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第3話 妹シャルロットの結婚式典
しおりを挟むメイドのアリシアと騎士のガウェイン、そして公爵家令嬢の私の3人は結婚式典の会場である王城の謁見の間にいた。
巨大で豪奢な馬車に乗って王都を回る民衆向けの結婚式は既に終わっており、今は王家や貴族たちのための披露宴の最中である。
広い会場には多くの貴族達が敷き詰めており、上は公爵家のような王侯貴族から下は男爵家のものまで様々であった。
会場の中央では、貴族の子息達によるダンスパーティーが開催されている。
「お嬢様、シャルロット様とユリウス様はあちらです」
アリシアの視線の向こうには貴族の山が見えた。
おそらく、あの向こうに妹のシャルロットと王子がいるのだろう。
そのまま眺めていると、人混みの隙間から二人が見えた。
「それにしても、シャルはとても綺麗ね。本当にユリウス第二王子様とお似合いだわ」
テーブルにあった橙色のフルーツカクテルを飲みながら、幸せそうな妹夫婦を眺める私。
頬に手を当てて何とも言えない表情をするアリシアと、「お嬢様も負けておりません!」と無理のあるフォローをするガウェイン。
それに応じてか、「尊さではお嬢様の勝ちですよね」と私のほうを見るアリシア。
二人の付き人の主人贔屓の様子を見て、やや苦笑いする私。
披露宴はつつがなく進み、会場全体の賑やかさも少しずつ収束していく。
今回の新婦側である我が公爵家の席にも、次々と貴族たちが挨拶に訪れる。
公爵家ともなると、相手から勝手に席に現れるのだ。
もちろん、私の前にも多くの貴族達が挨拶に来る。
ただ、将来が有望なわけでもなく政略結婚の駒としても使えない幼女の私に、貴族たちはあまり魅力を感じないようであった。
私も王家に顔見せには行ったのだが、多くの貴族達が囲む王家の席は少々心理的に壁を感じた。
というのも、やはり「万年幼女」の私は公爵家のお荷物という評価が貴族の常識であるらしく、何とも言えない気まずさを感じるのである。
彼らももちろん表面上は取り繕っているのだが、なんともやりづらそうなのだ。
もしくは、「可愛らしいお嬢さん」という子ども扱いのどちらかである。
「しかし、この前まで私より小さかった女の子にまで子ども扱いされると、ちょっと凹むわね」
自分の席に戻ってから、一切変化しない自分の身体に対する悲しみの感情を零す私。
床まで少し届いていない脚を小さく振りながら、思わず口を尖らせて頬を膨らます。
その様子は機嫌を損ねた可愛らしい子供そのものであった。
しかし、あまりヤサグレてると主人として不甲斐ないので切り替えていく。
気分直しに食事を楽しみながら、会場の様子を見ていると王家の人だかりの中からこちらへと向かってくる人に気づいた。
そのシルエットは長身の男であり、私にとっては見慣れた人物である。
「メル!すごく可愛いな!似合ってるぞ!」
妹の結婚を期に、王家の騎士として勤めることになる我が兄ランスロットが私の席へとやってきた。
公爵家の長男は王家に嫁いだ妹夫婦の騎士となるのである。
万が一にも王家の暗殺などを企てないように、王家の騎士は新婦の親族から選出されるのであった。
なんとも用心深いシステムであると感心する。
生まれた時からずっと私を溺愛している兄は、「本当はメルの騎士になりたかったんだけどなあ」とこっそり冗談を零していた。
王子様の結婚式典でそんなことを言うな!と兄の背中を叩く小さな私の様子を一同は微笑ましそうに見ている。
そんなときであった。
「キャアアアアア!!」
壁にはめられた巨大なステンドグラスが割れる音に続いて、大勢の貴族達がいるホールの方から叫び声があがる。
一瞬、何が起こったのか分からない私たちは戸惑う。
兄のランスロットは「王子のもとに行ってくる!」とすぐに騎士として動き始めた。
それにつられて、他の貴族たちも各々状況を把握するべく硬直を解く。
「おい、なんだあれは・・・・・・」
一人の貴族が割れたステンドグラスの方を指さす。
人々が彼の見る方に注目すると、そこには漆黒の翼で宙を漂う人型の魔物がいた。
明るく光る満月をバックに、複数の部下を連れ添って佇む魔族の者はこちらを見て「ほう」と声を上げる。
会場に集う者たちが「ゴクリ」と息を飲んだ。
一呼吸の後、魔物たちは王家と公爵家の座る檀上へと飛んできた。
「なっ!魔物が飛来するぞ!!」
周辺を警護していた騎士達の反応は遅く、魔物たちは私たちの席の前の人のいない空間に降り立つ。
そのとき、会場の空気が一気に冷たくなったように感じた。
魔物たちに刃を突き立てられたかのような緊張感があたりを支配する。
そして、会場の止まった空気の中、その中心に立っている黒い翼の魔物が動き出した。
「魔王様に釣り合う美しき者を迎えに来た!」
なんとタキシードを着た銀髪の黒い翼の魔物は、会場に響き渡るような声量で堂々と「王女誘拐宣言」をしたのであった。
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