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第5話 意外にも歓迎される魔王城にて

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「お嬢様!!ご無事ですか!?」

 転移した先で少しバランスを崩してよろける私を、隣に立つガウェインが姿勢を低くして支える。
 小さな私の身体を支えるには、背の高いガウェインはしゃがまないといけないのだ。
 彼の身体に軽く掴まって体制を整えた私は「大丈夫よ、ありがとう」と礼を言う。
 それに対してガウェインが小さく笑みを浮かべたところで、周囲から怒号のような歓声が響いてきた。

「ウオオオオオオオオオオオ!!!」

 私やアリシア、ガウェインは3人とも魔物たちから上がった雄叫びのような歓喜の声に驚きすくみあがった。
 私たちの転移先は翼の男が言うには「魔王城」であったはずである。
 つまり、今私たちは魔王城の魔物たちに囲まれているわけだ。
 前世で人気だったRPGなんかでは、物語の終盤にある魔王城には「凶悪な魔物」が集結していたはず。

「魔王の花嫁よ、臆することはありません。この者たちはあなたの登場を喜んでいるだけでございます」

 隣で執事のように立つ翼の男が、表情筋を強張らせる私に流し目で説明する。
 私を攫ったこの銀髪黒翼の魔物は、ガラスを割って登場してきた時と大分印象が違う。
 彼の話によると、周囲で叫んで騒いでいる大小たくさんの魔物たちは「魔王の花嫁」の降臨に爆アゲ状態だということだった。
 つまり、魔王の花嫁は代々「魔王の魔力に釣り合うもの」を選んできたということである。

「ゆえに、その世代で釣り合うものがいない魔王は生涯独り身というわけになります」

 魔王の婚活は、なんとも悲しいお見合い制度であった。
 魔族にも恋愛感情があるのかは分からないが、少なくとも魔王に自由恋愛は不可能であることがわかる。
 なんだか魔族も人間達とあんまり事情は変わらないような気がした。
 魔王ならもっと好き勝手にしてるようなイメージがあったけど、事実はそうでもなかったというわけである。

 感情のままに歓喜の声をあげる魔物たちも、しばらくすると落ち着いてきて、周囲の魔物同士で3人について話始める。
「あの美人の姉ちゃんが魔王様のお嫁さんか!?」とアリシアのほうを見て騒ぐオスの魔物たちや、「なによ!人間の騎士までついてきたわけ!?でも、ちょっとイケメンじゃない!」とガウェインを見て騒ぐ魔王城の給仕の女達。
 私に対するコメントはいつも通りだろうと思っていたのだが、聞こえてくる声は全く異なるものだった。

「なんだ、この心地よい魔力は・・・・」
「美しい・・・・・・」
「あの背の低い少女が花嫁に違いない!」
「魔王様と同じ黒髪だ!!」

 あれ?なんか、今までと反応違いません?
 これまでの感じだと「ちび」とか「問題児」とか「可愛いわ!」みたいになるはずなんだけど・・・・・・。

「魔物たちの美醜に対する感覚は人間とも少し異なりますからね」

 私の困惑を感じ取ったのか、隣に立つ翼の魔物が説明してくれる。
 彼の話によると、人型の魔物は基本的に人間とあまり変わらない価値観をもっているらしい。
 しかし、魔物全体が人間と異なる観点として「魔力」の美しさを評価するという。
 魔力の美しさとは、「魔力量」や「魔力の質」といった様々な要素から決められるらしい。

「あなた様は大変美しい魔力をお持ちであるというわけです」

 かつての魔女「アルテミシア」のようにと付け加える彼。
 黒翼の男の言葉によってなんだか納得した私である。
 私の中に封じ込められた強大な魔力が、魔物的には美しいということだった。
 アリシアやガウェインも十分美形扱いのようだが、あくまでも「一般人」の領域であるみたいである。
 魔物的に「魔王と釣り合う」美しさをもつのは私だけのようだった。

「そして、あなた様の魔力は特に素晴らしい!」

 隣に立つ彼が更に褒めるのは、私メルヴィナが「魔王様のような強大な魔力」でありながら「母なる大地のような温かい魔力」であることだという。
 魔物たちにも「母なる大地」とかいう考え方があるのにも驚きだが。
 イメージ的に「永遠の闇」とかを崇拝してそうな感じするけども。

 魔王が魔物たちの「父」であるならば、魔王の花嫁は「母」のような存在らしい。
 こんなちっこい女の子が「母」とか言われるとなんだか危険な匂いがするが。
 彼によると、私の魔力は魔物たちに「安らぎ」の感情を与えるという。
 なんかそこまで褒められると、少し恥ずかしくなってくるぞ。

 そんなわけで、意外にも歓迎ムードで私は迎えられたのであった。
 魔物たちが喜んでいる様子を理解したアリシアとガウェインも、手放しに主人が褒められて嬉しそうである。
 私たち3人と魔物の間にあった緊張感が少し解けたところで、玉座に座る男が遂に動き出した。
 豪奢な玉座で優雅に足を組み、見下すような視線で私を見る黒髪のイケメン。
 彼が恐らく「魔王」であろう。
 黒髪に映える美しい白い肌と、妖しく光る赤い瞳はなかなかに「魔王」っぽく見えた。

「花嫁よ、名は何と言う?」

 魔王と思しき男が、頬杖をつきながら私に声をかけた。

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