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出会い

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 初恋とは。
 生まれて初めての、恋。

 初恋とは。
 人生における初めての、恋。


――初恋って?

「私はそういう気持ちになったことが、ない」



 四月の始め。お気に入りの場所である並木道は今、大好きな花が咲き誇る。途中立ち寄ったカフェで買った温かい珈琲を片手に、可愛い桃色の桜アーチを、ゆっくりとお散歩する。

「んん~! もうすっかり春だぁ」

 あったかい風が心地良く感じる季節。ぽかぽかと春の陽気に包まれ気持ち良くなった私は、両腕を空へ向けて大きく伸びをし、胸いっぱいの深呼吸をした。

「ふぁぁぅ~……あーあれ。なんだか雲が淡い感じ……青空が透けて見えちゃいそう。うふふ」

 見上げた空に浮かぶ雲は、薄くたなびいて。優しい春風に吹かれよろこぶ桜の花びらたちは、楽しそうに舞い踊る。

 歩く道――そこは一面、あの白い雲と繋がるようなあわい春の色をした絨毯じゅうたんの世界だ。

「「綺麗だぁ」だな」

「「えっ?」」

 美しい景色に思わず呟いた声が、誰かと重なる。
 驚いた私はゆっくりと、横を向いた。

「――ぅ」
(っわぁ……すごく綺麗な人)

 隣には満開の桜が似合う美しい人が立っており、そのつやのある金色こんじきの髪は木漏れ日にキラッと光り、なびく。

(まるで物語の世界から、出てきたみたいな)

きみ……」

 心奪われ言葉を失う私はその人が発した声でハッと、我に返った。

「綺麗、だ」

「エッ? あぁ、ハイッ! とても綺麗な桜……」

 スッと伸びる美しい指先が、髪に優しく触れる。

「――っ!!」

 それからフワッと微笑びしょうし「花びらが髪に」と言葉少なに言い、去って行った。

「し、心臓が、止まるかと」

 それは人がいて驚いたのではない。出会ったその人が陽の光を浴びて微笑む“天使”のように見えたからだ。

(あんなに綺麗な人が、この世にいるなんて)

「夢……だったのかな?」

 それから家に帰ってからも。お風呂に入っていても、眠ろうと目を閉じてみても。私の頬は熱くずっと、ずーっと脳裏から離れない“天使みたいな人”。

 花びらを取ってくれた時の表情が忘れられない。

「そして、眠れない」

 カーテンの隙間から見える星を見ながら、あの美しい指先が触れた髪を自分でも手櫛で撫でてみる。

(なんだろう、この変な気持ち)

「ん……」

(胸がきゅーッと、痛むみたいな)
 ――今でも考えると、ドキドキしちゃう。

 これは私、夢咲ゆめさきふわりが大学三年の春に、生まれて初めて経験した、不思議なやまいである。

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