続編「正気を失っていた婚約者」は、別の話として再連載開始する為、このお話は完結として閉じておきます。
転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています
モブはモブらしく生きたいのですっ!
このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す
そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る!
「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」
死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう!
そんなモブライフをするはずが…?
「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」
ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします!
感想めっちゃ募集中です!
他の作品も是非見てね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる