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第6話 圧倒的魔力
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魔王が声を出した瞬間、周囲の空気感が威圧的な重たいものに変わったようである。
しかし、何故か私は特に何も感じなかった。
アリシアやガウェインだけでなく、魔物たちも息を飲むように私の返事を待つ。
魔王城の雰囲気にも大分慣れていた私は、緊張することなく少し前へ出て挨拶をする。
「私はエルメリア王国リルシュタイン公爵家長女のメルヴィナ・フォン=リルシュタインでございます」
この度はお招きいただき感謝しますと、結婚式典のままの衣装でクルリとその場で一回転する。
その後に、スカートの両端を軽くつまんで一礼した。
公爵令嬢の洗練された礼の動きに加えて、虹色に輝く魔力の粉のようなものが宙に舞う。
魔王による「威圧の魔力」に呼応して出てきたのか、私からは「癒しの魔力」が幻想的に湧き出た。
周囲の魔物たちはその様子に見とれているようである。
「クックック、良いぞ!」
口角をあげて私の挨拶を褒める魔王。
彼的には花嫁として合格であるということなのだろう。
魔王から漏れる威圧の魔力も弱まり、魔物たちも「魔王の花嫁」誕生に歓喜の声をあげた。
今すぐにでもお祝いのお祭り騒ぎが始まりかねない空気感の中、魔王が再び私に話しかける。
「メルヴィナ、お前は今から俺のものだ」
きっと魔王様なりのプロポーズだったのだろう。
ぶっきらぼうなその物言いはイケメンにだけ許された行為である。
謁見の間に集まる魔物の中からも「キャー!!魔王様!!」と黄色い声があがった。
その告白を受けた張本人である私は内心少しドキッとしつつも、「いきなり何言ってんだこいつ」感が沸いてきてならない。
私の中の心のスイッチがONになった瞬間であった。
「いえ、お断りします!」
拒絶の手を前に出してきっぱりと断った私であった。
またしても場の空気が凍り付く。
「なっ!?」と頬杖から崩れ落ちる魔王と、その様子を見て冷や汗を流す黒翼の魔物。
アリシアやガウェインでさえ「えっ?断るの!?」みたいな空気を醸し出してる。
「そもそも、私は誘拐された身であり魔王と結婚する義務なんてないの。
だいたい、私は可愛い妹の結婚式を邪魔されたことに怒っているのよ!
せっかく貴族たちの集まる苦手な場所に出てきたっていうのに、めちゃくちゃにした挙句「俺のもの」だぁ?いい加減にしなさいよ!?」
怒り心頭で魔王に対してタメ口で文句を垂れる私に、周囲は唖然としていた。
人間の小娘に拒絶されるとは思っていなかった魔王も、間抜けに口を開けた状態で私の方を見ている。
そして、私の反論がヒートアップしていくにつれて、先ほどまで美しく漂っていた「癒しの魔力」がドス黒い「怨恨の魔力」へと姿を変えていく。
それは魔王の「威圧の魔力」すら気にならないほどの、膨大で凶悪な魔力であった。
周囲の魔物たちは蛇に睨まれた蛙のように硬直して、ただただ時が流れるのを待っている。
--------
それからしばらく私の愚痴ラッシュは続いたのであった。
魔族に誘拐されたことから始まり、結婚式典での不満点や、貴族達への怒り。
更には私の幼少期の出来事や、最近の政治に対する不満とかまで波及して、もう現場は何が何だか分からないカオス状態であった。
言いたいことを言い終えてスッキリした私は「あれ?少し言いすぎちゃったかな?」と申し訳ない気持ちになる。
途中からは完全に誘拐とは関係ない愚痴をこぼしていたわけだし、後でアリシアやガウェイン達にも謝らないとね。
「まずはお友達から始めましょうね、魔王様?」
ドス黒いオーラが鳴りを潜めたのを確認して、花嫁のターンがやっと終わったのかと胸をなでおろす魔物たち。
初めて自分より強大な魔力を大量に浴びた魔王様も、玉座の上でグッタリとうなだれてた。
その様子に気づいてたのか、私の隣にいた黒翼の魔物が急いで玉座へと駆け寄る。
続いて、魔族のメイドたちも魔王のもとへと走り寄った。
「・・・・・・なあ、あれは本当に人間か?」
くたびれた様子で黒翼の魔物に話しかける魔王。
「ええ、そのはずですが・・・・・・」と自信なさげに答える黒翼。
周囲の魔物達も口々に「魔王の花嫁を怒らせたらいけない・・・・・・」と近くの者と確認していた。
アリシアは「お嬢様、落ち着きましたか?」私に手を差し伸べる。
「うん、ごめんなさい、落ち着いたわ」
彼女に申し訳なさそうに答える私。
「私どものことでしたら、お気になさらないでくださいませ」と慈愛に満ちた表情でほほ笑むアリシア。
私なんかよりもよっぽど母性溢れる王妃の器である。
とりあえず、このままここにいても仕方ないので私はアクションを起こした。
「ひとまず、今日はこのお城に泊まらせてもらうわ、準備をお願いしてもいいかしら?」
私は近くにいた魔族のメイドらしき姉ちゃんに声をかけた。
すると、ビックリした様子で魔王に伺いの視線を送る侍女。
魔王から「かまわん」という返事を受け、「かしこまりました!」と謁見の間の外へと駆けていく女の子。
こうして、魔王の花嫁降臨の儀も花嫁の反逆という思わぬ形で終幕を迎えた。
しかし、何故か私は特に何も感じなかった。
アリシアやガウェインだけでなく、魔物たちも息を飲むように私の返事を待つ。
魔王城の雰囲気にも大分慣れていた私は、緊張することなく少し前へ出て挨拶をする。
「私はエルメリア王国リルシュタイン公爵家長女のメルヴィナ・フォン=リルシュタインでございます」
この度はお招きいただき感謝しますと、結婚式典のままの衣装でクルリとその場で一回転する。
その後に、スカートの両端を軽くつまんで一礼した。
公爵令嬢の洗練された礼の動きに加えて、虹色に輝く魔力の粉のようなものが宙に舞う。
魔王による「威圧の魔力」に呼応して出てきたのか、私からは「癒しの魔力」が幻想的に湧き出た。
周囲の魔物たちはその様子に見とれているようである。
「クックック、良いぞ!」
口角をあげて私の挨拶を褒める魔王。
彼的には花嫁として合格であるということなのだろう。
魔王から漏れる威圧の魔力も弱まり、魔物たちも「魔王の花嫁」誕生に歓喜の声をあげた。
今すぐにでもお祝いのお祭り騒ぎが始まりかねない空気感の中、魔王が再び私に話しかける。
「メルヴィナ、お前は今から俺のものだ」
きっと魔王様なりのプロポーズだったのだろう。
ぶっきらぼうなその物言いはイケメンにだけ許された行為である。
謁見の間に集まる魔物の中からも「キャー!!魔王様!!」と黄色い声があがった。
その告白を受けた張本人である私は内心少しドキッとしつつも、「いきなり何言ってんだこいつ」感が沸いてきてならない。
私の中の心のスイッチがONになった瞬間であった。
「いえ、お断りします!」
拒絶の手を前に出してきっぱりと断った私であった。
またしても場の空気が凍り付く。
「なっ!?」と頬杖から崩れ落ちる魔王と、その様子を見て冷や汗を流す黒翼の魔物。
アリシアやガウェインでさえ「えっ?断るの!?」みたいな空気を醸し出してる。
「そもそも、私は誘拐された身であり魔王と結婚する義務なんてないの。
だいたい、私は可愛い妹の結婚式を邪魔されたことに怒っているのよ!
せっかく貴族たちの集まる苦手な場所に出てきたっていうのに、めちゃくちゃにした挙句「俺のもの」だぁ?いい加減にしなさいよ!?」
怒り心頭で魔王に対してタメ口で文句を垂れる私に、周囲は唖然としていた。
人間の小娘に拒絶されるとは思っていなかった魔王も、間抜けに口を開けた状態で私の方を見ている。
そして、私の反論がヒートアップしていくにつれて、先ほどまで美しく漂っていた「癒しの魔力」がドス黒い「怨恨の魔力」へと姿を変えていく。
それは魔王の「威圧の魔力」すら気にならないほどの、膨大で凶悪な魔力であった。
周囲の魔物たちは蛇に睨まれた蛙のように硬直して、ただただ時が流れるのを待っている。
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それからしばらく私の愚痴ラッシュは続いたのであった。
魔族に誘拐されたことから始まり、結婚式典での不満点や、貴族達への怒り。
更には私の幼少期の出来事や、最近の政治に対する不満とかまで波及して、もう現場は何が何だか分からないカオス状態であった。
言いたいことを言い終えてスッキリした私は「あれ?少し言いすぎちゃったかな?」と申し訳ない気持ちになる。
途中からは完全に誘拐とは関係ない愚痴をこぼしていたわけだし、後でアリシアやガウェイン達にも謝らないとね。
「まずはお友達から始めましょうね、魔王様?」
ドス黒いオーラが鳴りを潜めたのを確認して、花嫁のターンがやっと終わったのかと胸をなでおろす魔物たち。
初めて自分より強大な魔力を大量に浴びた魔王様も、玉座の上でグッタリとうなだれてた。
その様子に気づいてたのか、私の隣にいた黒翼の魔物が急いで玉座へと駆け寄る。
続いて、魔族のメイドたちも魔王のもとへと走り寄った。
「・・・・・・なあ、あれは本当に人間か?」
くたびれた様子で黒翼の魔物に話しかける魔王。
「ええ、そのはずですが・・・・・・」と自信なさげに答える黒翼。
周囲の魔物達も口々に「魔王の花嫁を怒らせたらいけない・・・・・・」と近くの者と確認していた。
アリシアは「お嬢様、落ち着きましたか?」私に手を差し伸べる。
「うん、ごめんなさい、落ち着いたわ」
彼女に申し訳なさそうに答える私。
「私どものことでしたら、お気になさらないでくださいませ」と慈愛に満ちた表情でほほ笑むアリシア。
私なんかよりもよっぽど母性溢れる王妃の器である。
とりあえず、このままここにいても仕方ないので私はアクションを起こした。
「ひとまず、今日はこのお城に泊まらせてもらうわ、準備をお願いしてもいいかしら?」
私は近くにいた魔族のメイドらしき姉ちゃんに声をかけた。
すると、ビックリした様子で魔王に伺いの視線を送る侍女。
魔王から「かまわん」という返事を受け、「かしこまりました!」と謁見の間の外へと駆けていく女の子。
こうして、魔王の花嫁降臨の儀も花嫁の反逆という思わぬ形で終幕を迎えた。
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