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運命の講義
しおりを挟む二日後、講義に体験参加する日がきた。
「はぁ、ついにきてしまった。この日が……」
私が社会心理学に興味を持っていたのは本当だ。しかし、みのりんペースに持っていかれた“恋愛心理学”には全く興味はなく……というよりも、そういう学科の存在自体を知らなかった。
――恋愛経験もない、恋をした記憶もない私が。
(場違いだよ、完全に)
この二日間、その事実が頭に過ぎるたびに不安な気持ちと憂鬱な気分を呼ぶ。そんな時に限って見上げる空もどんより雨でも降りそうに、曇った感じなのだ。
「雨、降らないといいな」
(これ以上、落ち込みたくないから)
「ふわりぃ! やっとこの日が来たぁ。ワクワクだねぇ」
「あはぁ、うーん。そうかな……」
(なんだろう、この気持ち。なんだかそわそわしちゃって、緊張する)
私が感じたこの不思議な気持ちは、これから起こる椿事への、知らせだったのかもしれない。
◇
教室に着くともうたくさんの生徒が着席していた。
「しまったぁー! 早めに来たつもりだったのに、もう前の席は取られちゃってる」
「大丈夫だよ、実乃里ちゃん。ほら、マイクあるし。後ろでも聞こえるよ」
「ぶぅー!」
「あっはは、もぉ~変な顔」
きっと私は気持ちが顔に出るタイプだ(今更だけれど)。
ふと、彼女に気を遣わせているかもしれないとちょっぴり申し訳ない気持ちになる。
「ねぇ、実乃里ちゃん。ごめんね?」
「あらあら、ふわりちゃんてばどうしちゃったのかしら?」
「いや、実はずっと『恋愛心理学』かぁ……って。経験もないのに」
そこまで言ったところで両手をガシッと掴まれた私は、実乃里ちゃんの真剣な顔に圧倒されていた。
「何言ってんの、ふわり! だからこそ! だよッ」
「う、ぅへ~……」
「そして私も!! 今後のためにぃぃぃー!!」
「ぅは、はぁ~……そうなのね、はははぁ」
これはまさか、先に実乃里ちゃんの恋愛講義が始まってしまうのではないかとひやひやした私だったが程なくして、心理学科担任の先生が話す声が聞こえてきた。
「はーい皆さん、揃いましたか? 時間ですので、始めますよ」
それを合図に、ザワザワとしていた教室は空気がピシッと引き締まり、静かになる。
「では本日の講義は、心理学研究所の方を講師でお招きしています」
ガラガラ――。
「キャ! 綺麗」
「まだ若いよね?」
「髪色、見て!」
(本当だぁ。キラキラしてて、すごく――)
「……ぇ」
「ふ、ふわり! あの髪色、もしやのもしや!?」
コクン、こくっ、コクッ。
「キャーん!? ふわり!! なにこれぇ、運命的じゃんッ」
――嘘、信じられない。
「ぅん……会え……た」
扉を開ける音と同時に舞い込んできた、柔らかな風のような雰囲気。今、自分の視界で一体何が起こっているのか? と、突然の出来事に私はそれ以上言葉が出ず、実乃里ちゃんの問いかけにも私はただ頷くばかりだった。
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